第5話

助手席の佐藤さんにとりあえず、どこに向かうか聞いてみたところ、習志野の駐屯地へ向かっているとのことだった。

おおよそ、車で1時間半はかかる距離だ。


暇なので色々話をする。

まずはどうやって自分達を迎えにきたのか、だ。


「地震計と一緒に魔力を測定する機器が国内に張り巡らされているんです。それで昨晩あの広場で大きな魔力反応を検知した為、上空からUAVにて監視していたのです。」


佐藤さんは特に秘密にするような様子はなく答えてくれた。


「UAVで後をつけて、あそこの町中華で接触を図りました。幸い付近に住民が少なく何かあったとしても誤魔化せそうでした。」


「なるほど…」


「しかし、実際に近づいてヒスイ殿を見て、絶望というか唖然としていたんですよ、こんなに魔力を持つ存在を初めて見ました。もし暴れられたりしたらこの国ではどうしようもないだろうと…でも、話を聞いて頂けるようでとても安心したのです。」


少し苦笑していた。


「佐藤さんは魔力がわかるのですか?」


「ええ、この世界でも比較的魔力を持っている方です。」


その発言に驚いたのはヒスイであった。


「そうなのか…お主で魔力を持っている方。

私の世界基準では魔力がほぼ無い人と同等程度じゃぞ…」


「そうなのですか…まあ、ヒスイ殿なら分かると思いますがこの世界は魔術に使える高品質な触媒が多く取れるのです。それを利用して術を使っております。」


右手の人差し指を見せてくれた。

そこには大粒の深い赤色をしたガーネットの指輪が嵌っている。


それを見たヒスイは感嘆の声を上げた。


「凄いものを使っておるな…城が立つレベルの貴重な触媒じゃ。炎を愛用する魔術師からすると喉から手が出るほど欲するだろう」


俺から見れば綺麗な指輪にしか見えない。

正直、宝石が大きくてちょっとギラギラしているのが成金ぽくて、自分では付けたくないなって感じだ。


「私もこんな宝石をつけるのは趣味ではないのですが…仕事なので仕方ありません。」


佐藤さんにも悩みはあるようだ。

それにしてもヒスイが違う世界を匂わせる発言をしてるのにそれが当たり前のように話している。

そこのとこはどうなのか聞いてみた。


「異世界の存在は我々の中でも周知の事実です。

というか、丁度3ヶ月ほど前に異世界からコンタクトがありましてね…ちょっと揉めているところなのです。そんなタイミングであなた方が現れたのでこうしてすぐに対応しております。」


そういうと佐藤さんはヒスイに問いかけた。


「ヒスイさん、あなたはアッティカ帝国の方ではないでしょうか?」


その名前聞いた瞬間にヒスイが物凄く嫌そうな顔になった。


「あのゴミ帝国が関わっておるのか…まさかこれから行くところにそ奴らがいたりせんだろうな?」


さっきまで楽しそうだった雰囲気が一転して険悪なムードになる。


「ヒスイ、そのアッティカ帝国ってなんなの?」


「人間至上主義を掲げた国家じゃ、ハヤトには伝えたが私の世界で200年続く戦争の主犯がそいつらじゃ。獣人やエルフ、ドワーフなどの他種族を全て汚染された生き物とし排斥しようとしておる。」


それを聞いて佐藤さんは大きくため息を吐いた。


「やはりそういう国なのですね。我々に対しても魔力のないゴミに恩恵を与えるといいながら、武力をちらつかせ、交渉してこようとしていますから…」


「でも、ヒスイ殿が違う国の出身であることは大変な朗報です。現在、その帝国しか窓口がなく一方的な要求を受けているので…不躾で申し訳ないのですがヒスイ殿はどこか国家に所属されておりますか?」


