第39話 ハーフオークは疫病神に出会う
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ドワーフの街、アグリーニオに行くことにして、
魔の森を北東に歩き出して10日目の夕方、
対岸が見えないくらいの大きな湖の畔にたどり着いた。
水は澄んでいて、浅瀬を小魚がたくさん泳いでいた。
水面には夕日がゆらゆら幻想的に映っていて、
その美しい光景の向こうには、島がいくつか見えた。
キャンプの準備をしていると、ディアナが小声で警告してきた。
「何か近づいて来るよ☆」
現れたのは10歳くらいの犬人のやせ気味の男の子だった。
犬人ハーフのディアナの髪は白ベースに黒だが、その子は反対で黒ベースに白だった。
「こんな所に一人でどうしたの?もうすぐ日が暮れちゃうよ。」
ディアナが優しく問いかけると、その男の子は涙をこぼしながら叫んだ。
「お姉ちゃんがシャティヨン様の生贄になっちゃうんだ!」
「シャティヨン様って?」
「生贄ってなんなん?」
質問に答えることが出来ずに泣き続ける男の子をディアナとディーは優しく慰め続けた。
少しして落ち着いた男の子はディアナの問いかけにこう説明してくれた。
「僕の名前はケイス、10歳。この近くの犬人の村に住んでいるんだ。
この大きな湖の周りにはいくつかの村があるんだ。
それで、あそこに大きな島があるだろ?」
ケイスの指さした方向、かなり向こうに木々が鬱蒼と生えている大きめの島があった。
「あそこにシャティヨン様って神様がおられるんだ。」
「神様!」
「そう!人面蛇身の神様で、この湖の平和を守ってくれているんだ。」
「人面蛇身の神様・・・」
俺たちは視線を交わしたけど、だれも知っている者はいなかった。
でも、人面蛇身って魔物なんじゃあ・・・
「そのシャティヨン様は湖の周りの村で順番に、季節に一人生贄を求めるんだ。
10歳くらいの女の子を。」
「「「「ええっ!」」」」
「酷い話だな!」
「でもね、生贄を出したら、この湖に平和をもたらしてくれるんだ。
シャティヨン様がいなかった時はこの湖を巡る村の争いが酷かったんだって!」
だから、この湖の周りの村が順番に生贄を出しているのか・・・
「もしかして生贄って、ケイスのお姉ちゃんなのか?」
ケイスの目に涙が溜まった!
「そうなんだ!僕、お姉ちゃんがいなくなるのは絶対にイヤなんだ!
だから、シャティヨン様にお願いに来たんだ!」
ケイスがまた泣き始めると、ディアナはケイスの背を優しく撫でていた。
「ねえ、リュー兄ィ、この子を助けて欲しいの・・・」
ディアナがいつもと全然違う、気弱な様子で頼んできた。
10年くらい前か、ディアナの弟がはやり病で亡くなってしまったんだ。
あの時、ディアナはずっと心配で付き添っていて、亡くなってしまった後、
しばらく泣いてばかりだったな・・・可哀そうだった。
ケイスを弟と重ね合わしているのかな・・・
俺たちはケイスと一緒に、ケイスのお姉ちゃんを探した。
すると、すぐ近くに小屋があって、その中にケイスのお姉ちゃんが縛られていた。
ずっと泣いていたらしいケイスのお姉ちゃんを解放した。
「助けてくれて、ありがとう。私の名はリィーダです。」
リィーダは12歳で、その髪はケイスと同じ黒ベースに白が混じっていた。
「でも、シャティヨン様はどうするの?」
リィーダが不安そうに尋ねてくると、俺たちは視線を交わしあったが、
妹たちにもいい案はないようだった。
「俺たちも分からないから、まず、シャティヨン様に頼んでみようか。
魔石とか、他の物ではダメなのかって。ほか、何かあるかな?」
「う~ん、それしかあらへんかな~。」
不安そうなリィーダとケイスをディアナは甲斐甲斐しく世話していた。
「「何か来る!!」」
ディアナとアレッタがその気配を感じて怯えていた。
ゴブリンキングにもこんなに怯えていなかったのに!
「行くぞ。怖かったらここにいろ。」
「ううん。リュー兄ィと一緒に行くよ☆リィーダとケイスはここにいてね☆」
小屋の外にでてみると、満月が南の空高く輝いていていた。
『ハーフムーン』揃って湖畔に出ると、満月が湖に映っていて、
その真ん中をゆっくりと滑るようにこちらへ向かってくる人がいる!
湖畔に乗り上げてきたのは、上半身が薄気味悪い老人で、下半身が蛇だった!
老人は普通の人の大きさで、下半身は3メートル近くあるだろうか?
老人の目は蛇そっくりで、時折、口から二股の細い舌が顔を覗かせた。
その雰囲気は神々しさなんて欠片もなく、ただただ禍々しかった。
「ほほう~、ちょっと年は行っているが、美味そうな娘がたくさんいるではないか!」
シャティヨンはディアナ、アレッタ、ディー、トリクシーを見比べ、舌なめずりしていた!
妹たちが凄まじい嫌悪感で身震いしていた!
しまった!俺、一人で来るべきだった!
だが、言葉は話せるようなので、俺はキラーパイソンの魔石を取り出した。
「シャティヨン様、申し訳ないのですが、
生贄の代わりにこの魔石で許していただけないでしょうか?」
その大きな魔石は月の光を浴びて、きらりと光った。
魔石を見て、シャティヨン様が笑うとますます不気味に感じた。
「そうか、そうか。魔石も頂けるか!うむうむ。それでは全部頂くとしよう!」
シャティヨンとは交渉なんて全く出来なかった!ただの化け物だ!
「戦うぞ!」
叫ぶとすぐに妹たちが戦闘態勢を取った。
「おうおう、やる気を出して可愛いのう。無駄な抵抗を楽しむとしようか!」
不気味に笑い続けるシャティヨンが右手を上げた。
「魔法か!」
「ワイの後ろに隠れるんや!」
みんな、一列になってディーの後ろに隠れた。
シャティヨンの右手から凄まじい量の水が発射された!
ドドドドゥー!
だけど、ディーの大盾にぶつかるとたちまち消えていく!
「なんだと!ぎゃっ!」
水魔法が効果を失ったことに驚いたシャティヨンの右目に突然、矢が突き刺さった!
アレッタか?
「ぐはっ!なんで!もういい!皆殺しにしてやる!」
たちまち余裕を失い怒り狂ったシャティヨンは、今度は左手を上げた。
すると、黒い禍々しい玉が出てきて、どんどん大きくなっていく!
ヤバい!怖い!あれを喰らったら死ぬ!
「か、隠れるんや!」
みんな、一列になってディーの後ろに隠れた。
「死ね!」
黒い禍々しい、巨大な玉が俺たちに向かって投げつけられた!
これ、喰らったら死ぬ!
だけど、ディーの大盾にぶつかるとその黒く禍々しい玉は二つに割れた!
そして、通り過ぎるとぶち当たった大木を一瞬にしてドロドロに溶かしていた!
だけど、ディーの大盾のお陰で、俺たちは無事だ!
シャティヨンに向かってアレッタが矢を放った!
シャティヨンは右手で防ごうとしたが、矢が当たって爆発した!
「ひいぃ!」
必殺の魔法が効かず、右手に大やけどを負ったシャティヨンは悲鳴を上げて逃げだした!
まっすぐ、島に向かって水の上をすべるように逃げ出すシャティヨン。
月明かりの元、その背にアレッタの矢がいくつも当たったように見えるが、
シャティヨンは島へ一直線に戻っていく。
「船で追いかけるぞ!」
「う~。アタシは小屋でケイスとリィーダを守るよ☆」
繋がれているケイスの村の小さな釣船に乗って、俺がオールを漕いで島へ向かう。
満月とはいえ、月明かりでは真っ暗で少し怖いので、話をして恐怖を胡麻化そう。
「ディー、ありがとう!ほんと、助かったよ。」
「いやぁ、ビビったわぁ。この大盾、あんな怖い魔法まで消しよったなぁ。」
「ほんと、凄い盾だよな。作ったディーのお爺さん、
パク・・・持ち出したディーのお父さんに感謝だな!」
「パクる言うなや!」
「いや、もともとディーが言ったんだろ!
まあ、とにかく、あんな話の分からない化け物とは思わなかったよなあ。
アレッタも、流石だね!あの、目に当たったヤツ、全然見えなかったよ!」
「にゃはは!必殺、クリアクリアにゃ!見えない矢にゃ!」
「それ、最高!」
ディーとアレッタを褒めたたえていたら、トリクシーが頬を膨らませて、
手をビシッと上げた。
可愛い。
「はい、兄さん!」
「トリクシー、なんだい?」
「あの島に、私の雷魔法を落とします。」
「えええっと、雷魔法が湖の上に落ちたら、俺たち死ぬかもよ?」
「その緊張感が成長をもたらすのです!」
「いや、そんな危ないことしないでも・・・」
トリクシーを止めたかったのだが、トリクシーが立ち上がると
船がグラグラと揺れて、みんな必死で船に掴まっていた。
「千客万雷!」
やっちまった~!
一転、にわかに満月が雲に隠れると、ピカッ、ピカって雷が光り始めた!
そして!
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ
シャティヨンのいる島に凄まじい音、凄まじい光の雷が次々と落ちた!
落ち続けた!数えきれないくらい!
何度体験してもメチャクチャ怖い!
永遠とも思えた1万の落雷が終わると、辺りは静寂に包まれ、焦げ臭い臭いが漂っていた。
でも、トリクシーの1万の雷はすべて島に落ちていた!
ホントに成長しちゃった!
満月が再び現れると、島は鬱蒼とした森だったのに、すべて焼け焦げた平地になっていた!
「トリクシー、よくやった?・・・シャティヨンって死んだよな?」
「島で動いているモノはないし、怖い気配も無くなったにゃ!」
アレッタは怖い気配が無くなったことで、いつもの調子を取り戻したようだった。
「ニイヤン、せっかくここまで来たんや。上陸して確かめようや。」
「そうだな。」
トリクシーのライトの魔法で辺りを照らしながら、歩いていると・・・
「向こうでピカッって光ったにゃ!」
アレッタが軽やかに走っていった。
「大きい魔石、ゲットだにゃ~!」
アレッタが持ってきたのは、片手でようやく持てるほどの巨大な魔石!
光輝いている!たしかに、シャティヨンならこれくらいだろう。
嬉しいことに、この魔石、禍々しくない!
意気揚々と戻っていくと、湖畔にディアナだけ、待っていた。
湖畔へ戻ってきて上陸すると、ディアナが俺に抱き着いて来た!
「リュー兄ィ!心配したんだから!」
「ゴメンな、でも大したことなかったんだよ?」
「だって!トリクシーの雷が滅茶苦茶たくさん、落ちたじゃない!
もう、帰って来ないのかと・・・」
俺はディアナの髪を優しく撫でた。
「あ~、ごめんな。でも、大丈夫だよ。
ディアナを一人にしたりしないから。約束するよ。」
ディアナが俺を見つめて、その瞼をそっと閉じた!
うおぉ~!綺麗な唇に吸い寄せられそう!ダメだ、ダメだ、ダメだ!
「おい、ニイヤン、ええ雰囲気やけど、今回、ニイヤンは船を漕いだだけやで。」
ディーの冷たい言葉で熱が一気に冷めてしまった。
「あははは!」
乾いた笑いを浮かべた俺は、妹たちをねぎらって休むことにした。
「みんな、ありがとう。お陰で、リィーダもケイスも、俺も助かったよ。
じゃあ、俺たちも小屋で休もうか。」
「「「「お~う!!!!」」」」
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