災害指定討伐依頼②
「あぁ、勿論何が欲しいのかなんて言うのは此方から提示するさ」
張りつめた空気感の中で存分に気持ちを落ち着かせながら、椅子の背もたれに体重を預けて薄く笑みを浮かべながら飄々とした感じで言葉を放つ。
しっかりと聞こえるように、だが会話をしているようでしていない、そんな感じで頭の中に用意してもらったシナリオ通りの言葉を吐いていく。
「当然だが、多少の無理は押し通らせてもらうぞ? なにせ魔王軍に次ぐ国を滅ぼし得る存在である災害指定の討伐、それも大規模な国が主体となった作戦ではなく一個人とその仲間による突発的な討伐作戦なんだ。それぐらいの要求は許されるだろ?」
国王の、第一王子の、宰相の言葉を待たずに畳み掛ける。災害そのものが姿形を変えて明確な意思を持って動く災害、それが災害指定であり並大抵の手段では殺すことどころか押し止めることも逸らすことも困難な怪物。それが災害指定の魔物。
まぁ正直な話、別段災害指定を殺すだけならば正直なところ面倒ではあるが死にはしないから別にそこまでしんどいわけではない。魔王軍幹部を相手にする方が雑魚は多いし一匹一匹面倒な特性を有しているし、魔王軍幹部最強を自称していた最後に戦った奴なんて一度失敗すれば死んでいたくらいの相手だったしな。
それはそれとして、報酬は要求する。面倒だし死にはしないとはいっても倒すまでに時間と手間は掛かるし労力も掛かっている、それに俺は耐久の方面が優れているわけじゃないから多分負傷することになるだろうからな。治療費とか消耗した物資の補給費とかは補わないといけないし、壊した武具の補充とかもしないといけないとかそもそも最初から依頼という報酬が生じる形なんだからとか、まぁそんな感じで報酬の要求は必要だろうという判断があった。それに対して賛成してくれた奴もいるし、最低限これだけは要求するか押し通してこいなんて言われたからこの場を支配する。
「とは言ってもだ、何も別に俺はこの国を滅ぼしたい訳じゃあないし、支配者として統治したいという訳じゃあない。だから別に国庫を困窮させるだけの金を出し続けろなんていうのは要求しないし、王女を寄越せだとか爵位を寄越せだとかそんなことを要求したりはしないさ」
まぁ、英雄という称号以上の首輪になるし邪魔以外の何物でもないからな。
「だからこっちからそっちに要求するのは二つだ」
指を二本立てながら額に汗を浮かべて静かに此方を見ている国王の目に視線を合わせる。この状態で視線を合わせられたら揺れ動いたり逸らしたりする気がするんだが、そんなことはなくジッとこちらを見続けているのは流石は国を動かす統治者といったところだろうな。同じ状況なら俺は多分視線が揺れ動かすと思うしな。
「一つは金。討伐対象に懸賞金を掛けろなんて訳じゃない、こっちが討伐に当たって消費した物資の補充費用、受けた傷を治療するための費用、それから討伐するために使った労力を補うための費用を補填してもらう」
「あぁ、勿論ふざけた金額を要求したりしないさ。何百億何千億なんていう金額を使って討伐するような相手じゃないし、そんだけの金を動かした所で塵芥に代わって溝底に捨てるよりも遥かに無意味な使い方だからな」
「そうだなぁ...多くても十億程度だ、格段に安いぞ。冒険者ギルドでの依頼だと成体のドラゴン一匹を殺す程度の金で国を亡ぼす災害を除去できるんだからな。この程度ならばそちらにとっては大した痛手にはならんだろう?」
実際、十億を十回二十回支払って国の情勢が崩れるなんてことがあるなら、それは最早風前の灯火に過ぎないだろうからな。そんな状況なら民衆は困窮しているし国は荒れに荒れて乱れに乱れる事になっているだろうし、そうなってたら俺は多分態々こんな席に着いていないで国内の魔族を殺して災害指定も殺しているしな。
まぁ小さい国ならばあり得ないこともないが、この国は紛れもない大国でありそれに相応しいだけの資産が国庫の中に溜め込まれている筈だしな。
