仲間集め①
あの後、祭り騒ぎをするかのように騒ぎ出した貴族たちに安堵の様子を全身から垂れ流していた国王に断りを入れて退出した。
そのまま出てくるのを外で待っていた文官に近衛騎士にメイドに執事たちの祝いの言葉を受けながら走り抜けて、ファナと待ち合わせをしている訓練場に飛び込んで誰もいないのを確認して...木剣を案山子に湧き上がる激情のまま数発叩き込んで見るも無残な残骸に変えてその上に座っている。
別にファナを待つ必要はない。必要はないが、これから起きるであろうことを考えると気心の知れて咄嗟に見捨てることを躊躇わないで済む道連れと生贄は欲しい。
なのでファナを待つ。
幸い今現在この付近には誰もいない来る気配もないし、あとこの壊した残骸に関して謝罪と弁償代の代わりにドラゴンの素材を渡しておきたいから誰かしら責任者に話を通して現物を渡しておきたい。
…………んん? 誰か来たな? 足音と気配的に...女ではあるがファナではない、となるとメイドかそれとも騎士か……どちらでもいいか。
謝罪を先に終わらせておくチャンスだろうし軽く話してから謝罪と弁償をするか。
「……おやぁ? そちらで何をしてらっしゃるので?」
「………待ち合わせと、これの謝罪と弁償をしたくてな」
「なるほどぉ? ふむふむ...英雄殿には部下が沢山お世話になっていますし、不肖の妹が散々迷惑を掛けていますし私が立て替えておきましょうか?」
「大丈夫だ、金はないが金になる物なら山ほどある」
「くふ、そこは金ならあるっていうところですよ?」
「誤魔化す理由はないからな」
「おー、その誠実さは流石英雄殿と言ったところでしょうかねぇ?」
入って来たのはどことなく見覚えがある金髪のミドルヘアの女。ほんのりと光が薄い緑色の目をして軽装化された騎士服に鎧を身に付けて帯剣していて、雰囲気としては吹けば倒れてしまいそうな程に華奢な雰囲気が視覚情報としては見て取れるが、感じられる気配と話している声からは怪しさしか感じられない女。
見覚えはないが勇者ではなく英雄と呼んでいる事から上層部の一員なのだろうとは思うのだが...ファナの姉ではないな。
何度か話したことがあるし何より戦場を共にした記憶もある、目の前のこの女に関してはそうした記憶が一切ない。
「あぁ、申し遅れました。二年前までは第二王女付きの侍従騎士たちの取り纏め役を担っておりまして、先日まで王国騎士団第十三騎士隊の隊長をしておりますステラと申します。一応以前は英雄殿の仲間として扱われておりました聖女エリフィア・オーズの姉でもありますね。生憎オーズの家を追い出されて久しいですので話したことは全くと言っていい程ありませんが」
「ステラ、オーズ...あぁ思い出した」
「おや? いえ、確かに悪評は多い部類ですし広まっている自負はありますが、まさか英雄殿の耳にまで届いているとは」
「王都のイカサマ上等な闇カジノで男娼を呼んでは酒で潰してを繰り返して、闇カジノのスタッフ全員をダウンさせて営業停止まで追い込んだ酒豪だとか」
「んえぇっっほっ!! え、英雄殿? どちらでそ、その話を?」
「酒場で知り合った女騎士。白百合の簪をしていたな」
「…………ぁぁ」
「……大丈夫か?」
「え、えぇ...非常に致命傷ではありますが、ね」
怪しげな雰囲気を吹き飛ばすように大きく咽て、それから項垂れるように地面に崩れ落ちた女。
実際嘘は言っていないし聞いたというのも事実ではあるが...本人の想定していた悪評の方も知らない事はないというか普通に何度も聞いたことがある。
ステラ、旧名をステラ・オーズとかいう女。
聖女を輩出したオーズ家を勘当されて行く当てを無くしていたところを騎士団員に拾われて見習い騎士になり、そのまま騎士団の一員として認められて王女付きの侍従騎士にまでなったという素敵な経歴を持っていた。だが悪人に容赦がない狂人であり仕事の殺しを楽しみ、とある違法商人の関係者を皆殺しにして回った罪を咎められて侍従騎士の任を落とされたとかいう話だ。
それ以外の噂で言うと...拷問をするのもされるのも好きで仕事という名目で悪人を嬉々として拷問に掛けて、平時では新米騎士から熟練騎士に対して訓練の名目で拷問を受けているとか。
騎士団に所属している裏で違法薬物の売買や闇ギルドの運営をしているが、王族の利益になっているから黙認されているとか。
欲求を満たすために表には出せない子供を引き取っては情欲に耽りその後証拠隠滅と加虐欲求等々を満たすために散々嬲ってから殺しているとか。
まぁ、騎士団に所属している人間がそんなこと出来るわけが無いし、そもそも素肌等々を見たことある女性騎士が傷一つない綺麗な肌をしているとか、天然なのかと思ってしまうくらいには初心でそういう事に耐性が無いとか言っていたからな。
噂の九割は嘘かもしくは本人が自身の存在があるということで威圧されるようにばら撒いているといった感じだろうな。
悪人に容赦が無いのは事実らしいけど。
