第4話「衝撃の事実」
私は王家主催の夜会には、第三王子レンブラント様の婚約者として、必ず招待されている。
いつものごとく彼の瞳の色と同じ青いドレスや装飾品が事前に届き、婚約者である私は、それを身につけて登城する……のだけど、私は馬車にまでわざわざ迎えに来てくれていた婚約者レンブラント様の頭上に浮かんだ数字を見て、とても驚いてしまった。
……え?
すぐには理解出来ない。
「あ……あの」
「……? どうした? リディア。手を」
馬車から降りようとして差し出した手を取らない私を不思議に思ったのか、レンブラント様は自分の手を取るようにと促した。
慌てて大きな手を掴み、レンブラント様の美しく整った顔……いいえ。実際には、彼の頭の上にあるふよふよと浮いている数字を見た。
『100』? これって、最高値? 恋愛指数が? え……嘘でしょう。冷たい態度を取り続けている婚約者の私へ……ではないわよね?
……では、これは誰に対しての数字なの?
そういえば……この前の神官の話通りだと、恋愛指数は『100』が最高数値で、つまり……レンブラント様は最高潮に誰かに恋をしているということ?
それって、誰なの? 私……ではないわよ。
だって、会場までエスコートしてくれる今だって、淡々とした態度を崩さず仕方なくといった義務感で満載だったもの。
今まで私は、レンブラント様はそういう恋愛事に対し、興味のない人だと思っていた。
婚約者の私に対しても、そういった空気にならないし、彼にとって婚約結婚などは義務なのだろうと……。
けれど、これって……最高に恋愛に興味ありってことよね?
何をどうして? と、現在私の頭の中は大混乱をしているけれど、レンブラント様には、ここでその理由を知られてしまう訳にはいかない。
だって、親が決めたとは言え将来結婚する婚約者から『私以外の誰に恋をしていらっしゃいますか?』と聞かれて、それを素直に話してくれる人なんて居ないと思うわ。
私の手を取って歩くレンブラント様は、いつも通りに口数少なく、あまり話さない。
この前だって我がダヴェンポート侯爵邸であまり会話が弾まないお茶を共に飲んだところだし、レンブラント様はこのところ公務で忙しくされていたそうだから……話すこともなく、そうなのだろうけど。
待って。これって、彼に他に好きな人が居るから、私にはこんなにも冷たかったということ?
……嘘でしょう。
私ったら、なんて馬鹿なの。
そんな可能性を、今まで考えもしなかったわ!
私たちはいつものように舞踏会場入りし、そつなく婚約者として振る舞い、身分の高い者から順に踊ることになるから早々に二回踊った。
踊っている間も彼の頭上にふよふよと浮かぶ『100』が気になってしまい、レンブラント様の整ったお顔を不用意に見られない。
「……ああ。リディア。そういえば、十七歳の誕生日に与えられた君の能力(ギフト)は何だったのか、聞いて良いだろうか?」
「わっ……私の能力(ギフト)ですか!」
二回目のダンスを終えた時、あまり婚約者に興味を示さないレンブラント様に不意を突かれて、自分でもおかしいくらいに慌ててしまった。
レンブラント様は何もおかしくない質問をしただけなのに挙動不審になっている私を見て、とても驚いた表情になっていた。
ああ……し……しまった。
ここから、何をどう説明すれば『お菓子が賞味期限が切れているか見ればわかる能力』だと、嘘をつくことが出来るの?
だって、もしその能力(ギフト)ならば、慌てる必要なんて何もないもの。
十七歳の誕生日にはお祝いの手紙と豪華な花が届いていたけれど、ちょうど公務で多忙だったレンブラント様には未だ会えていなかった。
オルレニ王国では十七歳以上の人間は、能力(ギフト)を持っていることは当然で、十七歳の誕生日直後には割と話題に出たりする。
だから、誕生日を過ぎた私に、レンブラント様が、それが気になってしまったことは理解出来る。
出来るけれど、私はついさっきレンブラント様の恋愛指数が最高値であることを知ってしまい、それからそれについてしか考えられなくなっていた。
……どういうことなの? 誰に恋をしているの?
婚約者の私には……こんなにも、冷たいのに?
いくつもの疑問符が頭の中で止まらないままに回転していて、気分も落ち着かないし思考だって落ち着かず止まらない。
だって、彼には私とは違う別の女性が居るってことでしょう……?
私の言葉を待っているレンブラント様に、彼に何の能力(ギフト)か聞かれればこうしようと思って居た能力(ギフト)を思い浮かべては、ここで聞かれてもこんな反応はおかしいと思い直す。
だから、無言のままで不思議そうな表情を浮かべた彼を、見つめるしかなかった。
ううん……おかしいおかしい。この状況はとても、おかしいわ。
ええ。わかっている。自分が、変な態度をしているってことは。
けど、レンブラント様の頭の上にふよふよと浮かぶ『100』を見る度に、どうしようもないくらいに、とても動揺してしまっている。
「あの、リディア……どうしたんだ? 先ほどから、何だか様子がおかしいように感じるのだが」
質問をしたのに黙ったままの私に対し、しびれを切らしてしまったのか、芸術的な配置にある両眉を寄せ、彼は渋い顔をしていた。
……ええ。レンブラント様の頭の上の『100』が、気になってしまって堪らなくてですね……なんて、言えない。
……ああっ! 何をどう言えば、これをここから誤魔化せるの?
「そっ……そういえば、レンブラント様。レンブラント様の能力は、何なのですか?」
私より二つ上のレンブラント様は、既に能力が発顕しているはずだ。
それを、今までに気にならなかったと言えば嘘になる。けれど、さりげなく聞く機会がこれまでになかったのだ。
咄嗟に切り返した質問は彼にとっては予想外だったのか、レンブラント様は見る間に不機嫌な顔になり首を横に振った。
「……君に僕の能力(ギフト)を伝えるつもりはない」
あ。やっぱり……彼は、こうでなくてはいけないわ。
冷たく言い放つと見る間にスッと無表情になり、何故かじっと私を見つめると、レンブラント様は私から唐突に離れて行った。
一人残された私はどうにか難を逃れたと、胸を撫で下ろして大きく息をついた。
レンブラント様が離れてくれて、ようやく少し落ち着いて考えることが出来る。
……いえ。待って……だって、まだこの目の前にある現実が、上手く理解出来ないわ。
だって、レンブラント様は恋愛指数が最高値『100』なのでしょう?
婚約者の私には、このようにしてとても冷たい態度だということは……彼は一体、誰に恋をしているの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます