仲間集め epilogue

「えー、集いし仲間に祝福のあらんことをー...でその次はなんだ?」

「この巡り合わせに感謝を込めて、だったはずだ」

「じゃあ改めて。集いし仲間に祝福のあらんことを、この巡り合わせに感謝を込めて。はい乾杯」

「乾杯」

「くふふっ...乾杯」

「「「……」」」プルプル


 ファリティア家の一室でありファナの自室で各々の好きな飲み物を注いだ俺を含めた六人が集まり乾杯の挨拶と共にその飲み物というか酒を飲んでいる。

 あんなぐだぐだした挨拶から始まった酒と食事の席、平然と飲んで料理を口に運んでいるのは俺とファナだけで、ステラは最初に一口飲んでから笑いを鎮めようとしていてリオを筆頭にした獣人三人は一口目すら飲むことも出来ずに顔を背けて笑いを堪えている。


 早く笑いを飲み込まないと、夕食がなくなるぞ?


「はーー、やっと収まりました」

「ふーっふーっ...流石に反則すぎる」

「笑うなら大笑いすればいいだろうに。そもそもそんなに面白かったか?」

「そうだな、ただフェルノの珍しい綺麗な笑顔と驚くほど感情の籠ってない棒読みが混ざっていただけだぞ」

「「笑うに決まってます(る)!!」」

「「おぉう」」


 息ぴったり。


「まぁその文句に関しては後で聞くとして...こうして俺とファナの二人だったところに新しく四人の仲間が入ってきて、それでこうして落ち着いた状態で食事の席に着くことが出来たから一先ず各々自己紹介でもするか」

「ありだな。何を話せばいい?」

「名前と年齢、あとはどんな役割を担うのかというのと対貴族向けの堅苦しい対応が出来るかどうかとかだな。それ以外に言いたいことがあれば言ってくれて大丈夫だ、酒の席だし無礼だの何だのを言うつもりも無いからな」

「分かった、じゃあ誰から行く? 私たちからか?」

「その方が良いだろう。俺がやってその次な」

「あぁ。ではその間に酒の追加を頼んでおこう」


 ファナが立ち上がって扉を開け、その横に待機しているのであろう使用人に酒の追加を持ってくるように頼んでいるのを横目に手に持っていた酒とパンを置いて笑いを無事に飲み込み切った四人に目を向ける。


「さて、まぁ全員既に知っていると思うが名前はフェルノ・デザイア、一応この集まりの主導者で一団のリーダーをしている20歳だ。戦闘方面での役割は一番槍兼全方位殲滅を担うつもりだがその辺りは要相談だな、対貴族向けの対応に関しては出来るがやりたくないので押し付けるつもりだからよろしく」

「……ちなみに誰に押し付ける予定です?」

「ファナは脳筋一辺倒で細かい交渉とかが出来るタイプじゃないから、現段階ではステラに全部を押し付ける予定だ」

「……拒否権ってあります?」

「どうしても無理という時以外には無いと思ってくれ。すまんが俺は本質的に考え方平民か蛮族のどっちかだから、何処かで相手を逆撫でする可能性があるからな」

「頑張ってくれ。私もそういう場所には十年近く参加していないからな」

「うん、頑張るべき」

「………叩き込んで巻き込みましょうかぁ?」

「その辺りは自由にしてくれ。力で解決できない問題に対して俺は無力だからな」


 仲間集めをしようと思った本題を最後にぶん投げると、内心でその担当になりそうだと悟ったステラが聞いてくるので迷うことなくお前だぞと伝えてやる。おそらく主体となって矢面に立つのは俺になるだろうとは思うが、押し付けられる時には押し付けるからステラには頑張って欲しい。

 苦笑いというか悪だくみをしているみたいな微笑みを薄く浮かべながらファナに目を向けているので、おそらくファナに知識を叩き込んで巻き込もうと考えているのだろう。まぁ押し付ける側だからステラがどうしようとも俺は関与しないというか関与してはいけないだろうから、その辺りは自由に思い通りにしてくれていいんだが。


「では、次は私だな。名はファナ・ファリティア、年齢は22歳、フェルノとは五年以上共に旅をして戦場を共にしているから相応の経験を積み重ねているつもりではあるぞ。役割としては戦線維持の肉盾だ、それ以外に関しては出来そうにないというか役に立たないからあまり頼りにしないでくれ」

「質問しても~、いいですか~」

「いいぞ、何でも聞いてくれ」

「では~、フェルノ様とは恋仲なのでしょうか~?」

「フェルノと恋仲? 全然違うぞ、どちらかというと戦友とかそっち方面の方があっているだろう。そうじゃないか?」

「んあ? すまん聞いてなかった。何の話だ?」

「私とお前が恋仲かどうかという質問だ」

「あー、じゃあ全然違うな。仲間とか戦友とかそこら辺だろ、そういう仲になることは考えられんし...そもそも俺とお前の好みの男性像は違うだろうに」

「あら~、そうなのですか~?」

「あぁ、何だったか...守りがいのある男だったか?」

「うむ。正確に言えば守りがいのある儚い雰囲気のある男性だな、歳の差とかは別段気にするつもりはないが健康そうで長生きしそうなら尚良い」

「あらあら~」


 そんな感じでおっとりとした雰囲気の獣人に答えつつファナの自己紹介は終了した。


 実際恋仲になるのはごめんとまではいかないけれど、そういう仲になることはない可能性の方が高い。ファナの好み云々俺の好み云々を全部除いて、恋だの愛だのに憧れたり溺れたりした結果の末路を二人揃って知っているからこそならないと思う。

 これに関しては聖女の云々を全部抜きにした上で本当に色々とあった。語れば長くなるし多分一日二日で話し切れるようなものじゃないからな。

 だから俺とファナは相互理解と相互利益によって構築される夫婦になれるとしても、互いに想いを向けて愛を伝えて恋を感じるような仲にはなれないと俺は思う。本人がどう思っているのかは定かじゃないから言わないけどな。


「で、次は誰がする?」

「順番的に私、ですかねぇ?」

「なら、そうするか。ステラがやってその次はリオ、その次はフォンで最後にルルの順番だな」

「はぁい」

「ん」

「了解」

「分かりました~」


「では、次は私ですねぇ。名前はステラと年齢は24歳でこの集まりで最高齢になると思ってましたねぇ。役割は侍従騎士と騎士隊長だった時の経験を活かして色んな交渉の席に着く事になりそうですねぇ...ファナとリオには対貴族対商人用の話術等々を叩き込んで巻き込む予定をしていますわぁ」

「「!?」」

「自由にしていいと大義名分を貰いましたからねぇ...私の自由にさせてもらいますねぇ」

「待て、待ってくれ。私は頭が固いんだぞ、その場その場で柔軟な思考が出来るフェルノを巻き込んだ方が良いんじゃないか?」

「そうそう。リーダーだし、英雄だから筆頭に立つべき」

「……俺は基本的に矢面に立たされるぞ? でも下手な発言は出来んからそれ以外の細かい場所での対応になってくるぞ?」

「確かに、言われてみればそうですねぇ...じゃあ尚更ファナとリオには頑張って憶えて貰いませんとねぇ?」

「「!?」」

「頑張ってくれファナ嬢、お嬢」

「頑張って下さいまし~」


 自己紹介の順番を決め、そのままの流れで始まったステラの自己紹介の最後に巻き込まれることが確定したファナとリオの二人。

 必死に俺とか他二人に押し付けようと未だにしようとしているが、色々と立場的なことを考えると二人以外にいないというのが残念だが確定している。ファナは勇者時代からの名残で世間的には俺の相棒という扱いだし、リオは獣人のことを知っている人間が見れば敬ったり特別視するような存在だからな。

