3-1. 始動
「──原子力発電施設の占拠事件が発生して三時間ほど経過している。
もちろん、把握しているな??」
「当然」
「結構──。
知っての通り、テロリスト集団はSNSにて政府に対し『施設の至るところに爆弾を仕掛けた』と表明し、『二四時間以内に要求が受け入れられない場合、施設を爆破する』と宣言している。
彼らの要求は過去の事件を見る限り非常に稀有なもので、『間接民主主義の撤廃』を声に上げている」
「……随分と変わっている。金銭的要求でなく政治的変革を求めるとはな」
サイレンを鳴らし縦横無尽に駆ける車両から、外の景色を見送る──。
更け行く時間帯でありながらも、中心地近くに形成されている歓楽街からは多くの人影を見かける。
それに連なるよう交差する車両は多く、それらを避け、
……時代錯誤も甚だしい。
頬杖つきながら思案するも、そう思えて仕方がない。
これまでの時代の流れからして、一部を除いて『民主主義』を唱えていない国はない──。
『人から人の支配』は紀元前から発生したものと考えられている。
……狩猟生活を中心とした、その日暮らしには少なくても『その概念』はなかった。
いまでいう理想の助け合いの姿がそこにあったものと思う。
しかし、大陸からの稲作等により齎される恩恵=モノの『備蓄』が、各地域での『差分』を作り出し『貧富』を創り出していく。
……この『差分』には食物だけに限らない、装飾品までもがその対象となって、より『明暗』を加速させていく──。
やがて、『備蓄』から転じた『所有』は他者との競争を助長させるようになり、『相手を力で屈服させる』概念を生み出すようにさせてしまった。
これは現代においても変わらない構図であろう。
……武力が言葉、財力なりに形態変化している点はあるだろうが。
さて、この支配体系は、その集団のなかでも絶対的に力を持つ者を王として据え、成立していったのは既知の事実。
その者を神格化させるなどして、盤石なものとして整えていった。
この手法は、どの国の歴史においても共通点として見受けられる。
しかし、それらはやがて支配体制からの圧政、暴挙なり、執政者個人の暴走を背景にして、主導権が民衆へ引き渡されるようになっていく。
いわゆる直接ないし間接民主主義の台頭。
なかでも、多くの国が間接民主主義を採用するのは円滑に事を進めることが出来ることに尽きる。
これは、マスな現実には大変即していて、代表者を立てて決定していく構図はこれからも変わらないはずだからである。
「特に彼らが強調しているのは『国会議員の追放、廃止』を目的にしているようだ」
「……大きく出たものだな。
なにかしら裏で働きかけている組織でもあるのか??」
いまの政況を見る限りでは、絶対王政時の暴挙を連想させてくれる。
彼らに見られる不祥事、汚職は足切りからの法権及ばぬ出来事として扱われ、責任の追及が本人に及ぶことがない。
……不景気というスポットライト下の裏金疑惑は、さぞかし目立ったことだろうがな。
彼らの持つ特権含め待遇は、『知ってしまった』国民からしてみれば決して消えることのない火種・油となって、憤怒は猛々しく震え燃え上がり、天の頂に達するほどのものとなった。
そもそも『知ってしまった』というのは──。
……以前も当然それはあった。
それがなぜ、今回知れ渡るようになったのか。
……メディアの発達もある。
それ以上に曲がりなりにも、そこへ仕向けさせない政治家個人の手腕があってのことのように思える。
いまの
なんにせよ、誰にでも『動機』は成り立つ──。
一方で、議員と蜜月関係を持つ『利権集団』からしてみれば、彼らの要求は『これまで享受していた恩恵を失わせ』かつ『実害を被らせる』可能性を秘めている。
……彼らの失脚は自身だけに限らず周りまでに及ぼし、『恥部』は白日の下に晒され、金銭・名誉は剥奪、ひいては鉄格子向こうへ拘束されるからである──。
実際、世界各国が挙って参加した大規模なスポーツ大会のスポンサー企業の重役はその道を辿っている。
それゆえ彼らからしてみれば、『この事態そのもの』が不都合この上なく、芽吹く前に摘みたいのが、彼らの心情といったところか。
なれば、個人か──??
だが、いち個人が原子力発電施設を占拠出来るのか??
……可能性はあれど、外部なり他からのサポート無ければ実現性は乏しい。
……裏で支援、もしくは指示している組織がいるのか??
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