仲間集め②
「ふむ...」
「不満か?」
「いや? お前の決定ならば否定するつもりはない、それに元侍従騎士の纏め役で元騎士隊長ならば実力を疑うこともないしな」
「……そうか? 意外だな」
「噂の一件か? まぁ確かに昔の私だったら忌避していたかもしれんが、考えてみれば真実ではないということが分かりきっている噂に惑わされるつもりはないぞ」
元騎士のステラを仲間に引き込んだ後、諸々の準備があるからそれをしてくるついでに騎士団の財政部門の関係者を連れてくると言ってステラはこの場を去り、その代わりとして魔族の集団発見の報告を終わらせたファナが戻って来たので報告した結果を聞きつつステラが仲間になったというのを伝えた。
なお騎士団に報告した結果なんだが、すぐに人員を整備して動かすというのと、俺たちには別件で頼みたいことがあるから魔族の集団の一件は任せて欲しいということだった。
別件に関しては後日騎士団長か国王の方から正式な依頼として連絡があるとのこと。
「それに、私自身としても使い物になる仲間が欲しかったからな」
「そうだったのか?」
「あぁ。別段戦いで困っている訳ではないんだがな、夜営で火の番が出来て襲い掛かってくる魔物に魔族の相手を出来る奴が欲しかった」
「あぁ、なるほど...言ってくれればお前の分も俺がやるぞ?」
「いや、お前の交代が欲しかったんだが?」
「え?」
何故に?
「まともに寝て休めということだ。気絶したから休めるだとか、ポーションで疲れは取れたとかは信用にならんし何より命を短くするだけだろうに。いやまぁ、最初にそれを押し付けた私が言うなという話だが」
「……ふぅむ...ならば、もう少し頼らせてもらうことにするぞ?」
「あぁ、頼りにしてくれ。これでも相手が魔王軍幹部相当でもなければ一人で対処し切れるんだからな」
「あぁ、そうだな」
そうか...気負いさせてしまっていたか。別段辛いとも苦労だとも思っていなかったし、実際上等なポーションを二、三本程度を飲み干せば体の疲労はごっそりと抜け落ちるしな...まぁ気負いさせるのは俺としても本意じゃあないからな。
今後仲間を増やさざるを得ないというか貴族との会談とか用の道連れやら生贄やらを引っ捕まえるだろうしな。頼ることを覚え始めるのも悪くはないだろう、使いものにならないのであれば適当なところで切り捨てれば良いしな。
「そういえば」
「うん? どうした?」
「いや、何人くらい集めるつもりなんだ? 一人だけを仲間に引き入れるというつもりではないんだろう?」
「そうだな...あと一人か二人、多くても三人ぐらいだな。あまり増やし過ぎても良くないだろうし、そもそもの即戦力となりそうなのがそれほどいないだろうしな」
「ほう、なるほど...ちなみに求める基準はどのくらいだ?」
「ふぅむ」
主に任せたいのは貴族やらの相手をする時だからな...野営での番を任せる基準としては少なくとも高位魔族を一人で殺せる程度の実力は欲しいが、それだけ有力な人材ならばどこかしらに所属はしているだろうしな。
そうなると………中位魔族を相手に有利に戦況を進められて、高位魔族を相手にある程度時間稼ぎが出来てその上で逃げることが出来る程度の実力は欲しいな。もしくは対人に特化していても良い、俺もファナも対人戦闘に関しての経験は薄いからその部分をフォローしてくれそうならば多少の実力不足は許容の範囲内にはなるな。
「軽く考えた上でだが、最低でも中位魔族を一人で殺せるだけの実力は欲しいな。俺やファナを見てその上で襲い掛かってくる仮想敵のことを思考に挟むと、少なくともそれくらいは無ければ文字通りの使い捨てにしかならんからな」
「うむ、そのくらいは最低限必要になるか...魔法使いはどうだ?」
「必要か? 大陸規模の魔法を全ての属性の数だけ扱えるというのならば使い物になるが、そうでなければ大して使えないし寧ろ邪魔だろ? それに魔法を一発撃つ時間があれば俺かお前が接近して殴った方が手っ取り早いしな」
「………言われてみればそうだな。そうなると必要なのは近接戦闘がメインで、私たちに出来ないこと...斥候とかか?」
「あぁ、アリだな。そういえばそういった方面の手段を取れなかったから考えてもいなかったが、言われてみれば確かに今後魔族以外を相手にすることも考えるとそうした能力は揃えた方が良いな」
「うむ。あとは、何だろうな……荷物持ちとか薬師とか錬金術師とかか?」
「その辺りも引き入れるのは視野に入れたが、流石に戦場を連れまわすことは出来んだろう? それに連れまわせたとしても戦力をそこに割いたり、狙われたところを守ったりしなければならんしな。どうしても弱点になるぞ」
「あー、確かにそうなるか。その辺りを揃えられれば大規模な戦闘の直後に即座に治療を施せるようになると思ったんだがな」
「それも良いとは思うが、個人的にはなしだな」
「む?」
治療が即座に出来るというのは良いんだが、それは裏を返せば戦闘で傷付くことを躊躇わなくなるということになる。いや別に今でも攻撃を受け止めてそのカウンターでぶち殺せばいいぐらいに思ってるんだが、治療があるというのは致命傷を受けても生き残れるという慢心が出るだろうからな。
その点を考えるとあの聖女が協力的でなかったというのはある意味で良かったのかもしれん、身内が頼りにならないからこそ今の本能的に致命傷になる部分に攻撃を受けるのを避けるというスタイルが出来上がっているんだからな。
ただここから治療が出来る奴を入れるとなるとそのスタイルに乱れが出るだろうし、最悪治療されるんだからで頭とか心臓とか脇腹とか太腿とかでも普通に攻撃を受け止めるなんてことをしてしまいそうだからな。
「治療がすぐに出来るなんていう保証は、おそらく死線を潜り抜けていく上で邪魔にしかならんだろうからだな」
「ふむ、ふむ...よく分からんが、お前が言うならそうなんだろう」
「………もう少し疑っても良いと思うぞ?」
「何故だ? 私はそこまで頭が回る人間じゃないというか正直なところ身に付けた能力以外に関しては馬鹿だからな。長い目で見た上でどうすればいいのかなんていうのはお前の方が遥かに分かっているだろうし、それにこれまでが正解だったからな」
「……まぁいい。ところで、役に立ちそうな今現在フリーな実力者の所在に関して心当たりはないか? 俺は全くないんだが」
「残念だが私も全く知らん」
「そうか、そうか...」
「うむ...」
………いやまぁ仕方ないと言えば仕方ないんだがな。そもそもファナがこの辺りを活動の軸にしていたのは五年前のことだし、俺に至ってはこの辺りで活動することなく外に行って魔王軍と戦ってたしな。
知らなくても仕方がないというか知っていたとしても五年もあれば既に何処かには所属しているかもしくは怪我で引退しているか、殉職しているかのどれかだろうしな。俺の知っている実力者は残念ながら騎士団に所属している面々か守るべき人がいる貴族とかばっかりだしな。
………なんでそんなところばっかと知り合いなんだ俺は? 勇者時代に一切パーティとかには参加してないし、貴族に呼ばれても軽く話したらすぐに旅に出ていたんだがな?
「うぅむ……あぁ、そういえば、あそこがあるな」
「あそこ?」
「奴隷市場だ、奴隷市場。金で人を買う場所だ」
「奴隷市場? あの時折借金持ちとかを売っている場所か?」
「あぁ、と言っても私が今言っているのは表の方にある職無しとか家無しとか借金持ちとかがメインになっている方じゃなくて、裏の色々と事情があって表では売買できない奴隷をメインに取り扱っている方の奴隷市場。場所が場所だから私としてはあまり好きではないんだが、掘り出し物を探すという意味ではありかもしれんぞ?」
「ふむ、奴隷か...だがそうした場所だと、負傷から欠損していたりして戦闘に駆り出すのは難しい場合の方が多いだろう? 現在一番優先したいのは戦力の側面というのを考えると、そこは少しというかかなり引っ掛かると思うぞ?」
「その面は問題ないと思うぞ?」
「………?」
「………そういえばお前は利用したことがないのか」
「…何がだ?」
「教会の治療魔法だ。普通に治療院で治療するよりも金が掛かる割に精神的な方面には対応出来ないのが基本なんだが、対応出来るのであればそれこそ千切れ飛んだ四肢の欠損から機能を失った器官の再生まで死んでさえいなければ大抵のことには対応出来るぞ」
「……そうなのか?」
「あぁ、私も昔は結構世話になった」
「そうか...」
………いや、確か金を持っていたり金のある組織に所属していたりする奴らが戦場で腕やら足やらを失ったのに、翌日の戦場では失った四肢を義肢ではなく肉の四肢を平然と元通りの位置に元通りの様子で付けて戦っているのを何度か見たことがあるな。
なるほど、あれを引き起こしたのが教会の治療魔法なのか...問題ない様子で動いていたし戦えていたように見えたからな、あの通りならば欠損なども気にせずとも問題はないと考えられるだろう。
治療に掛かる金に関しては全くと言っていいほど手元にないが、まぁそこは適当な依頼を片付けたり適当な魔物でも殺してその素材を売り捌けば補えるだろう。
「いや、それならば大丈夫だな。ステラに当てがないかというのと奴隷を買っても問題ないかだけ聞いてから動くとしよう」
「ふむ、確かに参入が決まっているなら私らだけで決めるわけにはいかないな...なら戻ってくるまで時間が出来たし、手合わせでもするか?」
「……止めておこう。弁償する内容が増えるだけな気がする」
「うん? 本気さえ出さなければ大丈夫だと思うが...」
「軽くなんて言ってもお互いに盛り上がってその内本気で打ち合いを始めるぞ、少なくとも前例が数十回はあるんだからな。大人しく素振りでもして待っているか、もしくは俺たちに頼みたいことが何なのか考えていろ」
「そうか...なら素振りでもしていよう」
「少し離れたところでしろよ」
「あぁ、そのくらい当然だ。別に巻き込むつもりは無いからな」
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