災害指定討伐依頼①
「此処でいいのか?」
「あぁ、本当は陛下の執務室でする予定だったんだが。あそこには今国家機密を含めた色んな情報が散乱しているからな、流石に国家に属している訳ではないお前を入れるわけにはいかないんだ。じゃあ俺は陛下と宰相を連れて来る」
「分かった」
裏市場に潜んでいた魔族たちを皆殺しにしてリオたちを仲間に引き入れてから七日、装備を整えたり家を買ったりと色々していたら騎士団長から呼び出されたので王城へと一人で向かった。
呼び出した理由は俺への依頼、おそらくその内容としては災害指定の魔物に関する話だろうな。大方すぐに討伐して欲しい相手、国の方で対処が可能な相手、自壊を促す相手等々の方針が決まったんだろう。
だがまぁ、取り敢えず報酬の話に関してはこっちから通しておかないとな。首輪は付けられたが飼い犬に成り果てるつもりは毛程もないからな、場合によっては依頼を受けないとかこの国を出て行くとか言えばいいだろう。実際その通りするかどうかは兎も角として。
「……さて、どうするかな」
問題があるとするならば、現状で特に欲しいものが存在していないということだろう。金を貰ったとしても装備を整えるぐらいにしか使わないし、食料を貰ったとしてもそこまでの健啖家がいるわけでもないから大量にもらうことも出来ないしな。
…………取り敢えず金でいいか。過剰にありすぎたら困るだろうけどある程度持っている程度なら困らないだろうし使い道を誰かしらが見つけられるだろう。そこに合わせて言われた通りの報酬を要求する形で。
「すまぬ、待たせたな」
「いえ、大丈夫です」
立ち上がりながら入って来た国王の言葉に返事をしつつその後ろに続いて入って来た二人に頭を軽く下げて挨拶をしておく。
「さて、こうして貴殿と気を緩やかに話せる時間はそう簡単に用意出来ない故に大切にしたいが、残念なことにゆっくりしていられるだけの余裕がない」
「えぇ、把握しています」
小さく簡素な話すためだけに用意された一室。そこで国王と向かい合った状態で座り、国王は一枚の紙を机の上に俺が読めるように置きながら話し始める。
国王以外の人間はというと、騎士団長は俺の後方で宰相とあまり憶えていないが確か第一王子で王太子なはずの青年は国王の後ろで立っている。
全員が席に着いていないということはそこまで長話をするつもりがないということの表明だろうからそれは良い。ただ国王より年齢が上だったはずの宰相が非常に濃い隈を作っているのは少々怖いというか、この国の上層部は大丈夫なのかと心配する。
「これは現時点で把握している災害指定の魔物の所在と元になった魔物の種類だ」
「なるほど...現時点での把握ということは、これに載っている以外にもいるということですか?」
「うむ。まだ噂の段階だけの報告もあれば発見した後に再度確認に向かった時には自壊していたのもおる。それ故にそこに書いてあるのは生存が確認されていて尚且つ自壊の兆候が見えぬものだ」
「なるほど。確認します」
机の上の紙を手に取って所在と元になった魔物の種類を把握する。書いてある数は六匹で所在としてはバラバラな位置にいるようである。
一匹目はデッドイーター、所在は平原にある獣人の集落が存在していたとされる位置の近辺。おそらく此奴がリオの依頼の相手だろう。
二匹目はレイジングブル、所在は雷雨の渦巻く高原のクレーター内部。餌として草や土ではなく雷を取り込んでいるらしい。
三匹目はワイバーン、所在は王城から西にある大峡谷の内部。片方の翼を欠損しており飛行することが不可能であるとの推定。
四匹目はナイトビートル、所在は南部にある大森林の中央に存在している大樹。樹液を啜るのではなく大樹そのものを貪り続けているみたいだ。
五匹目はオークオーガ、所在は東部の海に程近い場所にある廃砦。周辺の魔物たちを支配下においてその肉体か或いは獲物を献上させている模様。
六匹目はブレイズボア、所在は火山の火口内部の深層付近。場所が場所故に詳細な地点は不明だが火山の内部にいるのは確実であるとのこと。
