王城への帰路②
アンデッド。魔物の種類の一つではあるんだが、誕生の仕方に自然発生、死体変換、人為生成の三種類の区別方法があるという特殊な魔物。
基本的に発生して活動するのは太陽が沈んだ夜の時間なのだが、パレードと呼ばれる集団にであったり力ある存在が変換した場合のアンデッドは太陽の出ている間から動きだす事がある。
それでアンデッド共の最悪の特性として生物、特に沢山の人類がいる場所を本能的に感知して其方に向けて行進するということ。それでこの真昼間から活動していて、気配の感じ取れないような場所ですらその臭いを感じ取れるだけの大規模なパレードに巨大なアンデッドだとするのならば...それで生じる被害は村や街一つでは済まなくなる可能性が高い。それ故に俺はファナに声を掛けて走り出した。
そして、
「……大当たりだ、クソッタレ」
「な...あぁ、確かにクソだな」
「巨人とトカゲは吹っ飛ばす。お前は最前列に立って止めろ」
「任された」
若干だが上り坂になって丘の様になっている野原を走り抜け、下り坂になる境目に辿り着いた瞬間に非常に面倒くさい最悪の光景が其処に広がっていた。
感じ取った臭いと思い起こした記憶を混ぜ合わせた思考の結果と同じく、そこにいたのは数千匹規模の大規模な付属品付きのアンデッドのパレード。
四匹の巨人ゾンビに二匹のドラゴンゾンビ。
アンデッドとして考えるのならば最悪クラスのそれらが、数千匹のゾンビやらスケルトンやらが入り混じったアンデッドを引き連れて意気揚々と行進している。
幸いなのは目を凝らして周囲を見ても大勢の人が居そうな場所が見えてこないということ、そのおかげでこのパレードを見た人間が動揺して恐怖してそれからアンデッドに向かって突っ込んでくるなんていう事態にならなくて済む。
ファナにアンデッドの最前列に向かって進行を押し止めるように伝えてから、俺は後ろをのそりのそりと進んでいるドラゴンゾンビに向かって飛び込む。
こんなことになるんだったら木の棒の二本三本でも拾って来るべきだったなんて思いつつ、魔法袋の中から念のためにと引き抜いておいた先のアースドラゴンの骨を取り出して握る。
「さぁ、ゴミ掃除の時間だクソども」
そうして飛び込んだ先でドラゴンゾンビがこちらを認識する前に握った骨を振り抜く。泥の塊を掻き分けるような感触が振り抜いた骨を通じて伝わってくるのと共に、ドラゴンゾンビの全身が弾けて周囲に散らばっていくのを視界に捉える。
そのまま着地して砕けて使い物にならなくなった骨を投げ捨てて残っているドラゴンゾンビの体の中から骨を引きずり出して、此方を認識し始めているもう一匹のドラゴンゾンビへと接近して引きずり出した骨を振り抜く。
そうすれば一匹目と同じように弾けて周囲一帯にその全身を散らばらせていくのを視界に収めつつ、肉片の合間を縫って微動だにしなくなった残骸に接近して同じように骨を引きずり出す。
『『『『――――――――』』』』
「……っち、お前らだけかよ」
骨を引きずり出した時点で周囲のアンデッドたちが反応して、それから巨人ゾンビが進行を止めてこちらへと向かって来るが、それ以外のアンデッドたちはそれまでと同じように進行を再開する。
悪態を吐きつつ一番遠くにいた巨人ゾンビの胸部に向けて骨をぶん投げて、被弾の確認もせずに一番近くの巨人ゾンビの足元まで移動して腐ってボロボロな状態の脚部を蹴り砕く。
そうすれば支えを失った巨体が崩れ落ちてくるので、その場を離れて残りの巨人ゾンビの方へと走る。
『『―――――――――』』
声にならない声、音ともいえない音を立てながらボロボロの体を動かして、走っているこちらに向けて腐って骨が見えるまでに落ち窪んだ腕を伸ばして来る。その手を掴んでそのままねじ切りながら腕を伝って上へと昇っていく。もう一方の腕、もう一匹の両腕が俺を捕まえようと伸びて来るが所詮は腐った死体が動き出している程度の動き、それよりも速く肩の上まで駆け上がって頚椎を掴んでそのまま首を引き千切る。
そのまま三匹目の首を叩き折ろうとしたところで、進行しているアンデッドたちを地面を捲り上げながら吹き飛ばしてくる気配を感じたので狙いを付けた三匹目をその気配の方へと放り投げて、それから最初に転がした巨人ゾンビの元へと向かってそのまま頭を踏み潰して首から下をアンデッドの集団のど真ん中に向けて蹴り飛ばす。
