ふたりのお話

「知りたい? 私たち夫婦のこと?」と、花巻メアリーは言った。

「何から話そうかしら?」


 メアリーは、頬に手をやり、首をかしげる。


「あれは、13年前のことだったわ」


◆◆◆


 私は、とても遠い国から日本へやって来て、右も左も分からなかったの。

 そんな時に、望実と出会ったのよ。

 彼は、とても親切で、丁寧に色々なことを教えてくれたわ。

 日本の歴史とか習俗とかね。

 これは秘密なんだけど、私は身ひとつで亡命して来たの。

 望実は、私に居場所をくれた。家だけじゃなくて、精神的にもね。

 でも、彼ったら、私のことをしばらく子供だと誤解していたのよ。まあ、私はちょっとした病気で、13歳で成長が止まってしまったから仕方ないけれど。

 3年間、望実とふたり暮らしをするうちに、私は彼に恋をした。私を助けてくれたのが、望実でよかったわ。

 それで、私、告白したの。望実の返事は、「結婚しよう」だったわ。

 私たち、お互いに惹かれ合っていたのよね。

 ふたりで過ごす日々は穏やかで、私の今までの人生とは全く別物だったわ。

 望実のフィールドワークに付き添ったり、ふたりで料理を作ったり、掃除したり、「おやすみ」を言って、「おはよう」を言う。そんな日常を、私たちは愛してた。

 望実と結婚してからも、ずっと幸せだったわ。そして、娘が生まれて、私たちは親になった。

 私は、怖かったわ。私は、家族というものを知らなかったから。

 でも、望実が私を支えてくれた。だから、私は幸せな家庭を築けたの。

 これから先、どんな困難が訪れても、花巻家は力を合わせて乗り越えてみせるわ。

 え? 望実の好きなところ?

 全部だけど、強いて言うなら、彼が好きなことに夢中になってる横顔が好きかしら。とても素敵なのよ。ふふ。私のライバルは、民俗学ね。

 話は、おしまい。


◆◆◆


 クラルス教国は、大規模な魔女狩りを行い、次々と彼女たちを火刑にした。

 それから逃れるために走る。

 そして、時の魔女に助けを求めて、こことは違う場所へと逃亡した。


「鏡の魔女よ。いずれ借りを返してもらうぞ」


 背中に投げられた声。それを聞きながら、メアリーは時間と場所を飛び越える。

 そして、メアリーと花巻望実は出会った。


「君は?」


 メアリーの話す言葉は、古ラテン語に近く、望実はなんとか翻訳しながら会話をする。

 現代にはない、悪魔と契約した者が魔女となる国のことを知り、望実はそれを興味深く思った。

 望実の世界に現れた魔女。メアリーを研究対象としたが、そのうち情が湧いて、ふたりは夫婦になった。

 鏡面異界譚を参考にしているため、望実には分からないことだが、メアリーは異世界から来たのではなく、遠未来からの来訪者である。

 メアリーは、望実にも秘密にしていることがあった。

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