仲間集め outside

「それで、今日一日付いていてどうだった?」

「思っていた以上に人気、というか人に好かれてますね」

「粗暴な口調からは考えられんか? 本人もその辺りに関しては疑問に思っていたからな、何故俺はこんなにも人に好かれている、なんてな」

「知り合って二日ですけど、想像が付きますねぇ」

「ふふ、そうだろう」


 月と星が浮かぶ夜空の見えるテラス、そこに椅子と机を並べて紅茶を片手にファナとステラは親しい古くからの友人のように仲良さげに話している。

 話題になっているのは二人にとって共通のリーダーであるフェルノ、長く付き合いのあるファナが今日初めて一日中付き合っていたステラに色々と感想を聞いている感じである。


 ちなみに話題になっている当の本人はというと今二人がいるファリティア家にはおらず城下町にある治療院に泊まっている。本人が怪我をして入院しているということではなく、裏の奴隷市場への予約をしに行った帰り道に視線を向けられているのに気付いてその視線の主を探した結果、衰弱してぐったりとしている獣人の少女を見つけたので治療院に連れ込んでそのまま面倒を見ているという感じである。


「それにしても、いつもあんな感じなんです?」

「どの感じだ? 買い物中の態度に関しては見ていないから分からんが、治療院に運び込んで付きっ切りで面倒を見るというのであればそうだな。色々と余裕がある時は相手が敵対者以外なら誰であっても今みたいな感じだぞ」

「なるほど...優しさからですか?」

「外から見ている分にはそう思えるんだが、本人の感覚としてはそうじゃないとはいっていたな」

「そうなんですか?」

「あぁ。確か、矜持だったかな? 人の営みは尊くて未来に向かって前向きに生きようとするのは何よりも美しい、だからこそそうした在り方がずっと続いていけるように人に手を差し出すとかだったか。まぁあと目の前で無辜の命が失われるのを見逃すのは寝覚めが悪いから命を張るとも言っていたな」

「ほー...なんか素敵ですね」

「私もそう思ったな。まぁ本人としては当たり前のことのように思っているからそれが良いことのようには思ってないみたいだがな、むしろ幸せであったり前を向いていることだったりを押し付けているような物だから残酷だなんて言っていたな」

「……あー、なるほど。確かに、それも分からなくはないですねぇ」

「分かるのか、凄いな。私はよく分からんかったから、お前の考えは素敵だなと思い続けることにする、なんて言って話を切り上げたな」

「………くふ」

「おい、笑ってくれるな。仕方ないだろ? 難しかったんだから」

「……え、えぇ仕方ないですね」


 成人をとっくに迎えていて見た目も大人の女性らしい二人だが、紅茶を片手に片方が片方を茶化しながらにこやかに話している光景は幼い少女たちが夜更かしをしているかのような微笑ましさがある。

 いや実際に二人の認識としてはそれと近いのだろう。

 憧れから騎士になるために鍛えそして魔王軍との熾烈な戦いを繰り広げてきたファナ、家を追い出されて生きるために騎士になり王国に蔓延る悪を粛清してきたステラ。


 互いに普通の女の子らしい生き方をしてこなかった二人は、新しく出来た仲間であり友人と交わし合う夜更かしを心の底から楽しんでいた。


「……あぁ、そういえば私たちの集まりの名前を決めないとな」

「? ……あぁなるほど、俗に言うパーティー名的な感じの奴ですね」

「うむ。フェルノとしてはそういうのに拘らないというか興味を持っていないからな、こちらで良い感じの名前を考えてやらないとな」

「くふ、完璧に見えて実際はそうじゃないんですね?」

「そうだな。フェルノだって何処か抜けているし急ぎでなければ忘れる、私だって色々とフェルノに迷惑を掛けているくらいには失敗している。そんなものだ、だからこそ私はフェルノが仲間を集め始めたのを肯定しているんだ」

「そういえば、否定したり不満に思っていたりはしていませんでしたね」

「あぁ」


 そうして、ファナは恋する乙女のような表情で言葉を紡ぐ。


「フェルノが自分のために他人を見れるようになり始めた。最初が私たちであったからこそ信頼出来るのが自分以外に居なかったフェルノが、他人を信頼しようとし始めている。それはこれ以上に無いくらいに嬉しいことだからな」


 五年間共に生きていたが故に、近くでフェルノを見ていたが故に流れ落ちた言葉。

 その言葉を放つファナの姿はステラには何よりも美しいものに感じられて、その上で言葉を発しようとしたところでファナの頬がほんのりと赤らんでいるのが分かって可愛らしく感じられて、ステラは紅茶の入ったカップを口元にゆっくりと運びながら声を漏らさないように薄く小さく微笑んだ。



 ********



「それで、英雄はどう動いている?」

「はっ。元十三騎士隊隊長を仲間に勧誘し、裏市場でも追加の人員を確保しようとしているようです」

「ふぅむ...仲間を増やそうと動いているのか。それ以外には何かあるか?」

「衰弱した獣人の少女を保護したようです。汚れていましたし気付かれる可能性がありましたので何の獣人かというのは把握出来ませんでしたが」

「……ふむ。止めることは出来ぬな、それよりも裏からひっそりとサポートをする必要があるかもしれん、裏市場に人員を送れるか?」

「既に手配しております」

「ならば、英雄が購入しようとした奴隷は購入できるように手を回せ。あとその獣人の少女に関しても何やら嫌な予感がするから、近隣一帯の誘拐に関することと獣人たちの集落がどうなっているか探れ」

「はっ」


 アルストヴァル王国、国王の寝室にて寝姿になってベッドの上に座る国王と金の衣装のある特殊な騎士隊服を身に付けて立膝を付いている騎士が話している。

 その内容はというのは国王付きの侍従騎士たちによる監視報告とそれに関する国王の思索。今の国王が国王となった時から行っている報告会、ここ数年の議題は魔王軍に関わる内容が多くその中でも一番話題になるのはフェルノの動向と魔王軍幹部に関してである。


「それで、魔王軍の動向はどうだ?」

「サキュバスは場所を変えることなく魅了で眷属を増やし続けておりますので定期的に間引いています。デュラハンは東の原野にて魔族と魔物を集めては殺し合わせるというのを繰り返しております。リッチとマーマンに関しては軍勢の拡大を行っているのを確認していましたが忽然と姿を消しました」

「ふぅむ……おそらくマーマンは海底に引っ込んだのだろうがリッチの方は少々不安だな。デュラハンは何がしたいのかよく分からんがサキュバスの方は少し怖いな」

「人を増やしますか?」

「うむ、リッチの方は人と探す場所も増やせ。サキュバスの方は既婚者か婚姻をしている女騎士たちを集めて回せ」

「はっ」

「マーマンは陸地からの監視を続けろ、海上海中における戦闘は奴らの方が上手であるから無暗に探しに行かせるな」

「はっ」

「では行け。迅速かつ冷静に動け」

「了解しました」


 そうして報告を受けた国王は騎士に向けて次の行動の指針となる指示を出して部屋からの退出を促す。

 促された騎士は立ち上がり静かに音を立てずに国王の寝室の扉を開けて外に歩いて行き、その入れ替わりのように目の下に隈を作った壮年の男性が書類の束を片手に国王の寝室の中へと入って来る。


 そうして入って来た男性は書類の束を国王に手渡しながら立膝を付いて話し始める。


「報告に参りました」

「うむ...寝ているか?」

「明日休日になっていますので眠れます」

「そうか...それで、これは……例の魔物たちに関してか」

「はい、裏取りをして事実であると確認できたものが出揃いました。内容を精査したところ迅速に陛下に報告する必要があると判断しましたので報告に参りました」

「ほう? ………事実か?」

「事実です。火山に住まう炎の大蛇、大樹を貪る甲虫、奈落を生み出す蜥蜴...幾つかは幻影や蜃気楼だったりしましたが今お渡しました物は全て存在しました」

「魔王軍で忙しい中で、こいつらもか」

「それに関して、幾つかに関しては追加の報告があります」

「……悪い報告だな? なんだ」

「誕生に関して魔王軍が関わっている可能性があります。発見された周辺に魔族の残骸が散らばっていましたし、生きた魔族がいるのを発見しました」

「………面倒な奴らめ」

「えぇ、非常に面倒です。何匹かは騎士団から討伐に向かわせましたが、敢え無く全滅することになりました」

「……そうか」


 男性の齎した報告、それは力を付けた強大な魔物に関する報告。それ自体は珍しいことではなく年に数回災害のように出現するのだが、今回の報告が普段と違うのはその個体の多さと範囲の広さである。


 数にして十七、場所にして王国全域、広大な土地に様々な環境が入り混じっているという利点が今回の一件では王国に牙を向けている。


 その各個体の実力としては最高位の魔族と同等以上、対処が遅れれば際限なく成長し続けるが故に最悪は魔王軍幹部と同等クラスにまで上り詰める個体も実在した。それ故に迅速に対応しなければならないのであるが、魔王軍という目下対応中の脅威の存在が迅速な対応を取ることを不可能にしていた。

 それらを理解しているが故に国王は受け取った紙の束をベッドの上に置きながら天井に深い溜め息を吐き出していた。


 それから、国王は立ち上がる。


「対応策を練る必要がある。すまんがもう少し働いてもらうぞ」

「構いません」

「なら良し。わしは今から騎士団の動かせる人員を調べる、事足りるようならそれで済ませるがそうでないのならば英雄に依頼を出さなければならん。他種族たちの領域での出現は確認されているか?」

「ドワーフ、エルフ、マーメイドたちのところでは確認されています。それ以外は現在調査中ですの確実であるとは言えませんが、被害は出ているかと」

「ふむ...では文書を書いて先遣を送るか。緊急で会議を行う、寝ている宰相と騎士団長を呼び出して執務室に集めろ」

「はっ。英雄殿にはどうしましょうか?」

「どれを対処してもらうのかを決める前だから呼ぶ必要はない。それよりも財務大臣と軍務大臣本人かその秘書を呼び出せ。意見を聞きながら英雄に対応してもらう順番を決定する」

「はっ、了解しました」


 寝姿を脱ぎ捨てて礼服へと着替えながら報告に来た男性に指示を出していく。

 アルストヴァル王国が今切ることが出来る最大の手札である英雄、それを無為に動かすわけにはいかないが故に眠りに付こうとしていた体と意識を叩き起こしながら王は動き出す。一瞬を争う程火急の案件というわけではないが、判断を誤れば即座に王国が滅亡へと突き進んでそのまま突き抜けていく案件であるが故に。


 王は国のためにその命を消費するのである。

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