第7話

何だか少し照れ臭くなったので気を紛らそうとテレビをつける。


「むむむ、射影機か!こんな薄い形のものを作るとは凄いな」


興味を持ったのかヒスイが近づいてきた。

とりあえず、チャンネルを回していく。

時間帯のせいだろうか、バラエティ番組が多くやっている。そんな中、ニュースを流している局が目に入った。


隣国で大規模な爆発事故があったと報じている。物騒なことだが、よくあることといった風にコメンテーターが語っていた。


ニュースに興味深々のヒスイ。

向こうの世界にもテレビの様なものはあるが基本録画したものを再生する機能があるだけらしい。それに画質もあまり良くないとか。

この様にリアルタイムで高画質の映像が見れるのは面白いとのことだ。


そんな時間を過ごしていたが、風呂に入っていないし晩御飯も食べてないことを思い出した。


「ヒスイ、風呂入るか?」


「風呂か!良いな、こちらの世界のものがどんな風か気になる。」


一緒にバスルームへ向かう。

ここでイケメン勇者なら一緒に入ったりするのだろうが、俺にはそんな根性はない。


シャワーの出し方やシャンプー、リンス、ボディソープの使い方を教え、分からなくなったら呼んでほしいと伝えた。

バスルームの扉が閉まり、シャワーの音が心地よく響いてくる。


ヒスイが入っている間に、俺はルームサービスを頼むことにした。立て掛けてあったメニュー表を開くと、色とりどりの料理が並んでいる。地元の特産品を使った料理や難しい名前のワイン、さすがは高級なホテルだ。


待てよ、もしかして自腹じゃなくて彼ら(自衛隊)の経費で食べれるのでは?

邪な考えが浮かぶ。


メニュー表の1番上にあるシャトーブリアンのステーキ。

これなら最悪自腹になったとしても後悔はない。

電話を取り、ルームサービスの番号をダイヤルする。受話器の向こうの穏やかな声が注文を受け付けてくれた。


悪いことはしていないのに悪いことをしている…そんな気分になっているとシャワールームから声をかけられた。


「おー、上がったぞ。次はお主の番だ。」


少しドキッとした。

視線を向けるとバスタオル一枚で身を隠したヒスイが歩いてきた。


「何ちゅう格好で出てきてるんだよ」


俺は思わず目をそらし、タオルをもう少ししっかり巻くようにと促した。

ヒスイはきょとんとした顔をしている。


「こんな少女の身体、気にならんじゃろ。」


ぽんぽんとバスタオルの上から自分の体を叩く。


「いや、そうじゃないというか…そうというか…

ちょっとは慎みを持ってくれ、こう、何というか龍の尊厳みたいなの大事にしてくれ」


「まあ、とにかく次は俺が風呂に入るから、お前はそこで待っててくれ、ルームサービス頼んでる。食事が運ばれてくるから受け取っておいてくれ。シャトーブリアンってこっちの国では高級の肉を頼んどいたから楽しみにしてくれ」


そう言って、自分も急いでバスルームへ向かいシャワーを浴びる。


シャワーから上がると外ではヒスイがすでにルームサービスで届いた料理に興味津々の様子で、テーブルに並べられた料理を眺めていた。


「これがシャトーブリアンというものか!厚切りで旨そうじゃ!」


俺はホテルのローブを羽織り、椅子に座った。


「そうだろう?まあ、高い料理だからな

ヒスイはナイフ、フォークは使えるよな?」


「当たり前じゃ!」


我慢しきれないのか早速、ナイフとフォークを手に取り、切り分けていくヒスイ。

昼はいきなり手づかみだったから少し不安だったが大丈夫そうだ。

そして、ヒスイは切り分けた肉をパクッと食べて固まった。


さて俺も食おう。

分厚くカットされているのにも関わらず、スーっとナイフが入る。

シャトーブリアンはヒレ肉の中心部分のことで、牛一頭から600gほどしか取れない希少部位だ。

脂肪が少ないが柔らかいという正にステーキの王様とも呼べる部位だ。


口の中に入れるとほろりと溶けていく。

肉の形はなくなるが口の中にガツンと旨みが残り思わず、余韻に浸ってしまう。


ヒスイも同じなのだろう。

幸せそうに一口、一口を噛み締めながら食べていた。


「肉には筋があるのが当たり前だと思っていたのじゃが…こんな蕩ける肉は初めて食べた。ドラゴンのステーキにも匹敵する旨さをこの柔らかさで堪能できるとは…」


「やっぱりドラゴンのステーキあるんだ…流石異世界。いつか食べてみたいよ」


そんなこんな話しているとすぐに食べ切ってしまった。頼んでいた赤ワインに手をつける。

ヒスイも自分の分のグラスを確保して物欲しそうにこちらを見る。

まあ、見た目ではアウトだがここには人の目はないからいいかと思い、グラスに注ぐ。


ヒスイがグラスを傾け、香りを楽しむ様子はまるで絵画の様な美しさを醸し出していた。


「酸っぱくない…それにこの香りの良さ…これがこの世界のワインか…素晴らしい。」


俺もグラスを手に取り、ゆっくりとワインを口に含んだ。ほのかな酸味と濃厚な果実の風味が広がり、シャトーブリアンの余韻と絶妙にマッチしている。


「ヒスイはワイン、好きなのか?」


少し驚いたが、ヒスイは自信満々にうなずいた。


「私は長く生きておる。人間が造ったものも含め、多くの酒を飲んできたぞ。だが、このワインはその中でも特に美味じゃな、お前はこのようなワインをよく飲んでおるのか?」


「こんな高いワインなんて買えないから…滅多に飲めないよ、ここに泊めてくれた自衛隊に感謝だな」


そう肩をすくめた俺を眺め、ヒスイは楽しそうに笑いながらグラスを傾ける。


「明日から頼むよ、ヒスイ」


「こちらこそ、ハヤト。」


カチンとワイングラスを合わせた。

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