『―――――――』
そうしていると視界の端から骨が胸部を貫通して突き刺さっている四匹目に当たる巨人ゾンビが俺を踏み潰そうと体を振り上げているのが捉えられるので、走り寄って行って軸にしようとしている方の足を思いっきり蹴り飛ばして転がす。
そうすれば大きく音を立てて土埃と肉片をばら撒きながら倒れるので倒れた足の方から上って、立ち上がるために地面に突き立てようとしていた腕を蹴り飛ばしながら頭に向かって、そのまま頭を地面に叩きつけるようにして踏み砕く。肉片が撒き散るのを確認しながら貫通している骨を引き抜きながら地面に下りて、残っているアンデッドの集団の方へと向かって骨を全力で振り抜きながら走っていく。
~~~アンデッド、殲滅中~~~
「相変わらず、後始末が面倒だな此奴らは」
「そうだな...それにしても随分と汚れたな。お互いに」
「ゾンビの割合が多かったからな。どこぞのアホ共が死体の処理を碌にせずに墓地に埋めたのか、それともどこぞの畜生がアンデッドの使役を目論んだのか...どっちにしろ全部が全部自然に発生したわけじゃないだろうな」
「そうなのか? 自然発生でもあり得るような規模だと思うが」
「巨人とドラゴンを除けば人間以外の死体がねぇ」
アンデッド共を処理し尽くしてバラバラになった死体を掻き集めながら片端から火を点けて燃やしながらファナと言葉を交わす。
互いにアンデッドの肉片が体を汚していて腐臭が鼻を襲ってきているが、それらを流して落とすよりも先にバラバラになったアンデッド共の後始末を優先しているのは再発生を防ぐため。
基本的に頭を叩き潰したりバラバラにしない限り死なないというか活動を停止しないアンデッドだが、処理した後にその残骸を放っておくと一時間もしない内に残骸が一つに集まってそのままアンデッドになって活動を再開する。
そうならないようにこうして先んじてバラバラにした残骸に火を点けて処理をしないといけない、今回のこの集団が自然発生した物ではなくて誰かの手によるものだとしても。
「……言われてみれば確かにそうだったな」
「だろう? これがどういう進路を辿って来たにしろ、これだけの数がいて人間以外を一切巻き込まずに進行してこれたというのは異質だ。リッチやらネクロシスでもいれば話は別だったが、そういう奴もいなかったしな」
「あぁ、私もそういうのは確認していないな」
「そうなると誰かがこれだけを生み出したという推測が出来る。まぁ巨人にドラゴンがいるから此奴らが道中で村だの集落だのを襲ってその死体がこういう形で動き出しているという可能性もなくはないがな」
「ふむ...魔族の可能性はあるか?」
「あるんじゃないか? いつだったかにアンデッドを量産していた奴を研究施設ごと破壊したからな。同じようなことを考えている奴がいないとも限らんしな」
「ふぅむ...探すか?」
「探さん」
人為的に引き起こされた可能性があるとしても、今から居場所の分からないそれを探すわけにはいかない。
アンデッドの生産と量産を目論んでいるという時点で対処しなければならないのはそうなんだが、探すとなれば最低でも一ヶ月は掛かるだろうから王城に報告しに行かなければならないので今すぐというわけにはいかないからな。
それに所詮はアンデッド、どれだけ集まろうが大きくなろうが雑魚に過ぎんから気にする必要は一切ない。
「ふむ...私としては探しておきたいが、まぁお前の選択を受け入れるとしよう」
「そうしてもらえると助かる。お前を拘束して引き摺って王城まで移動するのは手間だしな、それに所詮は叩けば潰れるアンデッドだからな」
「そうか? ……そうだな。松明の一本でもあれば容易に対処出来るしな」
「あぁ...それよりさっさと片付けて洗い流して、移動を再開するぞ」
「うむ、そうしよう」
思ってもいなかったところで時間を取られる羽目になったし、真っ直ぐ帰れば確実に辿り着ける順路だったのを脇道に逸らされたからな。
どっちの方面にあるのかとか現在地点だとかを把握して道を決めないといけないからな。さっさと処理を済ませて体に付いた残骸を洗い流してしまいたい。
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