流浪編
第37話 マッケンゼン子爵は欲望に忠実に生きる
第3章 流浪編です。
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マッケンゼン子爵(メレンドルフ辺境伯の弟にして、辺境伯軍の総帥)のお話
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
寝耳に水のスタンピードだったが、想定と比べて、被害は奇跡といっていいくらい最小限となった。
それは、『ハーフムーン』というパーティのお陰と周りは言っておるが、そいつらは、儂の命令「南門から出撃した冒険者は、南の魔物を西から攻撃せよ!」
を無視した連中だっ!
しかも、そのリーダーは、オークとの合いの子、ハーフオークらしい!
儂は命令違反を強硬に主張し、奴らに褒賞を与えることを最小限に防いでやった。
初めて見たハーフオークはその顔、その浅黒い肌から、知性を全く感じさせなかった。まあ、魔物とのハーフだからな。
他の女どもはハーフだが、綺麗どころがそろっていたので、儂の情欲を刺激してやまなかった。
儂の止めたくても止められない性癖。
それは綺麗な女を切り刻んで殺すこと。
辺境伯の弟であり、高位貴族であり、この領都の騎士団長である儂でも、そんな女をおいそれとは用意出来なかった。
しかしっ!
ハーフオークを嵌めれば、(ハーフと言う下劣だが)4人の綺麗な女が手に入るのだっ!
しかも、この領都を救った英雄というプレミア付きだっ!
少し奴らの周りを調べてみたら、怪しい事件がすぐに見つかった。
これで、やらないでどうする?
いつやるの?今でしょ!
くふふ。
儂は翌朝、ハーフオークを捕らえるべく、夜明け前にその家を強襲することにした。
意気揚々と向かったのだが、
「団長!見張りが縛り上げられています!」
「なんだと!この愚か者がっ!」
見張り二人は、1時間ほど前に奇襲され、縛り上げられたのだ。
「家の中はもぬけの殻です!」
「奴らは南門の方へ歩いていきました!」
1時間か!
奴らは徒歩だが、儂らは騎馬なら追いつけるだろう。
くふふ。
「よし、騎馬の10騎、儂に続け!」
儂は颯爽と愛馬を駆けさせた。
南門を駆け抜け、あの雷魔法で荒野となったところを駆け抜けると、魔の森が近づいてきた。
「団長!5人、見えました!」
「よし、追いつくぞ!」
儂は愛馬を励まし、奴らと少しずつ距離を詰めていった。
そして、魔の森に入ってしばらく、ついに奴らに追いついた。
うん?ハーフオークは代名詞の歪んだメイスを持っていないではないか!
エルフの魔術師はワンドを持っていないし、猫人の射手も弓を持っていない!
愚か者め!
慌てて逃げ出し、武器を忘れるとわ!
はっは~!
スタイル抜群のエルフ!胸と尻がデカいドワーフ!綺麗な犬人!可愛い猫人!
しかも、領都を救った英雄だっ!
早く、いたぶりたいわっ!
くふふ!
滾るわっ!
儂は馬上から威風堂々と、ハーフオークどもにその罪を知らせ、投降を呼びかけた。
「『ハーフムーン!』お前らには、ヨーゼフ・ファミリーを殺した疑惑、そのアジトを放火した疑惑がある!
大人しく、この辺境伯の弟にして、領都の騎士団長である、このマッケンゼン子爵に捕まるがよい!
逃げるのは無駄だと諦め、武器を捨てよ!」
儂の威に撃たれた『ハーフムーン』の奴らは動けないようだった。
「この声は・・・」
何やら呟いている犬人に向かって、騎士の一人が下馬してにこやかにハリのある声で話しかけた。
「団長はああ言ったが、我々はハーフオークの単独犯だと考えている。
さあ、悪いようにはしないから、その剣を捨てて投降しなさい。」
女を傷つけずに捕えたら、いい思いをさせてやるって言ったからな。
女どもはみんな驚いて、一斉にハーフオークを見ていた。
イケると思ったのだろう、部下どもは全員、下馬して女どもに投降を促し始めた。
だが、女どもは表情を消したまま、じっとしていた。
すると、ハーフオークがニヤリと笑った!
「何が可笑しい、ハーフオーク!」
儂の怒号を無視して、ハーフオークはエルフに向かって手を差し出した。
「いや、トリクシー、武器を出してくれ。」
「はい、兄さん。」
エルフがマジックバックからメイスを取り出し、ハーフオークに渡した!
そして、猫人には弓を、ドワーフにはメイスを、さらに自分のワンドを取り出した!
「な、マジックバックだと!」
「武器なんか取り出してどうするつもりだ?」
「お、おい、ま、まさか、歯向かうつもりか!」
「や、止めておけ!国中全てから犯罪者として追いかけられるぞ!」
戦意を見せながら、武器を構えたハーフオークどもに動揺して、じりじり後退しつつ、たわごとを口にする部下ども。
この臆病者どもがっ!
