仲間集め④

 昨日、結局ファナの実家であるファリティア家に招かれてそのまま夕食から一泊に至るまで道連れにしたステラと共に世話になることになった。

 ちなみにファナの母親に呼ばれた理由だがファナの婚約者になってくれ、ということではなくファナが迷惑を掛けていないかというのを旦那より先に聞いておきたかったのと色々と面倒を見てくれていてありがとうと感謝を伝えたかったらしい。

 所々でしっかりとファナを愛しているんだなというのが感じられてどこの母親でも子に向ける愛は不変なのだなと思いつつ、日頃から罠に引っかかったり植物型の魔物に引っかかったりして武器防具をダメにしたり見るからに罠だと分かる物に飛び込んでいくというのを伝えた。


 その結果


 ファナは現在実家に拘束されて説教中である。お淑やかでファナとは似ても似つかない落ち着いた女性だと思えたファナの母親だったが、俺の話を聞いた瞬間に逃げようとしたファナをドレスで追いかけてそのまま捕まえると関節技を仕掛けて説教を始めたのは見た。

 それから紆余曲折あって父親の耳に入って今現在説教と知識を叩き込まれている...というのをファナの弟君から聞いたので置いてきた。


 ということで今は、


「それで、何処から探しますか?」

「あまりこの辺りの土地勘は無いんだがな...取り敢えず医薬品の補充だな。此処に来るまでに色々と合って消費したからその辺りを補充して、あとは香辛料の類も手に入れられそうなら手に入れておきたいな。それでその後は表の奴隷市場で役に立ちそうな奴隷がいればそれを購入、いなければ裏に向かって予約を取ることにしよう」

「なるほど...では医薬品の方から向かいましょうか」

「あぁ、案内は任せるぞ」


 ステラと共に城下町に出て物資の購入と奴隷市場の見回りを行っている。

 昨晩聞いたがステラの方も繋がりは騎士団ばかりなので無所属の知り合いで基準を満たせそうなのはいるにはいるがすぐに紹介できないということだった。なのでこうして朝から街を歩き回りつつ、此処に来るまでに消費した物資に消費が増えるであろう物資を補充しつつ奴隷市場を見回ろうということになった。

 本当ならファナも連れて来て意見を取り入れたかったのだが...まぁどうしようもが無かったのでこうして二人で、というよりこの城下町の土地勘を持っているステラに道案内をしてもらっている。


 ちなみに金に関してだがドラゴンの逆鱗の金が入って来た、ということではなく普通にファリティア家に金を借りてきた。

 というか三回分ファリティア家の頼み事を国盗りと俺たちの命を失う事以外ならば何でも聞くという条件を出して、支払いをファリティア家に負担してもらうという契約をしてきた。




「此処ですね、大きい店ではありませんが種類の多さと効能の良さは保証します」

「ほう、そうか」

「えぇ、少々値は張りますが」

「まぁそこは問題ない」

「ですね」


 ということで、最初に案内してもらったのは薬屋。表通りから少し外れた脇道の更に裏通りの突き当りに存在している不思議な雰囲気のある個人の店、中に居たのは店主らしき老婆とその弟子らしき雰囲気のある若い女性。

 ステラが軽く挨拶をして俺の紹介をして調剤中の弟子をほっぽり出して俺に向かって歩き寄って来た老婆と軽く会話を交わし、それから三十数本のポーションと解毒薬、十数個の増血剤と嘔吐剤、数本の毒薬と数ヶ月分の塩と胡椒の入った瓶を購入した。

 ちなみに俺は誰なのか全く分からないんだが店主の老婆の息子を何処かの戦場で助けていたらしくそのお礼に半額以下に割り引かれそうになったんだが、流石に申し訳ないので止めてまたここに戻ってきた時にまた買いに来るからその時に俺たちの分を準備しておいて欲しいというのとそれまで元気にしていてくれと言って止めた。



「あそこですね。外に並んでいるのは賭博とか商売とかで失敗して借金奴隷に落ちた人間ばかりですので、店の中に入って直接見せて貰うべきでしょうね」

「ふむ...そうみたいだな。少なくとも表に並んでいる連中で使い物になりそうな奴は見つからん。ちなみにステラのおすすめはどの店だ?」

「量の一点ですと一番奥の赤煉瓦で建てられています商店で、質の場合だとその対面にある大理石の商店ですね。どっちもバックにいるのは同じ商店ですし経営者も赤煉瓦の方が弟で大理石の方が兄と兄弟で経営しています」

「ほう。他より優れているのか?」

「優れているというよりも貴族や王族御用達ですので、それなり以上の人材を常に揃えていられるようにしている筈です。私の前の前の職場の上司もあちらで奴隷を探して購入していましたので、保証は出来ます」

「なるほどな...なら取り敢えず赤煉瓦の方を軽く覗かせて貰ってその後は大理石の方を覗かせてもらうとしようか」

「分かりました。では、参りましょうか」


 最初の一つ目で必要数の薬と香辛料を手に入れられたので、次にステラに案内してもらったのは表の方の奴隷市場。買ってくれと叫ぶ首輪を付けられて檻の中に入れられている人間たちと、それを前にして値段を吟味しているのかそれとも顔や体を吟味しているのかよく分からない人たちを後目にステラの示した商店へと向かっていく。


 道中で一応外に並べられている奴隷たちに目を向けてみるが、どれもこれも戦力として見ることが出来ないだけの実力ばかりでしかない。

 及第点を緩く定めた状態で見ると何人かは拾い上げられそうだったんだが、借金の内容が賭博での借金、食い逃げの常習犯、借用物の破壊といったものばかりだったので流石にそんな奴を養う気にはなれないので無しになった。

 いや別にそれらを否定するつもりは無いんだが、仲間として身内に置くことを考えると邪魔以外の何物でもないからな。


「いらっしゃいませ」


 並んでいる人を列を無視して平然と顔パスで店の中に入っていくステラの後を歩いていって、店のオーナーらしき装いの男性が出てきてステラが奴隷を全て見せて欲しいと言って店の奥まで連れられて行く。

 そうして進んだ先に居たのは野営よりかは上等な部屋にいれられた多くの奴隷。年齢の層としては子供から老人まで性別関係なく多種多様に揃っているようではあったが、パッと見てパッと感じた感覚からして言い方は悪いが掘り出し物と呼べそうなのはいないのを実感する。見た目が悪いとか痩せ細っているとかそういうのを全部抜きにした上で分かるんだが、根本的に命を掛ける戦いの舞台に上がるのが向いていないという人間が大半なのである。

 おそらく鍛えればそこそこに強くなって戦場に立たせれば最低限の功績を上げるのだろうが、上位以上の魔族やドラゴン以上の魔物と対峙させた場合恐怖に染まって身動きが取れなくなり最終的に生き延びたとしても戦えなくなるようなタイプ。オーナーと話すステラに一言伝えてからザッと見て回ったがどれもこれもそう感じられて、何人かはそういうのを乗り越えられそうだとは感じられたんだが...無しだな。

 少なからず戦えるように育てる予定ではあるがそれでも最低限の実力は必要だ、特に俺やファナは誰かをゼロの状態から育てるという経験が全くないから育てられない。ステラに頼むというのも中々に難しい、実力はあると言っても俺たちには及ばないからステラも鍛えなければいけない側の人間だからな。


「どうでした?」

「ダメだ」

「分かりました、では失礼するとしましょうか」

「あぁ」


 そうして話を切り上げてきたステラが俺にそうやって小声で聞いてきたので返事を伝えて、そのままステラがオーナーに今回目に留まるのはいなかったので今日のところはこれで失礼させてもらいます。と伝えてから奴隷の並んでいた部屋の中を出て、そのまま店を出て道路を挟んで向かい側にある店に向かって行く。


 尚、向かいの店もそれほど変わりが無かったので結局裏の奴隷市場に行くことになった。

 質は確かに良かった見た目がきれいなのも殆どだし実力もあった、しかし実力はあると言っても中位の魔族と戦うことが出来る程度でしかないので買う理由にはならなかった。

 あとついでに言うとオーナーの目が個人的に気に入らなかった、値踏みするような何処となく此方を見下しているような目をしていたので多分気に入ったのがいても買う事はなかったと思う。




「おや? お久しぶりですね、デザイア殿」

「……誰だ?」

「ふぅむ、まぁ確かに軽く言葉を交わした程度でしたからね憶えていなくても仕方がありませんか。以前嘲る流血でしたか、あの魔族を討伐に向かわれる時に馬車の手配を致した時に言葉を交わしておりました。ヘルメスと申します」

「…………あぁ、思い出した。あの馬車のか...かなり遅くなったが馬車を壊して馬も殺す事になってすまなかったな」

「いえいえ、その代価として嘲る流血の討伐を成したのでしょう? それを考えればその程度は安い出費ですから...それで、本日はこのような場所にどうかなさいましたか? デザイア殿が訪れるような場所ではないと思いますが?」

「裏の奴隷市場に用がある。その予約を取りに来た」

「ほう。なるほど、でしたら私共の方で手続きをしておきましょう」

「……いいのか?」

「勿論です、ただ当日は私共と行動を共にしてもらうことになりますがそれはよろしいでしょうか?」

「少し待ってくれ」


「………信頼できそうか?」

「………おそらく問題はないかと。商人でヘルメスと言えば今唯一国王陛下と直接言葉を交わすことが許されている商人ですので」

「………そうか」


「なら、任せても良いか?」

「えぇ、お任せください。開催される日程と参加できる日程が分かりましたらご連絡いたしましょう、どちらに?」

「ファリティア家に頼めるか?」

「現王国騎士団長の家ですね? 承りました」

「あぁ、頼んだ」



 城下町の端の端にある裏の奴隷市場への入り口に向かった先でばったりと出会った腹回りが豊かな商人が俺の記憶の片隅に薄っすらと残っていた知人、というか俺目線からすると移動手段を恵んでくれた恩人で自分のと一緒にそのまま手続きしてくれるらしい。

 ステラに聞けば国王と直接商売ができる商人ということらしいので、信頼性は確かだろうということでそのまましてもらうように頼んだ。

 とはいえ昔に馬車を渡してくれて更に今日こうして代わりに手続きまでしてくれるのに無償でというのは申し訳ないので、渡し損ねてこのまま袋の中で眠り続ける羽目になりそうなドラゴンの目と角を渡した。

 受け取れないみたいな雰囲気を出していたが、此方としても持っていてもただの肥やしにしかならないので押し付けた。


 あと、この路地に入ってから向けられる視線に関してさっさと調べて後腐れが残らないようにしたいというのもある。

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