朝食を作らない日の日課

「…ん………、…よっ…と…」

 寝室の壁掛け時計が、午前4時を示している。空は白んですらおらず、朝と言うよりはまだまだ夜と言うべきだろう。

「…あ、そういえば今日って綾川あやかわさんが朝食作るんだっけか…」

 …したら…かなり暇だな…。どうしようか…。

 …久しぶりにランニングにでも行くか。

 取り敢えずクローゼットから適当に、動きやすい運動着を取り出して着替える。

「あとは…スマホと…300円くらいは持ってくか」

 ポケットの中にスマホと100円硬貨3枚を入れて、玄関に向かう。

「いってきまーす」

 誰も居ないリビングにそう呟いて玄関から外へと出る。人通りも車通りも限りなく少ない、街灯が照らす道を小走りで進む。


 …それから大体700mくらい走って、その辺の自販機で水を買う。

「…よし、こっから帰りだな」

 …朝食当番じゃない日はランニングでも日課にするか。

 そんな事を考えつつ、また700mくらい元来た道を逆走して帰宅する。

「ただいま~」

「おう、おかえり。こんな朝っぱらからどこほっつき歩いてたんだ響谷ひびや

「…ランニング」

「へぇ、珍し」

「まぁな、今日は綾川あやかわさんが朝食作ってくれるらしいから」

「…ってか、にしても4時は早すぎるだろ。ちゃんと寝てんのかよ?」

「安心しろ、最低でも3時間は寝てる」

「…まあ、お前ショートスリーパーだしそんなもんでも十分なのかもしれねぇけど…」

「で、かくいうあおいはなぜ今帰ってきた?」

「いやぁ、まあこの時間ならお前は起きてるだろと思ってな」

「まあそうだな」

「たまには寝起きのお前でも眺めながら飲もうかと思って」

「俺を酒の肴にしようとすんな」

「別にいいだろ、お前を食べるわけじゃないんだし」

「…おう、そうか」

「…『どっちの意味』とか聞かねぇんだな」

「そりゃアウトだろ流石にさ」

 っていうかなんでこんな朝からこんな話聞かされなきゃなんねぇんだよ。二度寝でも決めこんどきゃよかったわ。

「まあ私としてはそう言う意味でお前を食べることもやぶさかではない」

「やめろ気持ち悪い」

「…ほら、よくあるだろ、近親相———」

「―――それ以上言ったら口に包丁刺すぞ。ってか血縁関係ねぇから少なくとも近親ではないだろ」

「おおう、朝から真っ赤なスプラッシュは見たくねぇな。…にしても、近親じゃないならなんだ?あれか、普通にただのセ―――」

「―――それ以上深堀りするのは止めろ」

「はいはい、私はお前がちゃんと男子高校生してて安心したよ」

 …なんだろう、なんか絶妙に違う気がするしとんでもなくムカつく。

「ってか、綾川あやかわちゃんとはどんな感じなん?」

「んぇ…ん~…どんな感じって言われてもなぁ。今のところはただの先輩後輩だと思うけど」

「襲ったりしてねぇだろうな?」

「…あのなぁ」

「はいはいわーってるわーってる、お前にはそんな度胸も無いの知ってるしな」

「クッソ、ムカつく」



「そんじゃ、私はそろそろ行ってくるわ」

「おう、どこ行くか知らんけど行ってら」

「はいはい、そんじゃあまたな」

 葵を玄関で見送った後、取り敢えずソファに座る。テレビ…はこんな時間からだと周りに迷惑だろうし…スマホでなんか動画でも見るか。

 動画を見ながら暇な時間を潰して、階段から綾川あやかわさんが下りてくる音が聞こえてくる。

「…あっ、先輩。おはようございます」

「おはよう綾川あやかわさん」

「えっと、それじゃあ早速、朝ごはんとお弁当作りますね」

「うん、お願い。調味料はそこの調味棚と、冷蔵庫に醤油とかみりんとか入ってるから」

「はい、分かりました」

「あ、あと確か昨日ちょっと余分に作っておいた唐揚げがあるはず…」

「えっと、冷蔵庫の中ですよね」

「そうそう、それも使っていいよ」


「~~~♪」

 キッチンから聞こえてくる、綾川あやかわさんの鼻歌と目玉焼きを焼く音。

 …なんかこう、絶妙に眠くなってくる。

「朝から上機嫌だなぁ」

「そういう先輩は、確かにちょっと気怠そうですね」

「いやぁ…まあだって平日だし、朝からランニング行って疲れたし」

「え、ランニング行ってたんですか?」

「うん、綾川あやかわさんが当番の時はとりあえずランニング行ってこようかなって」

「そうなんですね…。…あ、出来ましたよ」

 そう言って、綾川あやかわさんが俺の前に作ってくれた料理を並べてくれる。

「ありがとう綾川あやかわさん。それじゃあ、いただきます」

 朝食は目玉焼きの乗ったトースト。まあそりゃ普通に美味しい。

「あ、えっとコーヒーは…」

「あぁ、えっと…調味棚の横にインスタントのがあるはず」

「これ、ですか?」

「そうそうそれ。俺はブラックのままで良いから、お願いね」

「はい、分かりました」

 綾川あやかわさんがコーヒーの封を開けると同時に、コーヒー特有の匂いが鼻腔をくすぐる。

「やっぱり、便利ですね、インスタントって」

「まあそうだな~。特に時間の無い朝とかには役立つよなぁ」

「あぁ、先輩の美味しい料理もインスタントで食べられたらいいのに」

「…それなら冷凍食品を解凍して食べた方が数段美味しいと思うけど…」

「そうですかね?冷凍食品は冷凍食品ですし、先輩の料理は先輩の料理…またジャンルが別だと思うのですけど…」

 うーん…、そういうものなのかなぁ…?


――――――――

作者's つぶやき:響谷ひびやくんの料理が食べたい云々の綾川あやかわさん。別に出れているわけではなくてですね、単純に冷凍食品みたいに簡単に響谷ひびやくんクオリティー(つまり超美味しい)料理が食べられたらなぁーって事です。

勘違いしてはいけません、まだ好きじゃないので。…まだ、ね。

最初からベタ惚れではなく、徐々に好きになっていく展開もまあ、たまには書いてみようかと思いまして。

…さて、次回は…どうしましょうかね。

――――――――

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