この儂の言うことをきかん、愚か者どもが!ハーフオークがっ!
「儂はマッケンゼン子爵!辺境伯の弟にして、この領都の騎士団長だぞ!」
儂の怒号に、ハーフオークはますます面白そうに笑った。
「うん、さっき聞いた。今、俺たちは殺人犯として追われているから、お前らを殺しても、大した違いはないよな?」
な、なんだ・・・と・・・
貴族に!高位貴族に!この儂に!歯向かうだと!
有り得ん!そんなこと有り得ん!ふざけるなっ!
だが、ハーフオークの威嚇に騎士どもは怯えて、へっぴり腰になっていた!
そうだ!こいつらは10万の魔物の半分くらい殺した奴らだった!
いや、男爵ならともかく、高位貴族を庶民が殺したことなど聞いたことがないぞ!
ありえんっ!
だが実際、ハーフオークからの敵意、いや殺意がぐんぐん増していく!
なんで、儂はこんな少人数で来てしまったんだ!
「なっ!なっ!なっ!なっ!なっ!なっ!」
「全然違う!貴族に手を出したら、国が本気で追いかけるんだぞ!」
部下の一人が叫んだが、ハーフオークはバカにするように答えた。
「死体がでなけりゃ、魔物にやられたって思うだろ?」
「なっ!なっ!なっ!なっ!なっ!なっ!」
「なっ!しか言えなくなっちゃったね☆」
犬人が怖い笑顔を浮かべ、腰を落とし、剣の柄を握った。
猫人が目を細め、弓に矢を番えた。
怖い笑顔を浮かべたドワーフがブンブンとメイスを振った。
エルフがワンドを高く掲げた!
「ひいぃ!待てっ!話せばわかるっ!」
儂は怖くなって、馬首をひるがえした。
「問答無用!」
ハーフオークが叫ぶと奴らは一斉に動き出した!
「ぐぅ!」
いち早く逃げ・・・もとい、転進しようとした儂は、両肩に矢が突き刺さって落馬してしまった!
そのうえ、奴らは騎士どもに襲い掛かって、戦意の全くない騎士どもをたちまち皆殺しにしていた。
ためらいなく騎士を殺すとは!こいつらは、やはり魔物だっ!
儂は落馬と矢の痛みを感じないくらい恐怖していた。
「た、助けてくれ!か、金なら払う!
い、いくらだ?いくら欲しい!欲しいだけ払うから、助けてくれ!」
「ここに後詰は来るのか?」
「い、いや・・・来る!すぐに来るぞ!だから、儂は活かしておいた方がいいぞ!」
「全然、来てないよ☆」
「来てないにゃ!」
嘘がたちまちバレるとハーフオークはじろりと儂をにらみつけ、儂の右足の甲をメイスで叩き潰した。
「ぎゃ~!」
「嘘はつくな。ああ、痛い目に遭いたいなら、いくらでも嘘ついていいぞ。
次だ。俺たちを捕まえに来たことは他に誰が知っている?」
「ぶ、部下どもは知っているっ!歩兵は領都に残して来たっ!」
「俺たちがヨーゼフ・ファミリーを殺したとか言ってたな?それはどういうことだ?」
「ぶ、部下どもがお前らを調べたら、ドワーフの近くでそんな事件があることを知ったんだ!」
「そうか。・・・本当かな、今の話。」
疑わしそうにハーフオークは振り返って、女どもに尋ねた。
「本当かどうかなんて分からないでしょ☆」
「そうか。そうだな。じゃあ、コレ、どうしよう?」
ハーフオークが儂をゴミの様に見ていて、震え上がってしまった。
「邪魔☆」
「ゴミにゃ!」
「生きてると鬱陶しいから、死んだ方がマシやな。」
「死体ならマジックバックに入るわ。でも、私は触らないわよ。あっ、生きていても、死んでいてもよ。」
女どもも儂をゴミとして扱っていた!
「た、助けてくれ・・・」
貴族の誇りをかなぐり捨て哀願してしまうと、ハーフオークは楽しそうに笑った。
「いやあ、ビックリして笑っちゃったよ。」
???
「いや、俺、ホントにヨーゼフ・ファミリー、皆殺しにしちゃったんだよね。」
「だから、可愛らしく言うなや!」
「なっ・・・」
「冤罪を押し付けられる人が真犯人って斬新だよな!」
「なっ・・・」
「秘密を知ったからには死んでもらうぜ☆」
「ひいぃっ!」
儂の頭目掛けて、ハーフオークのメイスが振り下ろされた・・・
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ここからは上がるだけ。
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