ぬいぐるみさん(聖なる夜に)
山田ジギタリス
第1話
うっかりトラックにはねられたぼくはなぜかぬいぐるみに憑依していた。
おみせに並べられた僕は男の人に買われ戸棚の奥に押し込められ外に出れたのはクリスマスの日だった。
「パパとママからよ」
ぼくは娘ちゃんへのプレゼントだったみたいだ。
「ありがとう、ママ、この子大きい、私と同じくらい」
「そうね、同じくらいね。よろこんでくれてよかったは。パパは今日はお仕事だから早く寝ましょ」
「うん、パパお仕事大変なんだね。ねぇ、来年のクリスマスプレゼント、弟か妹が欲しい」
「えっ、あぁ、いい子にしていればね、さぁ、寝ましょ」
ぼくは娘ちゃんに抱きしめられながらじっとしていた。娘ちゃんもママさんも静かに寝息を立てていた。
夜中になりサンタが家々を回っている頃、なぜかぼくは動けるようになった。
そしてぬいぐるみにはないものが。僕は立ち上がってママさんの布団に潜り込み、娘ちゃんが欲しがっていた来年のクリスマスプレゼントをママさんに仕込んであげた。
翌年、ママさんは娘ちゃんの妹ちゃんを産んだ。もちろん娘ちゃんは大喜びだった。
そしてクリスマスの夜、次のお願いをする。
「妹ちゃんが来たから、今度は弟ちゃんが欲しいです、サンタさん」
去年と同じく夜中なると動くことができたので、ママさんに娘ちゃんの喜ぶプレゼントを仕込んであげた。
次の年に娘ちゃんと妹ちゃんに弟ちゃんができた。
娘ちゃんは大喜び。妹ちゃんはまだよく分からないみたい。
クリスマスに娘ちゃんがまたお願いをした。
「もう一人妹ちゃんが欲しいです、サンタさん」
今年はパパさんも仕事が終わってみんなが揃ってのクリスマス。だから僕は動けなくて代わりにパパさんがママさんの布団に潜り込んだ。
でも、次の年は娘ちゃんへのプレゼントはなかった。
その次の年もさらにその次の年も同じだった。
娘ちゃんも大きくなり学校も卒業して仕事もして何人目かの恋人からプロポーズされて結婚することになった。
「お姉ちゃん、旦那さんとラブラブだからね、ハネムーンベビー、期待しているよぉ」
「何言ってるのよ、そんなこと」
娘ちゃんはそう言ってたけど、机の上にいるぼくの前に来ると小声で、
「赤ちゃん、欲しいな」
とつぶやいた。
夜中になると娘ちゃんは静かに寝息を立てている。僕は20年ぶりくらいで動けるようになった。
そして、娘ちゃんの布団の中にもぐりこんで娘ちゃんのお願いするプレゼントを仕込んであげた。
何か月もたったころ、娘ちゃんが帰ってきた。
「ふぅ、辛いなぁ」
娘ちゃんは大きなおなかをしていた。
「お姉ちゃんよかったねぇ」
「うん、新婚旅行では喧嘩ばっかりで、どうなるかと思ったけどね。成田に帰ってきてから仲直りの仲良ししたらこの子が来てくれたみたい」
「へぇ、ぬいぐるみさんにお願いしたからかな?ご利益ご利益」
妹ちゃんの言葉にちょっと変な顔をするママさん。あれ、あのとき、寝てたよ、ね?
娘ちゃんはときどき里帰りをしてきてた。子供が少し大きくなったころ僕の頭を撫でながらもう一人赤ちゃんが来ますようにとお祈りしをしていた。
だから夜中にぼくはうごいて娘ちゃんの願いをかなえてあげる。
妹ちゃんはなかなか結婚相手が見つからないようだった。彼氏はいるようだったけど。
妹ちゃんも娘ちゃんと同じように僕の頭を撫でてお願いする。
「あの人とは結婚できないけど、せめて子供は欲しいの」
その願いをかなえるため、夜中にぼくはうごいて妹ちゃんの布団に潜り込む。
やがて妹ちゃんのお腹が大きくなり、パパさんママさん娘ちゃん、娘ちゃんの旦那さん、弟ちゃんが深刻な顔で相談している。
やがて妹ちゃんのお腹は限界まで大きくなって、赤ちゃんを連れて帰ってきた。
そのころには僕の体はぼろぼろでいともほつれ目も取れそう。そして僕の意識もとぎれとぎれとなった。ぼくの役目もおわったのかな。
娘ちゃんと妹ちゃんがぼくをお寺に連れて行ってくれた。和尚さんのお経の声を聞いているとぼくはぬいぐるみさんから離れていく。そしてお香の煙に混じり空に向かい昇っていった。
ぬいぐるみさん(聖なる夜に) 山田ジギタリス @x6910bm
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます