仲間集め⑤
太陽輝く白昼を超えて静かな星月夜も過ぎて、鳥たちが目覚めの歌を奏でる夜明けの時間。朝市で並んでいる露店から串焼きとスープとパンを手に入れて、昨日一晩を過ごすことになった治療院へと戻っていく。
昨日、裏市場の予約をヘルメスに頼んだ後のこと。元々付いて来ていた監視の目以外にもう一つ視線が向けられてきたのでそちらへと向かってみると、泥だらけでボロボロといった様子の少女が逃げようとしていた態勢で倒れていた。
流石にその状態で見なかったことにしようとはならなかったので、ステラにファリティア家の方に伝言を頼んで俺はそのまま少女を抱えて近くの小さい治療院へと運び込んだ。そこで治療院の中には小さいのが原因なのか看護師の一人もおらず若い女性医師が一人で回していたので、軽い問診と体を洗ってもらった後は治療院のベッドに少女を寝かせて俺が面倒を見ていた。
まぁ医療知識なんてものはないので、氷が解けた氷嚢を入れ替えたり顔や手に流れる汗を起こさないように拭いたりといったことしか出来なかったのだが。
それはそれとして、そういう事があったので一晩明けたので朝一で少女が目を覚ました時のことを考えて三人分の朝食を買いに出てその帰りということ。
ちなみに眠っている少女運び込んだ時には気付かなかったのだが獣人だったようでその上で非常に珍しい黒獅子の獣人だったらしい。どのくらい珍しいのかというと、獣人の集落の外で保護者が存在しない状態で見るなんていうのを聞いたことがないというくらいには珍しいらしい。
要するに厄介ごとの気配がしているということ。
「戻りましたよ、どんな感じです?」
「あ、お帰りなさい。私の分まで買って来てくれたんですね」
「あぁ、それは勿論」
「ありがとうございます。あの子はさっき目を覚ましましたよ、軽く見てみましたけど特に後遺症とかもなく元気な様子でした」
「なるほど。食べ物で気を付けた方が良いことってあるか?」
「食べてないってことは無さそうでしたので大丈夫だと思います。ただあんまり食べ過ぎると腹痛を起こしてしまうかもしれないので、量は気を付けて貰ってもいいですか?」
「なるほど...何処かに行くのか?」
「はい。ちょっと薬の在庫が切れていたみたいなので、ちょっと補充をしに行ってきますね」
「なるほど。気を付けて」
「はい」
治療院に戻ると医者さんが出掛ける準備をしていたので寝かせておいた少女の様子を聞きつつ気を付けることを聞いて、それから薬の補充をしに行った医者さんを見送ってから少女を寝かせていた部屋へと向かう。
場所としては治療院の一番奥の部屋、一応入院用患者の部屋として用意したらしいのだけど入院するような案件をこんな小さな治療院で対応出来るわけがないらしく、掃除はしているけれど無用の長物みたいな存在だったらしい。
「……!?」
「驚かせたか? すまんな」
「………えっと」
「憶えていないと思っていたが、気絶する前のことを憶えているみたいだな」
「!!」
「なに、今更掘り出すつもりはない。事情に関しても気にはなるが、その前に」
「……?」
「朝食にするぞ。何をするにしても腹を満たさなくては始まらんだろうし、お前としても腹は減っているだろう?」
「…そんなこと、は」ぐ~
「抑えきれていないな。ほらお前の分だ、一応少しではあるがおかわりはあるからゆっくりと落ち着いて食え」
「………はぃ」
腹の音が鳴って恥ずかしそうに顔を赤らめている少女を揶揄うように軽く笑いながら買って来た物をベッド横の机の上に並べてやる。体を起こせていたし、驚いた時に動けていたから問題ないだろうと思っていたが、実際何の問題もなく体を動かしておどおどとした様子で串焼きを口に向かって運んでいく。
その借りてきた猫のような、拾い上げたばかりの犬のような、警戒心たっぷりの様子でおそるおそる食事をとる様子を眺めつつ、俺の方もゆっくりと朝食を食べていく。
……それにしても、何故こんなに怯えられている? 人とか大人に怯えているということなら医者さんが教えてくれていただろうし...逃げようとしていたのが関係しているのか?