「私は国家には所属しておらんよ、あとゴミ帝国とは一切関わらんからな。目の前にあのゴミムシどもが出てきたら消し飛ばすからの」


そうですか…と残念そうな佐藤さん。


「あの国と交流するのはやめておくのじゃ、私の世界では数々の国が帝国に踏み潰され搾取され消えていった。」


何か思い出したのか車窓から空を見るヒスイの目には複雑な感情が浮かんでいた。


「そうですよね…ただ、それを判断するにも我々には情報が不足しているのです。現在、我々別班はその情報を集めるのが最重要任務の一つなんですよ。」


苦笑いした佐藤さんからは苦労していることが伝わってくる。


「そしてこの話、宮守さんにも関係のある話なんです。これをみてください。」


佐藤さんがスッとタブレットを差し出す。

そこには大きな水晶の中に2人の人が入っている写真が写っていた。

その2人の姿になんだか見覚えがある。


「これは帝国側から送られてきた写真です。彼らは日本人2名を魔術具として利用し、この世界へコンタクトを取ってきているのです。」


まさか…


「人質として、そして世界を渡る道具として、2人の日本人が帝国に囚われています。そしてその2人は」


「父さんと母さん…」


両親の手掛かりが分かり、とても嬉しい気持ちとこんな状況になっていることへの困惑と怒り、焦り。

思わず手に力が入る。


「お二人の救出、および情報の収集を行なっておりますが芳しくないのが現状です。」


「宮守隼人殿、ヒスイ殿、知りうる限りの情報提供、及び協力を頂けないでしょうか?」


「良い、協力しよう。」


俺が答えるより先にヒスイが返事をした。

さっきは絶対に帝国には関わりたくないといっていたのになぜ…

困惑する俺の方を見てヒスイは優しく笑った。


「気が変わった。その2人を助けよう。

それからお主の国の交渉先も呼んでやろう。」


「その代わり美味しいご飯だ。それを忘れるなかれじゃ。」


「ありがとう…ヒスイ。そういうわけで佐藤さん、両親の救出と情報の提供について協力します、といっても俺は何にも出来ませんが…」


そんなことを言ったらヒスイに小突かれた。


「そんなことはないぞ、お主はこの世界と私の世界を繋ぐ切り札じゃぞ。」


「この世界の人なら誰でも世界を渡る魔術具の代わりになるんじゃないの?」


「それは違うぞ。こちらの人間も少しだが魔力を宿しておる。お主…いやお主の家族が魔力を持たない特殊な体質なんじゃろう。それにな、お主がそんな顔をしていたら食う飯も不味くなる。それは許せんのじゃ」


そう言ったヒスイはちょっと照れ臭そうに笑っていた。


それからヒスイは佐藤さんに自分のいた世界のことを伝えた。帝国はまるでホロコーストのようなことを平然とやっていた。迫害に虐殺、奴隷。

戦争をして国土を広げていたが近年、その戦線は停滞気味だとか。理由は単純。戦争に使う触媒が不足したからだとか。

その話を裏付けるように日本政府への交渉の条件に宝石類の譲渡が入っていた。

佐藤さん側でも帝国の思惑を予想していたがその裏付けが取れたことを喜んでいたが同時にため息もついていた。


「交渉を蹴ることはできるのですが、その場合戦争となります。こちらの戦力では異世界の魔術師に対抗することは殆ど出来ないと見込まれています。この枷をつける前にこちらがやられてしまう。」


佐藤さんは手錠のような形をした魔封じの枷を取り出しこちらに見せてくれる。


「我々には向こうの世界の魔術に対して対抗策が殆どないのが現状です。先に銃で撃てればいいのですが…」


「銃など兵士となった魔術師には効かないぞ。術の効果も何も宿してない鉄の玉なんか弾かれてしまいじゃ。」


ヒスイが空間に手を突っ込む。

引っこ抜いたその手には銀色の弾丸が握られていた。


「しかし、この銀の弾頭に魔法妨害の術式を埋め込んだ玉なら抜けるぞ。こいつをくれてやろう。」


ポイっと放り投げる。 

慌てて受け取る佐藤さん。


「それは帝国の魔術師に対抗するためにドワーフの連中が作った弾薬じゃ。貴国なら量産もできるじゃろ。それから帝国はこちらに軍隊を送り込むことはできん。魔力が足りんからな。どうせ奴隷を使って無理やり魔力を集めて、術を展開しておるのだ。」


「だから来るとするならば少数精鋭じゃ。そういう奴らには正直その玉でも精々牽制程度にしかならんと思ってくれていたほうが良い。」


「ありがとうございます。ヒスイ殿」


頭を下げる佐藤さん。


「他にも色々とあるがあんたのボスに話したほうが早そうだ。この車はそこに向かっておるんじゃろ?残りの話はそこでしよう。」


ヒスイはそういうと外の景色を眺め始めた。


正直、俺達は聞いた情報を整理するので精一杯だ。

その辺りを察してくれたのだろう。

ふと見ると、佐藤さんはスマホで電話をかけながら、パソコンでメールを打っていた。


そうこうしているうちに車は習志野駐屯地へ入っていった。

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