2.出会い。
――殺風景。
その言葉の通り、目の前に広がる街並みは死んでいた。ふらつく足で歩いてみても、人の影すらなく、並んでいる建物の多くが荒廃してしまっている。
それでも看板や標識を見る限り、ここが自分の住んでいる街だというのは分かった。しかし、それが分かるからこそ気味が悪い。
既視感と目前の事実が乖離している程に、強い頭痛と吐き気に襲われた。
「なんだってんだよ、ここは……!」
夢の続きなのかとも思ったが、五感がそれを否定する。
周囲にあるものは確かに存在しており、手を伸ばせばしっかりとした感触がある。そのたびに絶望が募り、俺は思わず眉をひそめてしまった。
それでも、足は止めない。
ここで立ち止まっては、きっと何も答えが分からないままだ。
「答え……? もしかして、ここは――」
そこまで考えて、俺はふと思い出す。
そして、それを口にしようとした瞬間だった。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
「ひっ……!?」
角を曲がって、ちょっとした裏路地に足を踏み入れる。
すると、そこには――。
『ニン、ゲン……! カハハ、メシダ、メシダ!!』
――異形の怪物が、長い舌を垂らしながら這っていた。
黒の全身が爛れたそいつは、剥き出しの眼球をぐるりと回しながら俺を捉える。唾液をぼたぼたと落とし、六つの足でずるずると迫ってきた。
笑っている、のだろうか。
目の前にエサがやってきたことに、歓喜しているように思えた。
「あ、あ……!」
逃げないと、食い殺される。
考えるよりも先に、俺はそう直感した。でも――。
『キャハハハハハハハハハハハ!? ナンダ、フルエテウゴケナイノカ!?』
「く、そ……動け、動いてくれ……!!」
まるで足の甲に杭を打たれたように。
俺はその場から、一歩も動けなくなっていた。震えるしかないこちらを見て、怪物はケタケタと笑いながらゆっくりと近づいてくる。
頭では分かっているのに、完全に竦んでしまった身体は言うことを聞かない。
そして、ついに怪物の射程内に入った。
『ヒサシブリノ、クイモノォォォォォォ!!』
「う、わ――!?」
その時だ。
「頭を下げろ、そこの坊主!!」
後方から声が聞こえたのは。
とっさに俺がしゃがみ込むと、その直後――ズドン!
「え、あ……?」
そんな銃声のような、重い音がして。
恐る恐る閉じていた目を開くと、怪物の顔のあった部分は消し飛んでいた。断末魔の叫びが響き渡り、めのまえの異形は霧散していく。
最後に何かを叫んでいたが、しっかりと聞き取ることはできなかった。
「おい、大丈夫か。……どうして、こんな場所で丸腰なんだ?」
唖然とそれを見ていると、いつの間にか尻餅をついていたらしい。
声の主は俺の前に回り込んで、その逞しい手を差し伸べてきた。
「そんな軽装でいたら、悪魔共の餌食だぜ?」
「あ、くま……?」
見上げるとそこには、精悍な顔つきをした一人の男子。
赤く染めた髪を短く刈り上げており、眼差しはその性格を示すように鋭かった。それでも口元には微かに笑みが浮かんでおり、人当たりの良さを感じさせる。
身に着けているのは、簡素な軍服のようなもの。
手には怪物――悪魔を退けた一丁の銃が、しっかりと握られていた。
「……その様子だと、どうやら今さっき入ってきた新人、ってところか。それだったら、ひとまず自己紹介といこうか」
彼はそう言うと、どこか無邪気に笑って名乗る。
「俺の名前は賀東圭司! 悪魔狩り部隊、ワルキューレの一員だ!」
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