3.この世界の問題。







「ふむ。今日は腹八分目、といったところか」

「……ホントに食いきった…………」



 朝食を終えて。

 俺は少しだけ不満げな隊長を見て、苦笑いを隠せなかった。しかし彼女はそんなこちらの気持ちを気にもかけず、一つ咳払いをして話し始める。



「ところで、真人くんには色々説明しなければならないな」

「説明、ですか……?」



 首を傾げると、天道隊長は頷いた。



「あの方から託されはしたが、具体的なことは聞いていないだろう? あの後で、私から子細を説明するように言われたのだよ」

「なるほど。そういうことか」



 どうやら、この世界での目的云々ということらしい。

 俺が姿勢を正すと、隊長は続けた。



「まず、このワルキューレの存在意義だな。すでに交戦したと聞いているが、知っての通り悪魔を討伐することが主目的ということになる」

「それってつまり、治安維持的な……?」

「その側面もあるが、攻略戦という意味合いもある。例えばキミが倒した巨大な悪魔がいただろう?」



 そう言われて、俺はあの豚のような悪魔を思い出す。



「あのような巨大な悪魔は、定期的に発生する。これは俗にいう『レイド戦』というのだが、それ以上に厄介な存在がいるんだ」

「厄介な存在……?」

「あぁ、あの方はそれを『魔人』と呼んでいる」



 そこまで語ってから、隊長は言葉を切った。

 そして、難しい表情でため息をつく。



「思考力をほとんど保持せず、ただ人々を襲う下位悪魔とは違う。奴らはここの思考を保持し、明確な敵意を持ってワルキューレを壊滅せんとしてくる」

「……それが、魔人ですか」

「そして、さらに面倒なのは奴らが各々に固有の力を持っていることだ」

「それって例えば、どんなものです?」

「あぁ、そうだな――」



 俺の質問に、少し考えてから彼女は言った。



「例えば、キミの中から生まれた存在――ヘラクレス。それと同列に扱うのも不服だが、どういうわけか奴らも同様に己の内なる存在を武器としている」

「…………なる、ほど……?」

「困惑するのは分かるさ。この原理については、私たちにも明かされていないんだ。ただ明確なのは、魔人は我々と敵対する存在、ということ」

「ふむ……」



 とりあえず、ここまでは理解できた。

 俺が頷いたのを確認して、天道隊長は次の問題に移る。



「それとは別に、最近は色々と問題も起こっていてね。これは原因が定かではないのだが――」



 彼女は眉をひそめつつ、こう言った。



「元々の世界。そこで語られていた都市伝説やオカルト、あるいは噂だけで語られるような事件が顕現化している」

「顕現化……?」

「つまり『現実になっている』ということさ」



 こちらの理解が追い付いていないことを察して、隊長は少しだけ考えて……。



「いいや。これについては、実際に見てもらった方が分かりやすい」

「………………え?」



 その言葉に、俺は思わず声を漏らした。

 すると、そのタイミングで――。



「隊長! また、アイツが出たみたいです!!」

「賀東か。分かった、すぐに行こう」



 圭司が慌てた様子で食堂に飛び込んできて、隊長は真剣な声色で返した。

 そして、俺がまだ食事に手付かずなのを確認して言うのだ。




「悪いが、それは胃に入れない方が得策だ」――と。




 

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