災害指定討伐依頼③
「全く、とんでもないことをしたな?」
「俺の主動じゃないぞ。というか知っている筈だが?」
「それはそうだが、それでもあそこまでするとは思っていなかったのでな」
「元より国王を相手に敬う気持ちなぞないからな。この国で生きていく上で逆らうのが悪手だというのが分かりきっていたから敬うような態度を取っていたというだけに過ぎないからな」
「そうだったのか?」
「そうだ」
王城の道を後ろから追いかけてきた騎士団長と話しながら歩いていく。軽口で仲の良い友人と話しているかのような雰囲気で、先程までの話し合いの場からは考えられない空気感で軽い足取りで歩いていく。
「それにしても、あれで良かったのか?」
「うん? あぁ、ただ利用されるだけの人間じゃないという証明には十二分になっただろうと思うぞ。少なくとも陛下は要求は通すしかないだろうな」
「そうか...ところで素材はどうする? 生憎武具に大して頼って来なかったからそういう場所に伝手が無いし、そんなに沢山素材を掻き集めたところで使わなければ無駄になる気がするんだが?」
「そこは、お前たちの方で話し合ってくれ。こちらとしては陛下の手元に災害指定の素材が集まることにならなくて済んだだけで十分だ。処理に困るようだったら言ってくれ、個人の繋がりではあるが腕と秘匿性が保証できる鍛冶師を紹介しよう」
「……そうか」
先程の依頼に関しての交渉、その二つ目の素材に関しては俺の懐に全部入るようにしろと俺に指示を流してきたのは今は拠点となっている屋敷で待機しているステラと隣を歩いている騎士団長である。
より詳細に言うと依頼を受けて報酬を要求するならば具体的な報酬を要求して来い、ついでに傲岸不遜というか国王の事を舐め腐っているみたいな態度で話してこいと言って来たのがステラ。そこに後追いのように災害指定の討伐した魔物の死体というか素材が国王の手の中に入らないようにしてくれ、場合によってはそれが通るように協力しようと言ってきたのが騎士団長である。
そういうことで昨日の夜、ステラと騎士団長を交えながらどういう感じで依頼を受けてその報酬の交渉を行うのかというのを話し合い...その結果がさっきの話し合いの場の光景である。俺がもっと話術に長けているのであれば態々態度を崩すことなく敬っているような態度のまま、何時でも首輪を噛み千切って喉元を喰い千切れるというのを隠して伝えられたかもしれない。
残念だがそんなことが出来るだけの話術なんて身に付けていないので、雰囲気と態度で舐め腐っているというか国王と対等の立場にいるような感じを出した。ステラは最悪の場合は依頼だけ聞いて要求を一方的に叩きつけるだけ叩きつけてから撤退してきても良いとは言っていたので、まぁ場を支配して要求をしっかりと押し付けられたのは上出来なんじゃないのかなとは思う。
「しかし...あれで大丈夫か?」
「何がだ?」
「不興を買って俺が追い出されたりするのは問題ないんだが、故郷にいる両親とか知人たちが拘束されたり人質にされたりしないか?」
迎えに来られた関係上、俺の故郷の場所は把握されているからな。逆らえないようになんていうことで両親や知人たちを人質にされるのは流石に申し訳が立たない。
別に人質に取られた程度なら殺されるよりも先に拘束している奴らを殺せるし、国の上層部を消し飛ばすことが出来るんだが...大した親孝行も出来ていなければ顔を出しに行くことすら出来ていない。それに働き手があまりいなかった中で俺が連れ出されて予定だのなんだのがズレただろうしな、故郷全体で見ても色々と迷惑を掛けてばかりだからこれ以上の迷惑は避けたいんだがな。
「そこは安心してくれ。十数人程度魔王軍による人質を避けるという名目で私の直属の部下たちを配備しているからな。国王の命令だろうが何だろうが故郷の外に人為的に連れ出されないようにしているし、異変があればこちらに連絡があるようにしているからな」
「……それは、良かった」
