噓告、それと恋心

『校舎裏で待っていてほしい』というメッセージが綾川さんから届き、言われた通り

 校舎裏で待っていると、綾川さんがやってくる。

「…先輩、その…付き合って、くれませんか…?」

 そんな言葉とは裏腹に、綾川さんの表情は申し訳なさそうにしている。

「…あー…」

 …これってつまり…所謂嘘告白ってやつだよな…。罰ゲーム云々の…。

 いや、それが分かったところでだ。この場合の正しい返答って何なんだよ。

「…先輩?」

「…一応聞いておくけど…後ろの人らは何のためについて来たの?」

「あっ…」

 校舎裏の倉庫の様な所からスマホのカメラらしきものが飛び出ているのを、確認の為に綾川さんに質問してみる。

「いや、えっとそれはあの…」

「…綾川さん、あれは…友達、っていう認識で良いの?」

「…うん」

「これは、合意の上?」

「…うん…」

「綾川さんは心の底からこれをしたいと思ってた?」

「…違う」

 …なら、それは合意とは違うんじゃないのかな…と思いつつも、取り敢えず待ってみることにした。

 相手が痺れを切らして出てくるまで待機しとこう、取り敢えず。

「…はぁ…。綾川さん、取り敢えずここで待機しとこう」

「は、はい」

 綾川さんと一緒に、少し段の様になっている所に座って待つこと十数分。痺れを切らした女子生徒2名がこちらに向かってくる。

 …まあ、分かってはいたが未空はいないな。良かった良かった。

「あんた、告白の返事早くしなさいよ」

「え、なんで?」

「折角朔乃ちゃんが告白してくれてんでしょ?あんたみたいなイケメンでもなければ特別ブスでもない微妙男に」

 何一つとして反論できねぇ…。

「―――あ~、さくっち~。こんなとこでなにしてるの~?」

「あ…未空ちゃん」

「響谷くんもやっはろ~」

「おぅ」

「…それで…えっと、この子たちは?」



「ふ~む、なるほどなるほど…さくっちに嘘告白をさせて…響谷くんが良い気になったところでネタバラシ…かぁ。…面白いこと考えるね?」

 …未空の目が笑ってない…。これ結構やばい時のやつだ。

「響谷くんにはそんなことできないよ。…確かに、顔は普通かもしれないけど」

 まあそれはそうだな。俺よりも顔やら一般的に性格が良い部類のやつらなんか入るだろうし。

「でもね、響谷くんは凄いんだよ?料理も美味しいし、周りの事ちゃんと見てるし…だから気付いたんだろうね~。…それで、楽しかった?人の心を弄ぼうとしてさ」

「………」

「よく言うよね~、『人の不幸は蜜の味』ってさ。それで…蜜にはありつけた?」

「結局これで、あなた達は何を得たのかな。何を学んだのかな」

「…そ、それは…」

「…未空、もうやめとけ」

「えぇ~」

「『えぇ~』じゃないんだよ。ほら、帰んぞ」

「はぁい」

「…あ、先輩、未空ちゃん、ちょっと待っててください」

 校舎裏から正門に向かおうとした俺達を綾川さんが引き留める。そして、彼女は女子生徒らに振り返って一言。

「不幸で得る蜜は簡単ですけど…幸せで得る蜜は、もっと美味しいですよ」

 それだけ言った後に、俺たちの方を振り向く。


 ■


「―――そりゃまた災難だったな響谷。それと綾川ちゃんも」

「あ、はい…。先輩のお陰で助かりました」

「ほんと、響谷くんってああいうのを感じ取るのが早いよね~」

「あれは…なんていうか、綾川さんがなんか申し訳なさそうな表情をしてたから…」

「だとしても、それを読み取れる響谷くんは凄いと思うけどな~」

 …そうか?



 …う~む…。それにしてもさくっちが響谷くんに告白かぁ…。

 流石にまだ早いよねぇ…。

 なんかこう、複雑な気持ちなんだよねぇ…。

 響谷くんと恋人になりたいんだけど…中々一歩を踏み出せずにいる。多分さくっちはまだそんなに響谷くんの事好きじゃないんだろうけど…。

 でもいずれ…響谷くんの事を狙うようになるよね…。

 でもそうしたら、響谷くんはきっと私の告白も、さくっちからの告白も受けてくれなくなっちゃう。

『一人が不幸になって、二人が幸せになるくらいなら、三人一緒に少し不幸になったほうが良い』って、響谷くんなら絶対にそう言うと思うから。

 ………。

 どうしたものかな…。

 それはそうとして、今日は響谷くんの部屋で寝よっと。あ、ついでにさくっちも誘おっかな。



「―――で…まあ…俺の部屋で寝たいってのは分かったよ」

 許可はしてないけど。

「…分かったけどさ、なんで体操着なの?」

「いや~、なんかこの方が、『THE・お泊り会』みたいじゃない?」

「…そう、か?」

「まぁまぁ、そういうことでいいじゃん。そういう訳で、一緒に寝るよ響谷くん」

「…ちなみに、拒否権は?」

「ん?な~い」

 だろうと思ったよ…。

「…わーったから。取り敢えず先布団に入ってて、俺はちょっと葵と話したい事があるから」

「分かった~。それじゃあさくっち、こっちこっち」

「お邪魔します…」

 俺のベッドの上に乗る2人を置いて、俺は部屋を出てリビングに向かう。

「…そろそろ良い子は寝る時間だぞ」

「別に、俺は自分で自分の事を良い子だと思ったことはねぇよ」

「…そうか。それで、要件は結局何なんだ?」

「いや、特に何にもないけど」

「あっそう。…なんか作ってやろうか?」

「いや、別にいらん」

「マジで何しに来たんだよ…」


――――――――

作者's つぶやき:ちょっと本格的に睡眠時間がやばいんでこの辺りにさせてください…明日余裕があったら上書きで追加分書くかもです…。

追記:という訳で追加分を書かせていただきました。

はてさて、ここの梨帆さんはどのような経緯で居なくなってしまったんでしょーかね。まあどちらにせよ、響谷君にとってはあんまり関係のない事ですが。

血縁上の母親だからと言って、愛を注がれてきたわけでもありませんし。

それはそうとして、藍音さんには孫の顔くらいは見せてもいいかもしれませんね。

――――――――

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