仲間集め③
「さてはて、お手柔らかにお願いしますよ?」
「うむ、本気は出さないように気を付けよう。抑えられなくなって本気を出したら、まぁその時はすまなかったなということだ」
「くふ、えぇ、えぇ。大丈夫ですよ、そのくらいは全然大丈夫ですよぉ」
「ふむ、そうか...では、来るがいい」
「えぇ、えぇ...行きます」
「ふむふむ、訓練用の案山子と木剣ですね。このくらいでしたら...大体この程度必要になります」
「なるほど………ついでに訓練場の壁とか床も整備費というか修繕費はどのくらいになる?」
「それでしたら...このくらいでしょうか?」
「ふむ、流石に手元にはないな...これで賄えるか?」
「……貰いすぎなくらいですね。ドラゴンの逆鱗、それも成体でそこそこに成長した個体ですと、末端価格で換算したとしても...こうなります」
「……こんなにか?」
刃引きしていない剣を振り抜いて切り結び始める赤色と金色の馬鹿二人を横目に置きながら、金色の方の馬鹿が戻ってくるときに連れてきた壮年の無改造の特徴的な紫色の騎士団服に身を包んだ男性と話を進めて行く。内容としては単純に俺が感情のまま動いて壊した案山子と剣の弁償、それと段々と切り結び合う速度を上げ始めている馬鹿二人が原因で壊れることになりそうな訓練場の修理代に関しての話。
生憎宿に泊まって食事の代金を支払う分くらいの金はあるが、修理代を賄えるだけの金はないので本来ならば国王に献上するように毟り取って来た逆鱗を提示したところである。
精々良い値段が付いても八桁くらいだろうと思っていたんだが、教えられた想定の末端価格が十二桁というので軽くというか普通にドン引きしている。
レアな素材というかドラゴンから一枚しか取れないとは言っても普通に見かける種類のドラゴンだし殺せる人間も多いだろうから安いと思っていたんだがな。
ちなみに馬鹿二人に関してだが、金色の方が先輩なら新参者の実力チェックをするものではみたいに煽り、赤色の方が素直で愚直だからならやるかと乗り、そのまま訓練場の中心の方に進んで行って暴れ始めた。
止める間もなかったというか、明らかに戦えそうな雰囲気の薄い今話している男性の相手をしつつ避難する方を優先せざるを得なかったから止められなかった。
「ドラゴンを殺せるというだけで人間は限られてきますし、殺せたとしてもここまで綺麗に殺せる人間はそう多くありませんからね。それに色合い的にアースドラゴンですよね? この種類は性格的に傷が少ない個体をあまり見ませんから、観賞用や研究用としても重宝するでしょうし、武器防具の素材にと考えても飛びつく鍛冶師に騎士は多いでしょうしね」
「そうか...簡単に取れるんだがな」
「貴方くらいですよ、ドラゴンをスライム感覚で殺すのは...取り敢えずこれを担保にということらしいので受け取りますし此方で売却しますが、間違いなく余りは出るので後日そちらにお返ししますね」
「いや受け取って欲しいん「無理です、諦めてください」...そうか」
「はい。では、また後日に」
「あぁ...すまん、思った以上に損壊しそうだ」
「大丈夫です、団長が騎士隊長選別するってなったらもっと壊れるので一箇所壊れるくらいなら何も問題ないですから。それに、原因の半分というか八割くらいはこっちの関係でもありますから」
「うむ...多少懐に入れても良いぞ? 苦労していそうだしな」
「あぁ、大丈夫です。給料なら沢山もらって溜まってますから、まぁ忙しくて使う機会が全くないので溜まってるだけですけど」
「ふぅむ...悲しいことに分かってしまうな」
「そうですよね? やっぱり、忙しいと使うことがないですよね」
「うむ」
悲しい事実の共有をしつつ、逆鱗を男性に託して訓練場を離れていく後ろ姿を見送りつつ...後ろの方で激しくなり始めた切り結び合い続けている馬鹿二人の方へと振り返る。
意気揚々と楽しそうに赤と金の残影を残しながら切り結んでいる二人、実力差としてはパッと見た感じ的にはそこまで差がないように感じられるが、足捌きから体重移動、剣の振り方、受け方、流し方、視線の移動、息の感じ、一手次の一手その先の一手...等々を見ている限り赤色の馬鹿、ファナの方が優位性があるというか余裕が残っている感じだ。
対する金色の馬鹿、今日から仲間になったステラの方はと言えばファナを崩せないから四苦八苦している感じだな。
見る限り相対的な攻撃力と機動性はステラの方に防御力と一撃の破壊力はファナの方にそれぞれ軍配があがるんだが、ステラの方は殺さないように急所への一撃を打たないようにしているしファナの方も訓練場の破壊を避けるために本気で動けていない。
まぁ、総括するとほぼ拮抗している実力差なのにどっちも決め手に欠けているから長続きしそうだっていうことだな。ただ、首に剣が刺さろうが薄皮一枚貫通すれば御の字ぐらいの頑丈さのあるファナを相手に対人向けの急所攻撃が通用するのかと言えば...多分だが今のステラの攻撃能力では通用しないだろうな。
実際防御能力というか耐久性の一面だけ見れば俺よりも遥かに硬い、なんならこの前催眠ガスを噴出して操ってくるキノコに操られて一時敵対した時に俺が八割前後の力で放った一撃を普通に受け止めて軽いかすり傷程度にしかならなかったしな。
それは置いといて、だ。
「………そろそろ、止めるかぁ」
白熱して来たのかそれとも自由に暴れてもいい空間ではないということを忘れたのか、取り敢えず段々と全力を出さないように抑えていたのが外れそうになっているので止めに行こうと思う。