こんな感じだな。この中でも立地的に面倒なのはワイバーンとナイトビートルとブレイズボアの三匹、視界が悪く戦闘場所が安定しないし何より三匹がいる場所は異種族が生息領域であるはずなので下手なことは出来ない。
大して楽なのはレイジングブルとオークオーガの二匹。どっちも場所が楽だろうしレイジングブルは単体だから対処が楽、オークオーガもあの付近の魔物なら一薙ぎで消し飛ばせるだろうから大した脅威にはならないしな。
まぁ一番最初に殺しに行くのはデッドイーターだがな。リオの依頼というのもあるんだが、それ以上にデッドイーターという魔物を放っておく危険性の方が無視し切れない問題がある。どんな魔物かと言われればアンデッド版のローパー、生者を喰らってアンデッドに変化させて支配下に置くという魔物。
小型というか普通の大きさ程度ならば放っておいていい、食える大きさに制限があるし大量に支配下に置いたとしても小型のアンデッドに過ぎない。問題なのは山のような巨体であるという点、それだけの大きさでその上獣人の集落をすべて食い尽くしているということを考えると支配下のアンデッドの数も規模も桁違いだからな。
「……なるほど。これら全部ですか?」
「うむ」
「なるほど、なるほど...大峡谷に大森林、それから火山に住まう異種族との接触は出来ていますか?」
「大峡谷の有翼人に大森林のエルフとは接触が出来た。災害指定に関しても知覚しており脅威であると認識しているが、無意味な犠牲を出すだけになるので抵抗出来ていないというのが当人らの話だ」
「なるほど...」
……抵抗出来ていないとは言うが、追い込まれているとは言わないんだな。そうなってくると獣人の集落のように滅ぼされるという可能性を考慮して迅速に対応する必要というのはあまりないだろう。火山の方が少し不安になってくると言えば不安になってくるが...知り合いはいないからそこまで焦る事はないだろう。火山に生きている異種族に関しても多少の火山活動ならば対応出来るようにしているだろうし、明確な活動を示していないというのも考えるとおそらく大きく問題にはならんだろう。
「騎士団の方で対応出来るのはいますか?」
「おると言えれば良かったんだがな。魔王軍への対応をしなければならぬし、災害指定なりかけの魔物の対応をせねばならん。多少ならば人員を回せはするが、討伐が出来るだけの人員は配備出来ぬな」
「なるほど...分かりました」
まぁそれなら仕方ないな。魔王軍というか魔族への対応に関しては頼りにしたというか押し付けているから俺にも原因があるにはあるしな。
ただ...なりかけも存在していてそれを対処しているというところは引っ掛かるな。
災害指定はそう簡単に誕生しないし育ち切らないのが普通だ、そんな存在が既に自壊して死んでいるのも含めて多数出現している。なんならそのなりかけすらも出てきているということは何かの手によって作りだされている可能性がある?
………いや、下手な想像は止めておこう。
良い理想的な想像は実現しないが、最悪で悪夢的な想像は実現する事の方が多いからな。それに可能性があるにしても最悪な事態は頭の中に置いておかない事の方が精神的に安定するからな。
「それで、請け負ってくれるか?」
「えぇ、それは勿論。ただかつての日々のように戦い続けるというのは難しいです、新しく道を共にする仲間も増えた事ですからね」
「うむ。それは重々承知しておる」
「助かります。それからもう一点、同じようにかつての日々のような生き方は出来ない部分があります」
「…なんだ?」
息を吐き、国王を敬うという取り繕いを削ぎ落し、以前何処かで見かけた傲岸不遜を極めた男のような雰囲気を模倣していく。
それから少し、溜めて言葉を放つ。
「報酬が必要だ、無ければ討伐はしない」
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