4-1. 反応

 閑静 かんせいな地。

 窓を覗けば、夜空に座す月と星々を背景に雪が舞っている。

 時期にしては、雪が観測されるのは例年に比べ一ヵ月ほど早いという。予報では大陸からの数十年に一度とされる寒波が押し寄せて来ているとのこと。

 星空に舞う風花 かざばなは静かに、それでいて動きがしなやかに左右に揺らいでいて、どこか幻想的な一面を見せていた。

 しかし、それは吹き込む風によって次第に押し流されていく──。

 一方的に吹雪くそれは、視界をだんだんと遮るようになり、やがて白一色に染め上げていった──。


「リーダー」


 一人の青年はデスクでの作業の手を止め、声を掛けた者に視線を移す。


「犯行声明からすでに七時間経過している。

 ……政府は要求を呑んでくれそうなのか??」

「要求は呑まれないであろうな。

 国家運営の根幹を揺るがすものとなる以上、万に一つもない」


 声明に対し先方から『検討する』という返答はあった──。


 文字通りに受け取れば、相手方は幾分かこちらの要求に理解を示し『譲歩する構えがある』ように思える。

 しかし、昨今の政治を仕切る『行政長』としての発言と行動を見る限り、それはないだろう。

 実際には『検討することない』その場しのぎの言葉であることは明白である。


 なぜ、そう言い切れるか──。


 かの者は施策もしくは閣僚内で起こった失態に関し、野党・メディアからの追求に対しては決まった定型文句がある。

 それは一旦、非を受け入れるかのような物言い。

 しかしそのじつ、『是正は決して為さない、為そうともしない』姿がメディアを通し露わになったからだ。


 あるメディアの編集長は、この姿勢を強く批判しつつも、嘆息ついて、こう零している。

 彼は『為さないのでなく、為せないからだ』と──。


 ……他派、他党との連立政権ゆえのパワーバランスから容易に対応できないという背景もある。

 が、それ以上に、かの者には『芯がない』のだという。

 国への将来像、あるべき姿を描くことが出来ず、いやそれ以上に『関心がない』!?

 ただただ『権力の座に居座り続けたい──』、ただそれだけだというのだ。


 ……あながち、的を射ているのかもな。


 当然そんな『検討使』には、周りから猛々しい攻めが差し迫ってくる。

 では、これにはどう対応していくのか──。

 後送りの、後送り──。 どういうことか!?


 相手からの猛追には再三明確な回答は避け、抽象的発言を繰り返し相手の戦意を挫くようにさせるのである。

 いや、タイムアウトさせるというのが適当な表現であろうな。

 議場においては議事進行にあたり個人ごとに質問時間が設けられていて、議題ひとつに停滞し続けることは出来ない仕組みとなっている。

 ……うまいものだ。

 仮にそれが許されての追求であろうと、彼の間合いにはそれをいなす万事の型がある。

 この伝家の宝刀は決して打ち破られることはないのだろう。


 ときに話しは逸れるが、クレーマー対応という仕事がある。

 提供する品、サービスなり、受け取った者からの不平・不満に対し案内していく者たちがいて、誠意に相手方の要望を汲み取り、尽くせる手段のなかで最善の落とし処を見据え対応していく──。

 ……仮に、こちらの不手際によるものであれば、謝罪し代替え等図っていく。

 人の織り成す社会ゆえ、当然それはあり、起こり得るものである。

 ただ、これを機に捕え、炎上させる者たちがいる。

 失態として捉え、ただただ文句だけをモノ申す者。炎上させ、社会的地位の滑落狙う者。契約以上のサービスを執拗に求める者。

 ……ストレス社会と言われて久しいが、精神的に侵されてしまいやすい代表的職種と言えよう。

 これに『かの者』を置いてみたとき、果たしてどうか──。

 ……対応云々は差し置いて、意外にもこれ以上の嵌まり役はいないのではないだろうか。

 病むこともなく動じない点においては、敬服する。


 そんな彼は、執政者側に立つ官僚内において大変評判がいいという──。


 ……よくもいうものだ。 

『芯がない』上、『批判をものとしない精神強さ』を持っているこの者は大変扱いやすく御しやすいだろうからな。


 さて、そんな条件下では当然答えも見えてくる。

 ……その判断材料には、我々が本気で施設を爆破しないと高を括っての考えもあるのかもしれない。

 いや、それもないだろうな。

 かの者にとっては、この未曽有 みぞうの危機さえも『他人事』であって、『ただただ権力の座に すがりたい』それを満足さえ出来ればいいのだから──。

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