一番手っ取り早いのはここから二人に向けて攻撃を叩き込むことなんだが、そんなことをすれば間違いなく英雄の称号から一転してテロリストの称号になって国から追いかけられることになるので出来ない。
まぁ、無難に間に割って入って勢いを相殺しながら受け止めてそのまま地面に叩きつければいいだろう。幸いにもステラの方が一回一回距離を取ってくれていることだしな。
さてと、じゃあ行くか。
「そこまで、白熱しすぎだ馬鹿ども」
「「!!」」
トンと軽く踏み込んで剣と剣をぶつけ合おうとしたファナとステラの間に割り込みながら振りかぶられている剣を受け止めて、度重なる攻防で付いた勢いからくる衝撃を流しながら奪い取って放り投げる
。そこで完全に動きを止めて固まっている二人の顔面に腕を伸ばしてそのまま前頭部を掴んで軽く力を入れながら持ち上げる。
「「………!!!!」」
「ここは王城の訓練場、要は他人の土地だぞ。お前らが好き放題に全力を出して暴れ回って良いような場所じゃねぇんだ、ほれ見ろ地面とか壁とかボロボロの傷だらけになってるぞ。出すなとは言わないけどよ、少しは周りを見ながら調整しろ」
「分かった、分かったから放してくれ! 流石に痛い!! ステラを見てみろ! もう意識を飛ばしてるぞ」
「あん? ……おい、起きろ」
「……はっ!」
「本来ならここから地面に叩きつけて、躾をする予定なんだがそんなことをすれば地面がお前らの荒らした倍は砕けるからな。今日の所はこれで済まそう」
「分かった!! 二度としない!!」
「はい! 二度としません!!」
「ならよし、違えれば次は空の旅だからな」
「「はい!!」」
悲鳴を上げるファナと痛みで気絶したところを振り起こしたステラに二度としないという言質を取って二人を地面に下ろしてから手を放してやる。
地面に下りた二人は片手でこめかみ付近を抑えながらもう一方の手を胸にやって大きく息を切らしていたので、そのまま放置して放り投げた二人の剣を拾いに行ってそのまま二人の前に戻る。
ちなみにそこまで力は入れていない度合いとしては一割も入れていない、じゃあ何でファナは絶叫してステラは気絶したのかっていうと力の通し方の問題。
要はゴーレムとあの表面だけはやたらと硬い連中を確実に殺すために力を内側に直接通すやり方を身に付けたので、それを応用して本来だったら皮膚や骨に掛かる痛みを直接内側に通したのでファナは絶叫したしステラは気絶したのだろうと思う。
苦しめる意図が無いのならばそこまでする必要はないんだが、躾の意味合いを含めるのならばこれくらいはしておかないと特にファナに対しては意味がないからな。まぁステラに対しては少しばかし調整をミスったというのは認めるが。
「ほれ、仕舞っておけ」
「あ、あぁ...何故こんなに痛い?」
「ゴーレムを内側から爆散させた時のと仕組みは同じだ。それを雑に応用して痛みだけをお前らの内側に流し込んだ」
「……? あぁ、思い出した。あれか」
「………??」
「近いうちにどういう原理かは実践を交えつつ教えてやる。取り敢えずさっさと剣を仕舞って立ち上がって荷物を持て、さっさと滞在出来そうな宿を探しに行くぞ」
「もうそんな時間か?」
「さっさと動いて見つけた方が楽だろう。あぁ、ファナは実家に泊まるんだったらそれでもいいぞ? ステラも既に見つけてあるならそっちに行ってくれていい」
「あ、私は騎士団の寮住まいだったので行く当てがないので付いて行きます」
「そうか、なら宿探しからだな」
夕方になり始めたばかりとはいえ、外から来たであろう旅人とか冒険者とかが宿を見つけて泊まり始めたら場所が無くなるだろうからな。それに最低でも二部屋は必要になるからな、出来れば早いこと探し始めて見つけておきたい。
だからファナはどうするのか気になるんだが、変な顔をしてどうした?
「あの、その、だな」
「なんだ?」
「報告に行った時に、だな」
「あぁ、何があった? 実家に帰って来て後継ぎとしての教育を受けろとでも言われたか?」
「いや、それは言われなかった。言われなかったんだが...」
「………? なんだ?」
「その……色々と話したいことがあるから実家に連れて来いと...母から」
「……行かなかったらどうなる?」
「…おそらく、私が捕まって身動きが出来なくなる、と思う」
「…………ふぅ...よし、ステラも連れていくぞ」
「へぁ!? 私も!?」
「騎士団長の父親じゃなくて母親の方が呼んでるってことは面倒事、おそらく婚約関係にならないかとかそんな感じのクソ面倒な話になる。その時に話を逸らせるような存在が欲しいし、何だったら盾に出来るような奴がいればいい。ステラ、お前は元王女付きの侍従騎士で騎士隊長だった...そういう堅苦しい雰囲気に満ち溢れた場所にはきっと慣れている筈だ。付いて来てくれ、俺はそういうのは避けてきたんだ」
「私も極力避けてきたんですけど!?」
「おい! 私の母と実家を化け物と相対する時以上の面倒事扱いするのは止めてくれないか!?」
「面倒事を持ってきたお前が言うんじゃねぇ!! 十中八九呼ばれた理由はお前関係じゃねぇか!! 良いぞ、実家に辿り着いた後の最初の雑談でお前の痴態をお前の家族にばら撒いてやるからな!!!」
「止めろォ!?」
「………そろーり、そろーり」
「逃がさんぞ、ステラ。お前も道連れだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます