第4話

『問題なぁーし。阿笠和、帰っちゃおーぜ。』

「水木……それはどうかと思うぞ。」

 現在、ペアで経路巡回中である。

『しかしなぁー……ここまで出ないとなると、当分は来ないだろ。』

 水木が煙草をふかしながら呟く。

「まぁあと少しだ、そこを見て切り上げよう。」

『そーだな。』

 お互い速度重視の機体のため、巡回はもしかしたら要塞一早いかもしれない。……まぁ早ければ良いわけではないが。




「こんなものか。」

『いや、待て!』

 水木の慌てたような態度に周囲の警戒を強める。

「連絡するか?」

『………頼む。』

「了解した、水木一等兵。」

 機体にある緊急信号を発した。

『はい、こちら第14小隊オペレーション担当の高崎です。』

「第14小隊所属、阿笠和二等兵だ。周囲に不穏なものを感知した。そちらの詳細な情報が欲しい。」

『畏まりました。少々お待ちください。』

 水木一等兵とのパスを意識しながらオペレーターの通信を待つ。

『出ました、送信します。』

『マジかよ……』

 水木一等兵の呟きが遠くに感じた。

 北西26km、無数の敵性反応が出現した。

「至急!応援を要求する!」

『畏まりました、ですが……』

『時間はかかってもいい!この脅威を防ぐことを考えろ!』

『し、失礼しました!』

 オペレーターは新人ということもあり、水木一等兵が一喝していた。


『しかしどうするよ?俺ら何分耐えられるかねぇ…』

 水木一等兵が苦笑気味に呟いた。

「ショートソードと簡素な棒。秒だろ。」

『ちげぇねぇーなハハハハッ。

 だが、やるだけやるだろ?阿笠和。』

「もちろんだ、水木。」



『お二人とも、援軍は四十分後に来るそうです!』

『それはそれは………』

 生存は絶望的か……

「高崎さん、ナビ頼むよ。」

『畏まりました!』

 彼女のトラウマにならないことを祈るばかりだ。




『目標……3……2……接敵します!』


 

 敵、仮称ヘイロン。

 全ての機体が黒に染まり、目のみが紫に発光している。持っている武器はそれぞれであるが、俺のようなヘボい棒を持っている敵はいない。


『チッ……最悪の敵を引いたな。』

「全くだ。」

 今回のヘイロン、その武器が見た感じ銃であることが分かった。

『敵総数、二千越え……!』

 高崎さんの言葉がさらに俺と水木一等兵の気持ちを暗くした。


『一人、千機倒せばいけるか?』

「いけねーよ。」

「『ハッハッハッ………ハァー……』」

『あ、あの………』

『あぁ、すまんな。高崎ちゃんは必要事項以外は黙っててくれる?気が散っちゃうから。』

『っ!…分かり、ました。』

 少しキツイ言い方となってしまったが、水木一等兵も俺も機体が他よりスピードがある分遥かに精密だ。少しのミスが命取りになってしまう。


『そいじゃ、いくぜ!』

「あぁ!」

 敵の射程圏に入った瞬間、弾かれたように二つの機体は左右に別れる。その数秒後、さっきまでいた場所に銃弾が雨のように通過した。

『ヒュ~♪︎熱烈だねぇ、そらよっと!』

 水木一等兵が持っているショートソードで敵一機を沈黙させた。

「水木一等兵!ここからは個人戦だ。パスは切らせてもらう。」

『おうとも!帰ったら酒場で宴会だ!』

「あぁ!」

 言葉を残し、通信を切る。


 

 俺が持っているのは最低品質の棍棒。ヘイロンにダメージを与えられるように作ってはいるが、ゲームで言えば、ただのゴミだ。

 機動力を生かしてヒット&アウェイをしなければ死ぬ。少しでも止まったら死ぬ。目を凝らして敵の銃弾を全て避けなければ死ぬ。敵に囲まれたら死ぬ。


 ハードを超えてルナティックだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

要塞都市ホーゲンル 麝香連理 @49894989

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