第50話 ハーフオークは商人の護衛を頼まれる

ミスリル・ゴーレムを倒してから20日経って

新しい防具が完成し、武具の強化がすべて終わった。


俺たちは新しい装備に身を包んで、市長の元へお披露目に向かった。

「市長、ありがとう。」


「おおっ!ずいぶん、カッコよくなったじゃないか!

それで、これからどうするつもりだ?

王都なんか行かずに、ずっとこの街にいたらどうだ?

この街、凄く暮らしやすいだろ?楽しいだろ?おん?」

市長がぐいぐいと迫ってきた!暑苦しい爺だな!


「ありがとう。たしかに、この街の人はみんないい人だ。

だけど、宴会が多すぎる!ずっと酔いつぶれるんだぞ!

こんな毎日、やってられるか!

それに、アンタの息子だ!

弱いくせに、毎日、毎日、挑戦してきやがって!

何が、「俺の方がリュークよりカッコいいし、ディーデレックとお似合いだ!」だ!

もうちっと、強くなってから来やがれ!」


「ふん!宴会はお前らがなんと言おうが絶対に少なくせんぞ!

まあ、息子のことは謝っておくが。

そうそう。もうすぐ王都に戻る商人がいるんだ。

なんなら、護衛として雇ってもらったらどうだ?」


「いいのか?決まった護衛がいるだろう?」

「護衛は多い方がいいだろう?」

金の話もあるし、護衛同士で揉めることもあるから嫌がると思うんだけどな・・・


「まあ、護衛を依頼してもらったらお得だけど・・・」

というわけで、翌日、市長に案内されて、その商人を訪ねた。


その商人は栗色の髪の温和なカンジの20歳くらいの男だった。

「初めまして、ライニール・ヴァルドゥスと言います。よろしく。」

「『ハーフムーン』のリュークです。よろしく。」

ライニールが温和な笑みを浮かべたまま、右手を差し出して来たので、軽く握手した。


「市長が貴方方のことを強く推すんです。護衛は決まっているんですけどね。」

「やっぱりそうですよね。市長の強引さには俺もやられっぱなしです。

ヴァルドゥスということは、もしかして王都で五指に入るあの商会ですか?」


「よくご存じですね。

私はそこの跡取りで、今回、初めてここにやって来たんですよ。

鉱石や武具の商売のために、市長や有力者たちと親しくなってこいって

送り出されたんですが、こちらに来て意味がよくわかりましたよ。」


「貴方もめちゃくちゃ飲まされたんですか?」

「ええ。死ぬかと思いました。」

ライニールは苦笑いしていた。うんうん、凄く共感するわ!


「正直、護衛を新たに雇うつもりはありません。

ですが、一緒に旅するのはお互いに得になるかと思います。

勝手で申し訳ありませんが、王都まで一緒に行きませんか?」


「こちらも勝手ですが、いつでも別行動していいなら喜んで。」

「それでも充分ですよ。契約成立ですね。それでは、私の護衛を紹介しましょう。」

ライニールが声を掛けると、隣の部屋から6人の男女が入ってきた。


「「「ハーフオーク!!!」」」

久しぶりに俺のことを蔑称で呼んだ奴らは王都で見たことある姿だった。

男どもは首にお揃いのブルーのスカーフを巻いていた!

護衛と知り合いの可能性があることを忘れていた!

俺は嫌われ者の有名人だったのに。


護衛の紅一点は背が185センチ近くある、赤髪、赤目の勝気そうな戦士で、

たしか、スパイス・レディースっていう20代半ばの女5人の

Bランクパーティだったはず。なんで一人だけいるんだ?

後の5人は10代後半の男で、『ブルースカイ』のクランメンバーだ。


「彼を知っているのかい?」

ライニールが赤毛の女に尋ねた。

「女の子は知りませんが、その男は『三ツ星』って3人パーティのメンバーでした。

2年くらい前にパーティが解散したようで、それからは初めて会います。

そのころ、みんなから、ハーフオークと呼ばれていました。」

女は雇い主が相手だけに丁寧に答えていたが、俺を見つめる視線は冷たいものだった。


女の後ろにいた『ブルースカイ』のクランメンバーが憎々し気に言い放った。

「ライニールさん。そいつはオークと人のハーフです。

半分魔物だから信じない方がいい。」


「おい、いい加減にしろよ。

俺はハーフオークじゃないし、俺がいつ、誰に、迷惑を掛けたんだ?

次、俺をハーフオークとか、魔物とか呼んだら、ぶっ飛ばしてやるぞ。」


「はっ!偉そうに!アルナウトさんに手も足も出なかったくせに!」

「あれから2年、経ってる。

今度チャンスがあったら、アルナウトをぶっ飛ばしてやるさ。

それに、俺をずいぶん見下しているが、お前に負けたワケじゃないぞ!」

「なんだと!」

「アドリアン、止めなさい!」

ライニールはアドリアンを厳しく止めた。


不承不承黙り込んだアドリアンを見てライニールは俺に頭を下げた。

「申し訳ありません、リュークさん。

私の護衛が貴方を侮辱するようなことを言って。

お詫びとして、もしよければ、二人で食事に行きませんか?

私はお酒が弱いので、心配しないでも大丈夫ですよ。」


「ライニールさん、私も同行させてください。」

赤毛の女の言葉にライニールはどうする?って俺を見つめた。

「ハーフオークと言わないならいいぜ。」

「それじゃ、早速行きましょうか。」


俺はライニールとその護衛の様子から、領都で貴族を殺したことはバレていないって

確信してホッとしていた。

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