第14話 作戦
「――それで、あんたは王血幇に入った、ってわけか」
昔話を終えた古賀は、小さく頷いた。
「前に言ったでしょ? うちは十四の時に死んだんだよ。親と兄に見捨てられたあの瞬間に、ね」
黒い瞳に光は宿さず、古賀は笑みを浮かべる。おぞましい、死人の笑みだ。
「まぁそんなわけだから、うちにとっても古賀組は仇同然なんだよ。だから、刑事さんの仇討ちを是非とも手伝わせてほしいね」
「あんたは全員殺すつもりだろうけど、こっちはそうもいかないんだよ」
さすがに押し入って有無を言わさず射殺したり、拉致して拷問して惨殺だなんて真似は警察としてできない。
そこへ古賀は悪魔のように囁く。
「警察として動けばそうかもしれないけど、そうじゃなきゃ別に良いでしょ」
「個人的に動いてあんたと一緒に殺しをやれっての?」
「そうだよ。有給使って一緒に大阪行こうよ」
まるで旅行にでも誘うかのような物言いで、とんでもないことを勧めてくる。実家への憎悪は本物らしい。
「そんなことしなくても、主犯を捕まえることはできるんだよ」
窘めるように穂乃香が言うと、古賀は首を傾げた。
「考えてもみな。武器買うためだけに兵庫から出てくるか? アルクティカの銃なんて、それこそ地元でも売ってるし、そっちの方が融通利くだろ」
「それは確かに」
「わざわざ東京まで出てきて調達したのは、王血幇に喧嘩売りたいからだよ。あいつらはまだ都内に潜んでる。あんたや他の幹部を殺すためにね。そいつらを見つけ出して捕まえる」
言い換えれば、警察として動ける限界はここまで。大阪府警との合同捜査をするにしても、間違いなく王血幇の方が先に動けるだろう。
「相手は闇バイト使うような連中だよ。どうやって誘き出すの?」
「あんたが王血幇の大事な幹部で、本国から寄越された船で香港に逃げる算段だって噂を流す。裏社会に通じてる情報屋なら、うちの課にも伝があるから、そいつらを頼りにしてね」
大幹部が逃走を図るとなれば、なりふり構ってはいられないはずだ。確実に闇バイトではない、本隊を差し向けてくるだろう。
「うん、悪くない」
腕を組んだ古賀は思案の末、提案を受け入れた。
「うちが囮になって港まで向かえば、襲撃を仕掛けてくる。そこを狙おう、ってわけだね」
「そういうこと。藤岡を捕まえて裏が取れれば、今度は大阪の本丸を叩く」
シナリオとしては完璧。黒幕の組織を特定できれば、そこの幹部を一人残らず使用者責任で逮捕してやれる。
「実行はいつにする?」
「情報を流してそれを相手がキャッチするまでの時間を考えたら、三日後の日曜辺りにしたい。あんたの会社の船で、日本に来る予定のやつはある?」
「ちょっと待ってね」
ノートパソコンを操作する古賀。社内のシステムから、積み荷の到着予定を確認しているのだろう。
「日曜ならインドネシアからの貨物船が横浜に来てるね。それに乗り込むことにしたら良いよ。調べればすぐに出てくる情報だから、確実に食いついてくれる」
「じゃあそれまで、どこかのセーフハウスで大人しくしてな」
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