第5話 香苗と海翔のはじめまして

「そろそろ食べない?」

「そうだね」


私は、一息をついて、弁当を開けた。


「やっぱり、誰かと食べると気分が上がるよね」

「そうだね」

「ねぇ、そろそろ紹介してくれない?名前ぐらいはさ」


香苗は、私の彼氏の名前が気になってしょうがなかったらしい。私から言うのか、海翔くんから自主的に言ってくれるのか、分からなかった。でも、海翔くんが、何故かこっちを向いて何か言いたげにしていた。(これは、多分、自分から言いにくいから、友達である私が言ってって言ってるな)しょうがない。紹介してやるか。


「彼が私の彼氏である桐谷 海翔(かいと)ね。はい、ここからは自分で頑張って!」

「え?代わりに言うねっていう顔してたじゃん」

「名前だけは言ってあげようかなと思っただけ」


言ってやったぞとドヤ顔を海翔に見せつけてやった。


「しょうがないな。さっきも言ってくれた通り、俺の名前は、桐谷 海翔。よろしくお願いします。」


照れくさそうに自己紹介をした。


「海翔くんですね。よろしくお願いします。部活、何か入っていますか?」


2人の様子を見て、思わず笑ってしまった。


「何よ?」

「お互い照れすぎじゃない?」

「何がいけないのよ。初対面なんだから、仕方がないでしょ」

「まあね。私も最初はそうだったし。ごめん。話、続けていいよ」

「部活は、軽音部です。ドラム担当です。」

「おー。かっこいいですね」

「お互い敬語やめたら?お互い気まずいでしょ?」


私も、2人が敬語で話していたら、チョー気まずい。


「そうだね。じゃあ、敬語はなしということで。」

「分かりました」

「もう、敬語使ってんじゃん」

「あ!ごめんごめん。急に敬語禁止はムズイって」

「じゃあ、次は、私の紹介をするね。」


ご機嫌に香苗は、自分の紹介を始めた。


「名前は大槻(おおつき)香苗(さなえ)。私は、帰宅部でーす。」

「いいな~、帰宅部は、すぐに帰れて。て言っても、俺はドラムがしたくて入ったんだけどね。」

「じゃあ、これからよろしくね」

「うん。よろしく」

「そして、彩華のこともよろしくね」


二人の仲が深まって、段々、香苗が調子に乗った。


「ちょっと!そこまではいいって」


そんなバカげた話をしている間に刻一刻と時間が過ぎていった。気が付けば、次の授業の5分前だった。


「うわ、やっば。俺、次体育だから急がないと」


焦って、お礼を言いながら、急いで帰っていった。


「私も昔あったな~」


海翔が急いでいる様子を見て、思わず笑ってしまった。


「私たちもそろそろ教室に戻ろう!」

「そうだね」


私は、教室に戻りながら、またなんで香苗は、さっき私のことを心配していたのか気になった。そして、思わず聞いてしまった。


「なんで4限目前の休み時間で香苗は心配したの?」


その質問を聞いた後、香苗はびっくりしていた。


「え?なんでってそのままの意味だよ。ほんとに彼氏ができて、よかったと思う。よかったと思うけど、両想いになってしまったら、余命が近づいて、体が弱くなったり、そのあと、あなたが眠ってしまったり、する様子を見たら、彼氏が悲しむに決まってんじゃん。そんな様子を私が想像したら、心配するでしょ。」

「うん。分かってるよ。でも、私が余命で死んじゃうってことは、追々、話すつもりだよ。私が話せるうちに。」

「もし、そんなことがあって、海翔君が普通に何事もなく、あなたに接してられると思う?私はたぶん、出会って1年だし、信じられなくなって、あなたに気を使うと思うよ。」

「なんでそうなるのよ!」


そう言って、私は香苗にキレた。

すると、4限目の先生が来て声をかけられた。


「東さん、大丈夫?4限目もしんどそうにしていたよね?本当に大丈夫?ちょっと、保健室で休んできたら?次の授業の先生に伝えておくよ」


先生は心配した顔で話しかけてきた。


「なんで、なんでまたそうやって心配した顔するの?もうわけわかんないよ!」

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