005 ルリカラクサの咲く丘の色
休日の朝から出かけるのはいつぶりだろうか。その場所は家から車で数時間走らせたところにある。
頭を起こすために珈琲を飲みながら、目的地に着いたのは昼すぎ。
駐車場に停め、運転で固まってしまった腰を伸ばし、丘を一望すれば。
【ルリカラクサの咲く丘】
ルリカラクサ。白に、青い縁の花弁が特徴的な、一年草。
一般的にはネモフィラと呼んだほうが伝わるだろうか。
普段、背丈の低い草で埋め尽くされ緑に染まっている丘は、毎年この時期だけ、白と青に染まる。
桜が散り、青々とした緑の葉をつけている頃だからこそ、この青が映えるのだろう。
パシャリ。と、スマートフォンで写真を撮る。
空の青と、ルリカラクサの青は、同じなようで同じではない。この場所に見に来る人は、この対比がいいんだろうけど。
丘には、葉だけになった桜と思わしき木が一本。近づいてみると幹は大きく、二、三人居ても囲うことはできないだろう。樹齢が気になるところではある。
再びルリカラクサに目を戻すと、小さな蝶が一頭。花の蜜を食べているのだろうその姿をみて、息をついた。
ルリカラクサとはまた違う青を黒で縁取って、優雅に舞う蝶。それも写真に収めると、出番は終わったと言わんばかりに、遠くへと飛んで行った。
一通り写真を撮って満足した後、車を停めた駐車場を挟んで向かいにあるログハウスへと入る。このログハウス実はカフェになっていて、ルリカラクサを見ながら疲れた足を癒せる場所。と、大変人気の場所の一つ。
「やあ、いらっしゃい。今年もその季節ですか」
毎年お邪魔しているだけあって、店主に顔を覚えられたらしい。
「店主さん、珈琲を一つと……あとこの、パンケーキを」
「写真はどうしますか?」
このお店の最大の特徴は、スマートフォンなどで撮った写真を印刷してくれるところだ。珈琲や料理を待つ間に、利用することもある。今回は――、
「お願いします。この三つの写真を」
印刷の間に出てきた冷たい珈琲に、ミルクを少しだけ入れてかき混ぜる。
ふわっと香る、香ばしい苦みと酸味がその珈琲のおいしさを物語っていた。
冬が過ぎ、春が訪れ。暖かさも落ち着いてくる頃。
来る夏前に内心嫌気がさしてはいるが、今この時を楽しもうとしていた。
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