~~変な空気で朝食の時間~~
「ふぅ...腹は膨れたか?」
「……はい」
「なら良い。それで、色々と聞きたいことがある」
「……はい」
「そう怯えてくれるな、何も取って食うわけじゃない。お前が仮に俺を殺そうとしていたとしても、その程度の戯れならば俺はどうとも思わん」
「………あの」
「どうした?」
互いに朝食を食べ終えて、怯え俯いている少女の事情を聞き出そうとしたところで少女の方から切り出そうとしてくれるので聞く姿勢を取る。本当は少女自身が何者なのかというのを聞いてから事情を聞こうと思っていたんだがな。
「あなたが...勇者って呼ばれてる人、なんですか?」
「いや、違うぞ」
「!?」
「そんなに驚いても仕方がないぞ。ただ俺は勇者じゃないというのは事実だ、実際聖剣も持っていないし手に浮かんでる筈の聖痕もないからな」
「……え、だって、あの人たちの話じゃ」
「ふぅむ...何やら重い事情があるみたいだな?」
「………いえ、もう大丈夫です。それよりも、勇者を見つけないと」
「行かせると思うか?」
俺が勇者ではないという言葉に驚き、絶望し、それから焦燥しながらベッドを下りて何処かへと行こうとする少女の肩を掴んでベッドの上に倒す。そのまま額に手を当てて起き上がって逃げることが出来ないように軽く力を入れて固定する。
「は、離して、下さい...!」
「悪いがそれは無理だな。お前の抱え込んでる事情を話してくれたら、解放してやらんこともない」
「だめ、だめです...関係ない人を、巻き込むわけには」
「もう巻き込まれてるんだわ。それに俺を勇者だと誤認したということは、俺が勇者だと思える何かをお前は見せられたわけだ」
「!! でも、早くしないと!」
「ふぅむ、大方誰かしらが人質にされているんだな? それもおそらくは命を奪われるってわけじゃないな...誰かに持っていかれるって感じか?」
「!?」
「正解って感じだな。それで捕まえたのは人間だけじゃなさそうだな...過剰な恐怖心からして其処に合わせて魔族もか?」
「…な、なんで」
「ほうほう、正解と...なるほどなぁ?」
そうかそうか、お前らが関係してるのかぁ...
「よし、お前の救いたい奴らは何処にいる?」
「……ぇ?」
「無駄なことをする必要はねぇ。俺がお前の救いたい奴らを全員救ってやる、お前の救いたい奴らに手を出した奴らを殺してやるって言ってるんだ」
「………どう、して」
「あん? 魔族は殺す、それに与する奴らも殺すそれだけだ。あいつらはどうなろうとも気に入らん、生かしておいて百害どころの話じゃ済まねぇからいるのが分かっているのならば全員殺すと決めている。それを成し遂げる過程で、お前の救いたい奴らをついでに助けてやるただそれだけだ」
「……」
この辺りに集団で居たのはこれが理由か? それなら騎士団の活動は全部無為になってしまうかもしれないが...こんな形で巻き込まれたんだったら殺すしかねぇ。
魔王を殺す使命はなくなったから魔王軍との戦いの矢面に立つ理由は失ったが、魔族を皆殺しにする俺の殺意に関しては抑える必要がないしつもりもないからな。家の前に巣を作った蜂を駆除するのと一緒だ、俺の手の届く範囲に存在する魔族は全部殺さないと俺は安心して生きられない。だから、全部殺し尽くす。
「さぁ、俺に教えてくれ。本当なら色々と報酬を要求したりするんだろうが...今回は特別だ。お前らに対して何も要求しない代わりにお前らの事情に俺を巻き込んで貰うぞ」
「…あり、が..「まだ感謝も、泣くのも早いぞ。それをしたいんだったら俺が全部終わらせてからだ」...ぅん!」
「良い返事だ。さぁ、教えてくれるか?」
この後聞いた事情から魔族共が何処にいるのかというのを導き出した結果、国王と騎士団とヘルメスに謝罪をして回る必要が出て来た。全部終わって頭に上った血が全部抜けた今になって考えるともっと賢く軽やかに片を付けられた気もするが、魔族が関与していて被害者がいるという時点で冷静になれないので諦めるとしよう。
いや、このすぐ激情するのは抑えられるようになった方が良いのは事実なんだが、三年以上付き合った結果抑えきれなさ過ぎて匙を投げてしまったからな。まぁ初期の被害を顧みない暴走状態よりかはマシになってるから、うん。
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