 まぁ、逃れたかったらあれだ。亡国の王族の生き残りとか、他種族の長の血族とか、対貴族経験が豊富な奴とかを何処かしらから引っ張って来るべきだな。


「まぁ、この場で足掻いても仕方ない。諦めて受け入れろ、それからお前の番だから自己紹介を始めろリオ」

「んーー!! 仕方ない、でも抗議はし続けるからね」

「なら実力で押し通すんだな。ステラ、足掻き続けるようなら叩き伏せていいぞ」

「分かりましたぁ」

「良いのか!?」

「お前はなし。暴れるなら俺が相手する」

「……!!」

「パンを齧りながらこっちを見るな」


 真っ先に反応したファナを封殺するとパンを口に運びながら視線で無言の抗議をしてくるので軽く相手をしつつリオに自己紹介を始めるように視線で伝える。

 まだ文句を言いたそうではあるがファナと比べてチャンスが与えられているだけマシだと判断したのか、咳ばらいをして意識を切り替えながら自己紹介を始める。


「名前はリオ、姓も故郷もこの前無くなった24歳。一応他の二人も含めて斥候とか先遣とかその辺りの役割を担う予定ではいるけど、要所要所で相談しつつ指針とかは決めたり変更したりする。貴族というか上流階級との会話をしたことはあるけどそこまで経験はないから頼りにしないで。あと見たら分かるけど黒獅子の獣人」

「そうか。それで、集落での地位はどうだったんだ?」

「……長の娘。でも戦闘技術以外は大して教わってなかったから、最低限生きるのに困らない程度しか身に付けてない」

「いや、その最低限を俺は身に付けてないしファナは憶えていないから頼りにはさせてもらうんだが...斥候関係は何が出来る?」

「割と全部、って言いたいけど私はそんなに。目と鼻が利くから探すのと、機動力と戦闘力はあるから威力偵察が出来るくらい」

「十分だ」

「ん、そう?」

「あぁ、そうだ。俺たちだとそれも出来ないからな」

「噓でしょ? 流石にあれで出来ないは無いと思うけど」

「嘘じゃないんだよなぁ」


 俺は偵察に赴いたら気配が隠し切れないから見つかって抗戦するし威力偵察なんてしようものならそのまま殲滅してしまうからな。ファナも気配を隠すのが得意じゃないし仮に隠せたとしても普通にヘマをして見つかって囲まれるからな。

 あと基本的に殴れば先が開けるなんて考えの二人だからな、罠とかそういう奴はしっかりと避けるようにはしていたんだが、包囲するための囮とか狭い通路での挟み撃ちとか特攻による拘束とかそういうのは正面から粉砕していたしな。


 ………何で生きてんだ此奴ら?


「もしかして...二人とも脳筋?」

「そうだな。それが通用して五年だからな、どうにも染み付いた感覚を拭い落とすことが出来ないものだ」

「うむ」

「…でも、うん。確かに、あれだったら納得が出来る」

「褒められたものじゃないけどな。まぁ俺たちのことは置いといて次に行こう」

「ん、そうしよう。フォン」

「了解だ。リーダー、お嬢」


 次に自己紹介するのは男の獣人。リオが兄と言っていた獣人、白と黒のまだら模様の尻尾と耳を持った少しばかし体が大きい獣人。


「名前はフォン、年齢はこれでも44歳だ。この辺りじゃあんまり見ない種類だと思うがユキヒョウの獣人で、今後はお嬢と同じく斥候系の役割を担っていこうと考えている。貴族とかへの関わりに関しては経験が薄い、というか基本的に従者兼護衛として付いていたからどういう感じで話すのかっていうのを知らないから無力だ」

