第5話




肌に当たる雨の感触。

人の歩く音。

傘を叩く雫の音。



音、音、音、音。

自分だけ世界から切り離されたような、

そんな音がする。







「……ぃ、……い、…おい!」









左頬に手を添えられた感触がして目を開ける。


焦ったような顔で呼びかけてくる男性に気づき、ようやく空から男性へ視線を移した。







「本当にやべぇんじゃねぇの、お前」







グッと腕を引かれて立たされる。

ふらりと足がよろめいて壁によりかかる。






「タクシー捕まえたから、来い」






グイグイ引かれるまま男についていく。


タクシーに押し込められ、どこに行くかを男が運転手に告げていたが、耳に入ってこなかった。






タクシーが動き出す。

景色が移っていく。






止まない雨。

雨を拭うワイパー。






肩にふわりと何かがかぶせられる。

男性が着ていた春物のジャンバーだった。


お礼を言おうと思ったのに、私の唇は、けっきょく動いてはくれなかった。








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