「うむ。無辜の民を犠牲にするわけにはいかんからな」
騎士団長がそういうなら信じても良いだろう...数日程度の付き合いでしかないがファナの父親なだけはあることを十二分に理解させられた。他人に対して善であることを強制したりしないが、その代わりに自分自身は何かのための善であろうとしている子煩悩な父親。その在り方を歪めることはしないし、子供に対して大っぴらに出来ないような後ろめたいことをしたりはしないだろうしな。
「そういえば、なんだが」
「どうした?」
「今後国王とのパイプ役になってもらうが大丈夫そうか?」
「あぁ、問題はない。問題はないが、ファナを使っても良いか?」
「? ……あぁ、なるほど。ファナを通じてということか」
「そうだ、別段私が直接通っていても仕事が増えるといった方面での問題がある訳ではないんだが...不要な勘繰りをされかねないからな」
「不要な勘繰り?」
「うむ。ファリティア家とそちらはそういう意味で仲が良いとか、ファリティア家は囲い込んで力を手に入れようとしているとか、次の時代を担う人間として最有力候補に取り入ろうとしているとか...まぁそんな感じだ」
「……そうか、そうなるのか...まぁ事情は分かった。ただ出来ればファナに内容を伝えるのじゃなくて、内容を書いた紙を持たせてくれ」
「む? そこまであいつも馬鹿ではないと思うが?」
「違う違う、見返して予定を立てるためにだ。そのためにこの紙も貰って来たことだしな」
「あぁ、なるほど。早とちりしてしまったな、すまない」
「大丈夫だ」
実際俺とファナの二人だけならばその方式で共有できるし、予定に関しては俺が立案して実行に移せばファナはダメだとは言わないから良かったんだけどな。仲間が増えた今の現状でそれは出来んだろうし、情勢だの立地だのに関しては俺よりもステラとかルルとかの方が詳しいだろうからな。俺の独断で決めるよりも良い具合に考えて意見を出してくれるだろうから話し合うためにも必要だしな。
……まぁ、ファナが聞いて戻ってくるまでに忘れるという可能性が頭を過ぎらなかったといえば嘘になるんだが。だって一度落ちた落とし穴に引っ張り上げた数分後に落ちるというのをこの目で見てしまったからな。
「それじゃあ、こっちでの面倒事は任せた」
「任されよう。その代わりに死なないようにな」
「当然、まだ死ぬつもりは無いからな」
********
王城を出て貴族街とスラムの両方から離れた場所にある住民地区、その最奥部で城下町を覆う壁に密着した場所にある十数人が住んでも余裕がある屋敷。そこが今の俺たち王国にいる間は利用する予定である活動拠点にして家である。
立地としてはかなり悪い。食材とかが売っている表通りからは遠いし、呼び出される機会が多くて呼び出されたら行く必要がありそうな王城からも遠い。それに住民地区が近くてその上で割かし見た目は豪華な屋敷であるので注目を集めるし、通常城下町を出入りするのに必要となる二つの門からは結構な距離がある。
利点としてはファナの実家とは壁を伝って行けばすぐに辿り着けるというのと、密着している壁の上部分に騎士が駐屯している櫓があるので門を乗り越えて外に出られるということぐらい。あと貴族街からも遠いということもか。
何故選んだのか? 大人数が住んで騒いでも問題はなく、面倒な連中に絡まれ難い場所に建っていて、尚且つ一番安かったのがこの屋敷だったからだ。まぁ買い物が遠いというのも今の面々の身体能力を考えると大した事はないから言うほど気にならない。何の道楽なのかは知らないけど一定の低温を維持し続ける食糧庫とか色々あるから面倒だったら大量に仕入れてそこらに保存しておけば良い話だからな。
とまぁ、それはさておいて
「……という感じだ。向こうの答えは騎士団長が持ってくる予定だ」
「なるほどぉ...悪くはないと思いますよ。ただの首輪を付けられて従順に動くだけの犬ではないというのを示せたでしょうし」
屋敷に戻って玄関から一番近い部屋。外から戻ってすぐ利用することになるだろうということで会議室に決まった部屋の中でステラと話す。
内容は簡単な報告会。俺の方は先程までの王城までのことを、ステラの方は討伐に当たって必要となる武具や消耗品の準備の経過を報告し合う。これだけならば態々会議室を利用しなくてもいいんだが、受け取った災害指定の所在等々の書かれた紙の中身を共有しておく必要があるので利用する。あとついでに地図に何処にいるのかというのを書き足しておいてこの場所からの距離等を把握しやすくしておく。
「ならいい。そっちの準備はどうだ?」
「概ね完了しましたよ。最高の準備が出来たとは言えませんがそれでも問題なく戦えるだけの準備は出来ましたし、長距離を移動するために必要となってくる物資の方も整えられましたからね」
「良し。移動手段はどうなった?」
「徒歩ですねぇ。馬車の御者が出来るのがいなかったというのもありますけど、災害指定の討伐に赴いた場合に馬が逃げるという可能性がありますから。魔法袋が複数個用意出来ましたから荷物が嵩張るのを避けれますし、身体能力に体力の面から考えても徒歩で移動しても問題ないと合意が取れましたから」
「なるほど...」
「用意しましょうかぁ?」
「いや、いい。大丈夫だ」
一応馬車の御者のようなことはして来たから出来るには出来るんだが...荷物を手軽に出来て体力が持つのならばそれでいいだろう。実際あれは安定しないとこに座ることになって体の節々が固まって、動く前に解す必要がどうしても出てきてしまうからな。慣れれば大したことがないんだろうが、五年弱続けても慣れなかったから根本的に俺は合わないんだろう。
仮に疲労が溜まったとしても接敵圏内に入る直前に少し長めの休息を取ってから入れば大丈夫だろうし、最悪は俺とファナと戦える奴が出向いて交代しながら戦っていけばいいだろうしな。
……取り敢えずしばらくの間は災害指定と接敵するまではステラたちに戦わせて、接敵してからは俺とファナが前に出て戦うという感じにするか。一人で交戦出来るだけの力を持てていないしな、武具が揃って来て力を付けてきたら手頃なドラゴンでも引っ張って来て確認してみれば良いか。
「それで、何時出発しましょうか?」
「時間が微妙だからな...この後騎士団長から報告があれば明日の朝、なければ遅くなったとしても三日後の朝だ。そこの壁の上を登って櫓の中に居るであろう騎士に外に出るという報告をしつつ向かうぞ」
「分かりました。最初の相手は?」
「リオの依頼で敵討ちの相手、平原のデッドイーターからだ」
「まぁ、ですよね。伝えても?」
「良いぞ。むしろ相手の事が分からなければ何ともならんから共有しておいてくれ」
「分かりました、あなたはこの後どうします?」
「櫓の騎士にここを使って出入りをするというのを伝えて来る。あとついでに交代の時に共有してもらうというのと出ていったあと検問の騎士と騎士団長に伝えてもらうというのを頼んでくる」
「あぁ、確かに重要ですね。では報告会はこんなところで」
「あぁ、じゃあ行ってくる」
「はい。行ってらっしゃいませ」
※※※※※※※※
・災害指定相当の存在の素材で作られた武具はどれも一騎当千の力がある。具体的な例えで言うと魔王軍幹部の一匹であるフロニスの心臓は杖の素材として加工した場合、魔法の威力を最低でも五倍以上に底上げするだけの力がある。
・主人公は武具に頼って来なかった
・主人公の討伐した魔王軍幹部、その死体から取れた素材の行方がはっきりしているのは五体だけ。
余談
主人公は当初王族や貴族への対等な発言権を要求する予定でした。いついかなる状況でも王族や貴族に対して対等な立場からの発言が出来る権利を要求する予定でしたが、それを相談したステラと騎士団長から英雄以上の首輪を付けられたり面倒なことになるということで断念して今回の要求になりました。
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