星月夜

桃藤文夢

第1話

「はぁ、めんどくさい。」


そう女子高生らしからぬ溜息を吐いている私の名前は夜乃煌鈴よるのきらり

ここ半年くらい引きこもり不登校のちょっとだけ面倒くさがりな高校2年生。


そんな私は今、白色のブラウスに青色のネクタイを巻き、紺色のカーディガンとブレザー、ソックス、チェック柄のスカートに黒色のローファーを履いて、4月のまだ冷たい風に吹かれながら帝零ていれい高校を目指し歩いている。


あー!あの最悪担任!思い出しただけで腹が立ってきたぁー!

昨日の夜いきなり担任と名乗る男から電話がかかってきたと思ったら「明日来なかったら退学な〜」なんて一方的に言って切られたけど、退学なんてなったら最悪すぎるんだけど!


頼みに頼んでやっと掴み取った1人暮らしなのにぃー!

絶対に退学になんてなってたまるかぁー!

あーあー、それにしても今年の担任は絶対ハズレくじだ……ほんと最悪。


まあ普通だったら半年も学校に行ってない時点で進級できないんだろうけど、私の通う帝零高校はここら辺で1番偏差値が低く名前を書けば受かると言われているバカ高校。

そんな学校ならこのまま学校へ行かずとも卒業できると思ってしまっていた。

はぁ……私ももうれっきとしたバカ高校の一員になってしまったんだ……。


帝零高校はこの県で1番大きな駅の南口の近くの家から歩いて10分くらいの所にある。

はぁ……お陰様でもう着いてしまった。


敷地内に建つ、渡り廊下で繋がっている2つの校舎。

正門から見て右側に建つのは帝零芸能高校。

この県唯一の芸能高校、通称芸校げいこう

私がこの学校に入学を決めた1つの理由でもある。

だって芸能だよ?イケメンいっぱいいそうじゃん?

はぁ……あの頃の自分をぶん殴ってやりたい……。


芸校の向かい側、正門から見て左側に建つのが私の通う帝零高校。

校舎に入り靴を履き替えようとしたがどこを探しても私の靴箱が見当たらない。

仕方なくローファーを左手に持ち職員室に向かう。


あー面倒くさい。

靴箱だけじゃなくてクラスも教室もわからないし、来させるなら私が何組かくらい教えておいてよ!


職員室の扉をノックし開けたところで固まる。


私担任の顔も名前も知らないじゃん!

どうしたらいいのよ!

これじゃ職員室に来たって意味ないじゃん!

ってあれ?今の時間は昼休みのはずだけど、職員室には怠そうに座っている男の先生しかいないんだけど?


「あ〜?何の用だ〜?面倒事なら勘弁な〜。」


何この人、これで本当に教師?

って妙に語尾が長いこの喋り方、聞き覚えがあるような……あ!この人!

間違いない、この人がハズレくじだ……。


私が何も言わなかったからか、ハズレくじは目にかかる前髪を鬱陶しそうに掻き上げながら顔を上げる。


「おぉ〜何だお前か〜、ったく面倒事増やすんじゃねぇ〜よ〜。」


やっぱり、この人がハズレくじだ。

ていうかそれはこっちのセリフなんだけど!?

まあいい、聞くこと聞いて早くここを離れよう。


「ねぇ、私何組?」

「はぁ〜?お前自分のクラスも知らねえのか〜?」


ごもっとも過ぎて返す言葉が見つからない。


「ったくよ〜、お前は5組だから隣にある階段から3階に上がって1番手前の教室な〜。ちなみにお前の席は窓際の一番後ろだから、せいぜい気をつけろよ〜。」


窓際の1番後ろか、それだけが救いだな。

まあ私の名前が夜乃だから今までも最初は殆どそこだったっけ?


何やらニヤニヤしているハズレくじから早く離れたくて、職員室の扉をすぐ閉め教室へ向かう。


そういえばさっきハズレくじが変な事を言っていたような……。

せいぜい気をつけろって、何?

あー!もう!さっぱりわからないよ!



ハズレくじが言っていたように職員室の左隣にある階段から3階に向かう。

確か去年は2階が3年生、3階が2年生、4階が1年生だった。

今年2年生の私が3階ということは今年もそうなのかな?


3階に近づくにつれ、私に向けられる視線が冷たく鋭いものになっていく。


「何であいつがまた来てんの?」

「退学したと思ったのに……。」


すれ違うたびにこう言った声が聞こえてくる。


何で名前も顔も知らない人に勝手に退学してる事にされなきゃいけないのよ!

まあこうなる事は来る前から簡単に想像できた。

だから来たくなかったのよ……。


なんて事を思っていると気づけばもう教室の前。


ここからが問題なんだよなぁ……。

どうかお願いです神様、どうか、どうか!氷亮ひろだけは同じクラスじゃありませんように!!

どうかお願いします!!


よしっ!


気合いを入れ教室の扉を開けると昼休みで騒がしかった教室が一瞬で静まりかえる。

教室内の視線を浴びながらハズレくじから聞いた窓際の1番後ろの自分の席へ向かう。


視線を浴びすぎてモデルにでもなった気分だよ。

ここはレッドカーペットか!


なんて心の中でツッコミを入れながら自分の席に座るとすぐに視線を遮るように机に顔を伏せて腕で顔を覆う。


「何であの子がいるの?」

「知らないよ、うちあいつと同じ空気吸いたくないんだけど。」

「ちょ、ちょっと!聞こえるよ!」

「わざとよ、空気読んで消えてくれたらもっといいんだけどね。」


あーうるさい。

私だって消えられるなら消えたいよ。

それに帰っていいならこんな所とっくに帰ってるしそもそも来てない。

嫌ならそっちが消えたらいいのに。

はぁ……ほんと最悪。


そう思ったその時、突然大きな音が教室内に響き渡り、咄嗟に顔を上げる。


何!?何事!?

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星月夜 桃藤文夢 @toudou_fuyume

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