「ん、んん!!! それで英雄殿は、何故こちらで待ち合わせを?」
「分かりやすいしついでに体を動かせるからな。まぁ動かした結果がこの残骸の山ということなんだがな」
「なるほどぉ...ところで、報告以外のもう一つの目的は何でしょう? 聖騎士殿とは別れて動いておられるようですが」
「聡いな、まぁ良いが。あと、英雄じゃなくて名前で呼んでくれむず痒い」
「善処しましょう。それで、目的は何でしょう?」
「指揮官の存在しない魔族の集団を見かけた。襲撃を仕掛けて殺してきたが、何処かに魔王軍幹部か最高位魔族のどちらかが存在している可能性があるからな。此処を襲撃されて王族全員が殺されるなんて事態になればこっちの指揮系統が混乱することになるだろうし、その隙に好き放題魔族共に暴れられても叶わんからな。騎士団の動かせる人間総出で魔族の集団を見つけて殺してくれと頼みに行った」
「なるほどぉ...都合が良いですねぇ」
「そうなのか?」
「えぇ、遠征中の第五と荒くれ鎮圧に奔走している第八、それから各都市に部隊員を配属している第十以外の騎士隊は皆揃っていますので。それに各騎士隊長が直接対応しなければならないような案件も今はないですし」
「なら、確かに都合が良いな」
「えぇ」
ここ最近、運の巡り合わせが悪いと思っていたがここで元に戻って来たというか帳尻を合わせて来られるとはな。まぁ、悪くない。
………ファナはまだ遅くなりそうだな。じゃあ、暇を潰すがてら聞いてみるか。
「………それで、何故お前は隊長を下りた?」
「おや、聞き流していませんでしたか。まぁ単純な話です、ちょっと仕事の方で大きな失敗をしましてその責任を負う形で辞職しました」
「ほう、どんな失敗だ?」
「魔物を殺してくれなんていう依頼でしてね、まぁぶっちゃけますとサキュバスを取り込んだローパーが下は奴隷に上は貴族までを苗床にしていたんですよ。それで犠牲者を救出出来たらよかったんですけど、出会い頭に殺し損ねて死に掛けたローパーが苗床に着床させた種子を一斉に開花させてしまいましてね」
「あぁ...災難だな」
「えぇ、災難ですよ。それでその貴族の遺族に責められまして騎士を辞めるしかなくなってしまったんですよねぇ...まぁ抵抗したのも悪いんですけど」
「その状況なら普通は抵抗するから気にしないが、にしても本当に不運な事故というか災害に巻き込まれたな」
「えぇ、全く」
同情するわ、それに面倒事の塊でしかないローパー相手に女が対処に向かわされているという時点で最悪に近いのにな。あいつら臭いんだよな、なんか腐臭というか多種多様な媚薬を一切希釈せずに混ぜ合わせた感じの臭いがする。
ちなみに、ローパーっていうのは生物を苗床に自分の種子を植え付けて生まれ直しを繰り返しながらコロニーを拡大する植物型の魔物だ。俺も何度か討伐したことがあるし何なら村そのものをコロニーにしたローパーの対処をしたこともある。
ちなみに苗床になる生物の性別は女ということはなく普通に男も苗床になる、というか母体としての強度的には男の方が頑丈なのでそっちの方が多い。
貴族が巻き込まれた原因に関しては...まぁ大方ただの魔物だと思って殺しに行って返り討ちからの苗床化みたいなところだろう。普通に生まれたてのローパーでも大概の魔物は返り討ちにするし、なんだったら上位の魔族を捕まえて苗床にしていたりするのもいるぐらいだからな。
唯一の救いは希少性が高いから滅多に生まれることがないし、生まれたとしてもどれだけ生まれ直しを繰り返してコロニーを形成したとしても五年で死ぬというのが不可逆なところなんだがな。
全く持って理解出来ない生態をしているから専門の研究者が定期的に出て来るんだが、まぁ実地研究をしたいと言い出してその後の末路は言うまでもないな。
「ちなみにだが、今後の行き先はあるのか?」
「いえ? 全然考えておりませんねぇ、冒険者でも雑にやってみるのも一興ではあると思いますけど...何となく気が向きませんからねぇ」
「ふむ………なら、俺たちと来るか?」
「おや? よろしいので? 厄介ごとも付いて来ることになってしまいますけど」
「構わん、それに今更厄介ごとの百や二百増えようが関係ない」
「いや、流石にそんなことはありませんけども」
「じゃあ逆だな。大量に厄介ごとを抱えているが、俺たちと来るか?」
「……くふ、くふふ。なるほど」
英雄なんて称号が与えられておそらく今後色んな事を頼まれる羽目になるだろうし、そうなることを考えるとファナ以外に簡単に使えて動かせる手札が欲しい。
その点で考えると結構な大きさのコロニーを形成したであろうローパーを出会い頭に瀕死にさせられるだけの実力者であるなら申し分ないからな。
「では、お世話になりましょうか」
「そうか。ならばよろしく頼むぞ」
「えぇ、お任せくださいませフェルノ殿」
「あぁ、任せようかステラ」
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