第5話
肌に当たる雨の感触。
人の歩く音。
傘を叩く雫の音。
音、音、音、音。
自分だけ世界から切り離されたような、
そんな音がする。
「……ぃ、……い、…おい!」
左頬に手を添えられた感触がして目を開ける。
焦ったような顔で呼びかけてくる男性に気づき、ようやく空から男性へ視線を移した。
「本当にやべぇんじゃねぇの、お前」
グッと腕を引かれて立たされる。
ふらりと足がよろめいて壁によりかかる。
「タクシー捕まえたから、来い」
グイグイ引かれるまま男についていく。
タクシーに押し込められ、どこに行くかを男が運転手に告げていたが、耳に入ってこなかった。
タクシーが動き出す。
景色が移っていく。
止まない雨。
雨を拭うワイパー。
肩にふわりと何かがかぶせられる。
男性が着ていた春物のジャンバーだった。
お礼を言おうと思ったのに、私の唇は、けっきょく動いてはくれなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます