第3章:光

黒い半ズボンしか履いていないスキンヘッドの男がギターをかき鳴らすと、目の前の光が眩しく輝き、一瞬、視界が真っ白になる。そして、その光が消えると、そこには等身大の由美が映し出されていた。彼女は微笑みを浮かべて、じっと僕を見つめている。


その瞬間、もう涙なんて枯れ果てたと思っていたのに、一気に溢れ出した。涙は頬を伝い、首筋を流れて、水中に溶けて消えていく。心の奥底から込み上げてくる罪悪感が、まるで堰を切ったように僕を押し流していく。


「由美……ごめん、本当にごめん……!」


僕は声を震わせて叫んだ。


「あの時、会いに行けなくてごめん……! 由美が苦しんでたのに、僕は……。 君を大切にできなかった自分が、本当に許せないんだ……」


由美の姿が涙でぼやける。視界が歪み、僕はその場に崩れ落ちた。泣きながら、無力感と後悔に押しつぶされそうになる。由美は、ただ微笑んでいた。その笑顔はかすかに揺れながら、静かに口を開いた。彼女の声が、僕の心に直接届くように響く。


「大丈夫だよ。 私は、ちゃんと幸せだったから。 涼くんと過ごした時間があったから、最後まで笑っていられたの。 だから、自分を責めないで」


「でも、僕は……1人にさせてごめん。 もっと早く気づいていれば……」


僕は必死に声を絞り出した。涙が止めどなく溢れてくる。


由美は、優しく笑って言った。


「そんなことないよ。 涼くんがいてくれたから、私は強くいられた。 いつまでもここにいないで、涼くん自身の人生を生きて」


その言葉が胸に染み渡り、冷たい水の中に温かい光が射し込んだようだった。けれど、まだ心の奥底には重いものが残っていた。


「——僕は、由美を忘れることなんてできない……」


「忘れる必要なんてないよ。 大切に思ってくれて、それで十分だよ。 私のことをいつまでも背負って生きる必要はない。 涼くんが笑っている姿を見たいの」


由美の言葉が、少しずつ胸の中の重みをほどいていくように感じた。息がしやすくなり、涙もようやく静かに落ち着き始める。


「ありがとう、由美。 君の分まで、ちゃんと生きるから」


「うん。 くよくよしてたら、らしくないでしょ! 辛い時は、星を見上げて。 涼くんが笑えるまで、いつでもそばにいるから」


由美は柔らかな微笑みを浮かべたまま、静かにその場から消えていった。


深く息を吸い込み、目を開ける。まだ涙の余韻が残っているが、心は少し軽くなった気がした。


黒い半ズボンしか履いていないスキンヘッドの男は微笑み、ギターを弾き続けたまま目を瞑っている。


——ありがとう。


僕は黒い半ズボンしか履いていないスキンヘッドの男にお礼を告げて、彼が示す光の方へと足を向けた。目の前の世界が白く輝き始める。振り返ると、黒い半ズボンしか履いていないスキンヘッドの男の姿はもうなく、代わりに巨大な電気クラゲが青白い光を放ちながら漂っていた。


目を覚ますと、僕はベッドの上にいた。涙の冷たさの中に、まだ微かに温もりが残っている気がした。


——大丈夫、由美。 僕は歩き続けるよ。

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【ウミガメ小説 #2】 影と光 ウミガメ小説 @umigameshousetsu

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