「だからこそ、二つ目の方を優先させてもらう。してもらうではなくさせてもらうだ、これが通らないのであれば俺は災害指定の討伐の一切を行わずにこの国を離れて何処か遠くへと立ち去らせてもらう」
……この言葉が最大の脅し、というのを聞いてはいたがいまいち信用出来なかったんだが事実らしい。国王の表情は変わっていないんだが、後ろに立っていた第一王子と宰相の顔から血の気が引いて首筋を汗が流れ落ちていっている。
この表情はあれだ、以前落とし穴を用意してその中に大量の魔族と魔物の物量で俺を殺そうとしてきた最高位魔族の前に這い上がった時に似たのを見たな。まぁあの表情は血の気が引いたというかショック死しているみたいな顔だったけどな、普通に生きてたからスッと殺してやったが。
「あぁ、安心してくれ第一王子殿宰相殿。なにも問答無用でそんなことをするというわけじゃあないからな、そちらがこの要求を一切呑むことが出来ないと言い切って一切合切の交渉を断るというのならそうなるというだけだ」
安心させる意図は別にない、むしろ脅迫の方が強いな。要求を呑むか或いはこちらが有利であるように譲歩しろ、それが出来ないのであれば躊躇いもなく実行に移すぞとそんな意図を込めて言葉を吐き出す。国王の表情は変わらない。
「それでだ、二つ目の要求は俺が殺した災害指定の一切合切全ては俺の物にさせてもらう。そっちに売却したりする事もあるかもしれんが、基本的に殺した素材の全部が俺の物として俺の懐の中に入れさせてもらう」
サラッと要求を吐く。パッと聞いただけではそこまでの脅しになるのか、態々その要求を断ったり譲歩するような内容なのかと思えるような内容。血の気が引いていた表情していた第一王子と宰相も何故その程度のことを?なんて聞きたそうな顔色は悪いままだが表情に浮かんでいる。国王は何かを悟ったのか目を見開き、目の中には動揺を基準に色んな感情が入り混じった複雑な感情が浮かび上がっている。
実際その通りだと俺は思ってた。
一つの可能性が思い浮かぶまでの話だが。
確かに魔物の素材は武具や薬の材料になるし、その素材の元となった魔物が強力で強大であればあるほど強い武具や効能の良い薬が出来上がる。災害指定と呼ばれるになるまで成長した魔物の素材ともなればとんでもない武具が完成することになるだろうな、それこそ聖剣に勝るとも劣らないだけの武具が作り上げられるだろうな。薬にしたとしたら本の中にしか残っていない死者蘇生の奇跡を引き起こすソーマ、一種の不死性を生命に与えるエリクシル、老いを超克し生命を不老にする霊薬、これらを今の時代に再現して作りだすことも可能だろうな。
まぁそれ成し得るだけの技術が今の時代に存在しているかどうかは定かではないし、技術があったとしても素材一つだけではどうにもならんだろうけどな。それを横に置いてただの武具の素材や薬の素材に使ったとしても、従来の武具や薬なんかよりも遥かに高性能な代物が十数人分くらいは用意出来るからな。
言ってしまうが大した被害もなく殺すことが出来てその上でその素材を回収できて武具に作り変えられたのならば、その時点で他の国と大きく軍事力或いは国力の面で大きな差を付けられるだろうな。それを一国の主が悟れない筈がないだろう。
「まぁ、別枠で殺してくれって頼まれているのが一匹いますからね。このまま俺たちはそれを殺しに行ってきますから、よく考えた上での結論を騎士団長を通じて持ってきてくださいね? では失礼しますね」
沈黙したままの三人を置いて立ち上がり、そのまま回答を聞くことなく部屋の扉を開けて部屋の外へと短い挨拶程度だけで出ていく。本来ならば回答を待ってそれを聞いた上で色々と決めて、それから国王と第一王子と宰相の三人が外に出ていくのを待ってから部屋を出るべきなんだろうが...まぁいいか。
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