第1話
「これが阿笠和二等兵の機体だ。」
上官の藤堂軍曹に案内され、メンテナンスルームでいくつもの配線に繋がれた自分の機体と対面した。
「確認次第、トレーニングルームの021号室へと向かえ。」
「はッ!」
コンピューターを弄り、機体の不備をチェックする。エンジニアを信用してないわけではないが、自分の命と共にする相棒だ。こういうのはきちんと自分の目で見たい。
システムはオールグリーン
機体名はアタックコマンド。全長八メートルで全身グレーのボディ。ちなみに武器は鉄パイプのでかいやつのみ。剣や銃を使いたければ、給料で買わなければいけない。
この城塞都市で一般兵に配給される量産型の機体だ。基本的に量産型や一般機体は兵士が直に乗り込んで操作し、お偉いさんや金があるやつの高級機体は身体をカプセルに入れ、遠隔で操作する。それに機能にも大きな差がある。量産型は膨大なコマンド入力と共に身体を動かして機体を動かすが、高級機体は思っただけで操作が出来る。
乗ってみたいと思わんでもないが、操作時のやることの少なさに不安を覚えそうで本番ではお断りだ。
配線を外し、目視で機体をチェックし、中に乗り込む。量産型のメンテナンスルームは屋根がないため、このまま飛んでトレーニングルームへと向かう。
021………ここだ。
軍学校での学びを反復するようにコマンドを入力し、機体を動かす。速度、動作、共に問題なし。
ここで一つ、量産型のコツがある。高級機体は人の意思で動かすため、人以上の動きは難しい。しかし、量産型はコマンド入力のため、人ならざる動きも出来る。例えばこんな風に、腕と顔を背中側に向けることだってな。
………ま、使いどころは知らんが。
『第14小隊に通達。第三ディスカッションルームに集合されたし。繰り返す……』
「もう終わりか……」
汗を拭きつつ呼吸を整え、メンテナンスルームに機体を置いて第三ディスカッションルームへと向かう。
「全員揃ったな。」
俺を含めた新兵は三人、先輩らしき者が四人。今声を出したのが藤堂軍曹。
「これより、簡単な自己紹介をしてもらう。このメンツがお前達の背中を預ける仲間だ。それを終えたら十二番区の上空に機体に乗って集合だ。」
藤堂軍曹はそう言い終えると部屋を出ていった。
「んん!それでは、この14小隊のリーダーを務める佐藤伍長だ。よろしく頼む。」
平凡な顔。俺と同じ、純日本人の顔だ。
「メタル・プレッツ。よろしく。」
紅い髪の女。
「水木だ。偵察を任されている。よろしく頼むよ。」
チャラそう。
「バークンと呼んでくれ!」
八重歯を光らせる金髪。こっちもチャラそうだ。
「阿笠和と申します。」
一言、分かりやすいのが一番だ。
「俺は橋爪ケンジュウロウだ!軍学校での卒業試験の撃墜数は五十三機!どんな敵でも倒してみせるぜ!」
ふむ、記憶の無駄だな。
「わ、私はパラナ・アーガントです!よ、よよよろしくお願いします!」
白髪の女。背中から同士討ちされないと良いが。
「よし!これで全員だな!皆、機体に乗って巡回だ。下手しても、事故るなよ!」
佐藤伍長を含めた先輩はパラナを一瞥していた。考えることは同じか。
「こちら阿笠和、十二番区の上空に到着。オーバー。」
『こちら佐藤、了解した。後はパラナのみ……………来たか。パラナ二等兵、問題ないか?オーバー。』
『はい!こちらパラナ!到着いたしました!オーバー!』
『よし、これより14小隊の巡回経路を回る。全員で行くのは今日だけだから、新人は死ぬ気で覚えろ?
発進!』
佐藤伍長の言葉に従い、城塞都市の上空を移動する。
ここで同じ小隊の機体のチェックでもしておくか。
佐藤伍長はフラッグメイル。守りに重視した銀色の機体で、全長十二メートル、武器は盾と槍。司令塔が搭乗する機体としてはオーソドックスな機体だ。
メタル上等兵はスピンスライド。速度と攻撃を重視した緑色の機体で、全長八.五メートル、武器は剣。こちらはやや特殊な機体で、制御するのに難がある。
水木一等兵はスピンスライドのカスタムタイプ。カスタムとは、自分好みに機体を弄れるのだが、機体の知識がないと無理な改造で機体が壊れてしまうこともある。とても高度な技術が必要だし、エンジニアに構造を理解されないと自分で全てメンテナンスしなければいけないデメリットもある。
水木一等兵のスピンスライドは見たところ速度特化で、ペイントは空色を使用していて、武器はショートソード。更に制御が難しいであろうが、涼しい顔をしている。チャラいだけではなさそうだ。
バークン一等兵はブレイクガオー。攻撃に特化した少しお高めな機体で、赤いボディに黒のライン。全長十一.五メートルで武器は二刀流剣。歴の長い兵士や、金稼ぎをしたい兵士が好んで搭乗する機体だ。
敵の撃破数で昇進や給料が決まるからね。
パラナ二等兵はセオリー通り、俺と同じアタックコマンド。度々機体の高度が下がっていって、よく卒業出来たなと感心する。
問題は橋爪二等兵だ。機体はグレイヴン。最初に言ったお偉いさんや金持ちが好んで乗る機体だ。全長九メートルで金と銀の装飾がついた白いボディ。武器は専用の二丁拳銃。この銃で味方が追い込んだ敵を撃ち抜いて戦果を横取りするという卑劣な行為をすることで有名だ。射撃精度はさることながら、機体の頑丈さも売りの一つだ。機体に生身の身体は乗っていなくても、機体が破壊されれば脳にダメージは行くため、この機体は悪趣味野郎の象徴でもある。
『これが俺達の担当する経路だ。明日からシフト制で出撃してもらう。もちろん、出撃以外にもやることは山積みだ。少しずつでも慣れてくれ。
今日はこれで終了!各自明日に備えて英気を養え!』
「『『『『『『了解!』』』』』』」
仲間の機体とマッピングは完璧だ。マルチタスク程度出来なければ、この戦争は生き残れない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます