第37話



客だったらしい男に手を振っていた女が、こっちに気づいて驚いた顔をした。

こちらに向かって来る。




「流舞ちゃん⁉︎なんでこんなところにいるの⁉︎」


「中森さん…。あの…」





こちらに歩み寄って来たキャバ嬢──中森なかもりあやは、会社で人気のある私の上司だった。




今は、深いスリットの入った真っ黒なドレスを身にまとっている。

綺麗なスタイルが惜しみなく露出され、柔らかそうな太ももがスリットから覗いていた。






「流舞ちゃん、アパート引き払ったっては聞いてたけど、こっちの方に引っ越して来てたのね。

早く帰ったほうがいいわ。

この時間のここは危ないよ」


「え?…引き払った?…引っ越し?」


「え?」







私はアパートを引き払ったつもりはない。

半年は帰っていないが、自動引き落としで家賃は払っているはずだ。


引っ越しをしたわけでもない。






ぽかんとする私を見て、中森が不思議そうな顔をしている。








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