3-2. 始動

「そこは不明だ。

 情報網を敷いてはいるが、有力な情報は掴み切れていない。

 ……個人の蜂起ほうきにしては、あまりにも出来過ぎている」

「なんにせよ、未だこの国に『ここまでの動きが出来る者たちがいる』ことに正直驚いている」


 歴史的に見れば一向一揆。そして下剋上に、倒幕。

 さらに言わしめれば、世界に反旗を翻し死をも恐れぬ、特攻という表にし難い歴史を持つ国。

 ……特攻に関しては半世紀以上過ぎてなお、いまだ風化していない。

 それもそうであろうな。

 生きている限り、本能は死を避けようと訴え出るものであり、彼らの行動・考えは到底理解できるものではない。畏怖いふを抱くのは当然であろう。

 そんな彼らの、短い生涯に抱いていたものは何だったのか──。


 『人のため、国のため、後世のため──』


 『全体主義』という強いられた環境のなか、美徳とは言い難い『苦い杯』を避けること出来ず、彼らはそのために散華 さんげしていった──。残す家族、恋人、子供たちに思いを託して──。


 彼らには失礼になるが──。


 大義に殉じようとする姿勢には、不思議と魅せられる。

 それは、自身の人生を賭してでも現状を変えようとする、蜂起した者たちにも同じく映った。

 ……少なくとも要求を踏まえれば『利権絡み』ではない。純粋かはさておき、『この国を正そうとする方向性』にあるようには見える。


 ……相対する側としては複雑だがな。


「私も、そう受け取っている。

 彼らの動機は幾分もあることだろう──。

 一例に、米国のシンクタンクで報告された、政界の中心に座し非常に危険視されている人物──。

 彼を中心に起こった出来事としては、二〇一九年に中国武漢で認知されたコロナウィルス感染拡大の事案がある。

 国においては早々にこの事実を認知していながらも、首相を幹事長という立場から強権を利かせつつ引き込み、あげく経済活動維持という名目のもと国内全域に感染を拡散させた人物と聞いている」

「たしか『かの国』とのパイプ役以上に、『それ』への隷属 れいぞく意識が強くあると ささやかれていたな。

 ……引き込んだのは『それ』からの要求と、自身が就いている協会長という『立場』がそうさせたか──」

「関係者からは莫大な献金を受け取っていたとも聞く──。

 一方、彼だけでなく議員全体へフォーカスが当てられるようになったのはそういったことを予見できる立場にありながらも『止めなかった』こと──。そして災禍のなか、国民目線でのあるべき役割=ロールを果たそうとせず、各都道府県知事、国民の自主的な働きかけで抑え込んでいる状況にありながらも、経済打撃を大きく被った彼らと違って高い給与が満額支給されたことに業を煮やしたことも一助していると思われる。

 最近においては、国全体が不景気に立たされているなか、『視察』という名目のもと外国にて『豪遊』していた事実もある。

 ……あくまで、一例であるがな。尽きることがない」

「国会審議中に動画鑑賞している人物もいたそうだな。

 まったくもって楽な仕事で羨ましい限りだ」


 自身に甘い行動から発生する事態には、決まって伝家の宝刀たる特権による言い逃れ。

 国全体として経済的にも落ち込むなか、彼らの生活は安泰なのだろう。

 その裏では、血税たるものは彼らの華やかな生活を支えるため支出され、国民は疲弊していく。

 全くもって、どこかの構図に当て嵌まる。


「──話は逸れたな。

 しかし、彼らの行為はテロであり憎むべき行為であることに変わりはない。

 その施設が爆破されてしまった場合、施設の中心から半径三〇キロメートル圏内は人が住むことが出来ない地になる。

 さらに、偏西風の影響で首都圏までが放射能の射程圏内に及ぶ。

 事実上、彼らは、そこに住む者全員を人質にとったことになる。

 君に依頼する任務は二つ。

 施設内へ潜入し、設置されているC4──セムテックスが有効なものかを見極めてもらうことだ。そして、それが有効であれば、無効化してもらう。

 二つ、人質として囚われている現地スタッフの解放だ」

「たしか爆弾処理班の見解では、犯行声明に上がっている動画からは本物であると聞いたが──」

「実際に設置されているものは本物に十中八九違いないだろう。あくまで希望的観測上の話しだ」

「分かった。

 潜入方法は──??」

「陸路から潜入する。

 施設内上空、及び潜入経路とは反対側に陽動部隊を展開し、潜入する。

 潜入経路については、施設設計者にナビゲートしてもらう」

「……司令。

 ある程度、任務の概要は掴めた。

 いくつか疑問が拭えない点がある。

 なぜ入隊して間もない、経験も積んでいない新人の俺に白羽の矢が立ったんだ??」

「君の疑問は分かる。

 しかし、君自身が思う以上に能力は高く秀でていると私は認識している。

 そのじつ、実践を想定したシミュレーションにおいては指折りのなかに君がいたことを知っている。

 問題ないだろう」


 認めてくれていることには素直に嬉しく感じる。

 しかし、自分以外には実践経験を積んだ者もいる。

 高く評価してくれているとはいえ、シミュレーションと実働とは異なる。

 全てが全て筋書き通りにいかないのが実働だ。ましてや、いまは過去を振り返ってみても類を見ない国難にあるなか──。

 ……さきの議員といい、他国からの恣意的 しいてき介入の可能性もある。

 遂行の難しい任務だからこそ、より確実性を求めてその人材を配置すべきと考えるが──。


 ……まぁいい。

 いまはただ遂行することに集中しよう。

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