第2話
しばらく二人の沈黙が続く。
移動教室なのは数学、地理、情報、体育のどれかだ。僕らの教室は校舎の3階の隅っこなのでどこもかしこも遠いが、直接足を運んで確かめる以外の術はない。
(よし、教科書は全部ロッカーに置いてあるな)
効率的な探し方を思いついたので彼女に提案する。
「手分けして探さない?」
俯いていた彼女は顔を上げ、僕と目が合う。
「私も、それが良いとも思う」
彼女が頷きながら言った言葉に、僕が続ける。
「移動教室は数学、地理、情報、体育の4つだったよね。僕が数学と体育を調べるから。斎藤さんは地理と情報の教室を調べて欲しい。お互い調べ終わったらここで集合しよう」
僕が東側、彼女が西側を担当するという提案だ。
「地理と情報だね、分かった」
彼女の顔が少し明るくなったのを見て僕は安堵する。
しかし、それを遮るように予鈴が鳴る。
「急ごう、また後で」
僕がそういうと彼女はコクリと頷き、僕らは教室から出た。
数学は成績によって三つのクラスに別れていて、体育はスポーツによって場所が別れている。それぞれ一番近い場所をひとつ調べれば良い。
まず数学、いない。
次に体育、いない。
(よし、教室に戻ろう)
腕時計を見ると授業開始まであと約3分。
急いで教室に戻ると既に彼女がいて、お互い少し息が上がっている。
「地理、だったよ、」
「了解、なんとか、間に合いそうだね、」
僕らはロッカーから教科書を取り出し、駆け足で地理の教室へ向かった。
(はぁついた、セーフ)
当然僕らが時間割変更のことを知らないと思っていないクラスメイトたちは相変わらずに騒がしい。
そんな中、二人一緒に教室に入ってしまい、大勢の視線がこちらに向く。一瞬皆んなの会話が止まり、僕は何故か恥ずかしい気分になったのでさっさと席に着いた。それに続いて彼女も席に着いた。
前の席に座っている女子が話しかけてきた。
「ギリギリだね(笑)、何してたの?」
「時間割り変更があったの知らなくてさー、校舎中走り回る羽目になったよ。もしかしてLINEで伝達されてた?」
「そうそう、もしかして見てない?(笑)」
「恥ずかしながら」
「まぁLINEで伝達はダメだよね、グループ入ってない人いるし」
「え?そうなの?」
「うん、さっき灰斗と一緒に来た子とか」
「斎藤さんか」
「あーそうそう斎藤さん」
なるほど、彼女が時間割変更を知らなかったのはそういうことか。もしかしたら知り合いすらこのクラスには居ないのかもしれない。
「ま、次からは見逃さないよう気を付けるよ」
そう言って会話を終わらせると、授業が始まった。
その後はずっと、直近で何か胸に引っかかるようなことがあった気がするが思い出せず、モヤモヤしていた。言葉にするなら、親宛てのプリントがあって、それをまだ渡してないことは思い出せないが、大事な何かだったことは思い出せる時のようなとっかかりだ。
帰りのホームルームが終わり、教材を鞄に詰め込み、カッターシャツの上に学ランを着る。そして昇降口へ向かう。梅雨の時期で涼しいので、カッターシャツの肌ざわりが心地良い。
(今日は久々に走ったな、塾行くかー、あっ)
塾というワードが引っかかり、今日の斎藤さんとの出来事を思い出す。
(そうだ、斎藤さんが使ってた参考書、同じ塾の物なんだった)
あの時は急いでいたから気にならなかったが、運良く早くに思い出すことができた。
(胸のとっかかりはこれだったのか、スッキリした)
塾は学校のすぐ傍にある。僕が入塾したのは今年の4月からで生徒に誰がいるのかはほとんど知らなかったので、もしかしたら彼女も同じ校舎かもしれないという淡い期待を抱いて塾へ向かった。
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