「なるほど。戦闘の実力は?」

「まぁ期待を裏切らない程度には持っているつもりだ。あーそうだな、空を飛ばない種類のドラゴンだったら一応正面からだったとしても一人でも勝算はある」

「ふむ、良い感じだな。斥候は何を担う?」

「隠密と暗殺だな。体はデカいけど、そのくらいなら難なく出来る」

「なるほどな...」


 戦力としては及第点だが悪くはないな。ほんの少しどんなドラゴンだとしても正面から楽に相手出来るようになるまで鍛え上げて、あとは暗殺技術の方を鍛え上げるくらいの方針で良いだろう。得意な部分を削り取る必要はないからな。

 ……ただ、暗器を仕入れる伝手がないから探してもらう必要があるな。あと追加の消耗品を仕入れられるだけ金に余裕があるわけではないからな...幾らか調整なり追加で稼ぐ手段なりを見つける必要があるか。


「じゃあ、最後」

「は~い。私は~ルルと申します~、160歳ですから最高齢になりますね~。役割としては変装潜入とかでの斥候と~...毒手とかでの搦手を使った持久戦とかですかね~? 戦闘能力はそんなに高くないので~、戦闘以外で役に立てるようにはしていきたいと考えてますね~」

「ん、補足しておく。ルルは一応狐の獣人だけど純血じゃなくてハーフだから獣人としての能力は薄い、その代わり知識とか家事とかそっち方面が優れてる」

「補足ありがとうございます~」

「あぁ、分かった。ちなみに何のハーフか聞いても良いか?」

「大丈夫ですよ~。私は■■■■■■■■■■■■とのハーフですね~」

「??」

「あら~?」

「……あー、追加で補足する。ルルのもう一方父親にあたる存在なんだが特殊な種族をしていてな、160という年齢から察せると思うが長命種族でその中でも秘匿意識の高い奴らだからな。直に対面しない限り種族名も個人名も、あと確か正体を探るための情報とかも聞き取れないようになってる」

「なるほど...原理としてはいつだったかのインキュバスと同じか」

「あー奴か。おそらく阻害の仕組みとしては同じだろうな」

「「「???」」」

「すまんが詳細に関して食事の席でも酒の席でもする話じゃないからまたいつか時間の空いた時にする。ただ取り敢えず、それと似た感じで自分の存在を認識できないように全部を阻害するようにしてた奴がいたってことだ」

「あら~、そうですのね~」


 ルル、リオに姉と呼ばれていた獣人。特徴としてはファナよりも大きい身長に銀色のように見える髪と金色のように見える耳と尻尾、あと天然のようにポワポワとした雰囲気をしているということだろう。ちなみに雰囲気に似合わず割としっかりしている、リオ曰く緊急時には見間違いを疑うレベルで雰囲気が変わるので普段からエネルギーを温存しているんだろうということらしい。

 この場にいる誰よりも最高齢の160歳なのだが、本人から聞いた話ではまだこれでも寿命の十分の一も生きていないという話なので父親の種族が気になるところだな。


「まぁこんなところか。取り敢えず当面の間はこの場にいる面子で王国が抱えている死ぬほど厄介な依頼の解決をしていくというのが全体的な方針だ」

「なるほど...ちなみにどんな依頼だ?」

「災害指定の魔物の討伐」

「「「「!?」」」」

「そんなに沢山あるのか?」

「あるらしいぞ。少なくともリオたちの故郷を襲った奴が一番最初に討伐に行くことになっているのもその依頼の一つだからな」

「「「!?」」」

「!! 本当に戦いに行くの?」

「それがお前からの依頼だし報酬を受け取っているからな。どのみちいつかは殺しに行く必要がある相手なんだそれが早いか遅いかの違いだけだ」

「うむ。それに依頼ということは事前情報があるんだろう? なら魔王軍幹部よりも幾らかは楽な戦いになりそうだな」

「まぁ、それはそうだな」



 ※※※※※※※※


 ・リオの口調が違うのは取り繕ってたから

 ・詳細な容姿に関しては次回

 ・リオの依頼については次々々回

 ・ルルに関してはかなり後になる

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る