第36話 ハーフオークは功労者なのに表彰式で侮辱される
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祝勝式典の朝。
俺たちは少しの不安を胸に抱きながらも、胸を張って政庁へ赴いた。
少しの不安っていうのは、昨日、孤児院の子どもたちと魔石拾いに行って、たくさん拾って戻ってくると、門番にゴッソリと召し上げられてしまったんだ。
残ったのは小さい魔石がほんのお小遣い程度だけ。
子どもたちはみんな、泣いちゃったから、ご機嫌とるの、ホントに大変だった。
功労者で、表彰されるために呼ばれたハズの俺たちは狭い待合室に放り込まれ、1時間以上ほったらかしにされた。
不安がむくむくと大きくなってきたけど、みんな黙ったままだった。
どこで嵌められるか分かったもんじゃないからな。
ようやく、表情を消した騎士がやってきて、簡単な式典の説明を受けた。
そして、武器を取り上げられると、騎士の案内で会場に案内された。
大きくて豪華な扉を開くと、大きな部屋があって、その向こうの方に、貴族たちや武官の偉いさんたちがずらりと並んでいた。
騎士の案内の元、歩き始めたのだが、貴族たちの遥か手前で止まれの合図が出た。
「跪け。」
俺たちは聞いていたとおり、左膝を床に付けて、頭を下げた。
向こうの方にいる貴族どもが俺たちを見下していることをはっきりと感じた。
横から騎士2名がゆったりと歩いてきて、俺の前で立ち止まった。
「『ハーフムーン』の5名を名誉騎士爵に叙する。」
騎士爵自体が1代限りの名誉職なのに、それに名誉がつくってどんだけ~!
それから、俺たちの首に銀色の小さなメダルを首にかけていった。
ちゃちいぃ~!
「下がってよい。」
「人間扱いされただけで、ありがたいと思え!ハーフオーク!」
貴族どもの誰かが吐き捨てた!
屈辱で体が燃え上がるのを必死で堪える。
これが功労者に対する扱いか?
俺たちは犯罪者なのか?違うだろう?
俺たちはスタンピードを征した功労者だろ?
だから、ここに呼んだんだろ?
こんなこと、妹たちには想像を絶することだろう。
連れてきたのは大失敗だった、すまない。
ここまで連れて来てくれた騎士に案内され、もとの待合室に連れて行かれた。
ディアナ、アレッタ、ディー、トリクシーから痛いほどの視線を浴びた。
みんな、屈辱に震えていた。
「みんな、すまない。お願いだから、しばらく口を開かないでくれ。頼む。」
頭を下げると、妹たちは目を赤くして、唇を噛み締めたまま、ほんの少しだけ肯いた。
騎士は妹たちを見て気の毒そうな表情を浮かべた。
「・・・これで貴方たちの出番は終わった。ご苦労さまでした。
・・・貴方たちのお陰で、この領都は無事だった。本当に感謝している。」
その騎士は丁寧に頭を下げた。
体の中を充満していた怒りが、ほんの少しだけ無くなり、
怒りが行き場を失ってグルグル体の中を回り続けていた。
大人しく家路についた。
大通りを通っていたら、妹たちは必ずオネダリしてくるのに、今日はみんな、黙ったままだった。みんな、俯いたままで肩を震わせていた。
家の中に入るとディアナ、アレッタ、ディー、トリクシーが抱き着いてきて泣き始めた。
「なんなの!アタシたちがこの領都を助けたのに!」
「アレッタたちは人間にゃ!」
「あんなんやったら、呼ばんでええやん!ほっとけや!」
「ひどい!ひどすぎます!」
妹たちを抱きしめながら、俺も涙がこぼれ続けた。
「ごめん!俺がリーダーじゃなかったら、こんな目には・・・」
「違う、違う!」
「リュー兄ィはずっと傍にいて!」
「ニイヤンは悪うないねん!悪いのはあいつ等や!」
「兄さんはいい人です。私の大切な人です。」
「ごめん。自分が嫌われているのを知っていたんだから、断るべきだったんだ。
ごめん!」
「ううん。断ったら断ったで難癖つけてくるよ!」
「絶対そうにゃ!」
「そんなレベルちゃうねん!」
「・・・向こうから攻撃してきたのですから、やり返しましょう。あの政庁に千客万雷を落としましょう。」
「ちょ、ちょ、ちょ・・・」
「いいね☆」
「賛成にゃ!」
「やってまえ!」
「それは、国に喧嘩を売ることになってしまうから・・・」
「じゃあ、どうするのよ!」
妹たちの叫びに答えることが出来なかった・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
みんなでくっついて泣いて泣いて、泣き疲れて呆然としていた。
なんにもやる気が起きなかった。
妹たちを慰めたいけど、どうしたらいいか分からなかった。
日が暮れる頃になって、コンスタンティンから手紙が届いた。
俺は手紙なんて読めないので、ディーに読んでもらった。
「え~っと。つまらん長い言い訳があって・・・
① ギルド長はリーダーがハーフオークと言う理由で『ハーフムーン』を昇級させなかったので、ギルド長を首にして、さらに罰する。
② 『ハーフムーン』をCランクに昇級させる。王都のダンジョンに挑戦できるよう手続きする。
③ 褒賞を渡すように交渉している。
④ 王都のダンジョンは96階を初めて攻略したパーティが出たらしい。ダンジョンコアが欲しいなら急いだほうがいい。
ってカンジやな・・・昇級とか、褒賞とか、絶対無理やん・・・」
ディーはつまらなそうにその手紙を投げ捨てた。
「不思議ですね。」
トリクシーが首を傾げていた。
どういう意味だろう?みんなで注目して、トリクシーに続きを促す。
「コンスタンティンとは一度だけお話したけど、その時、王都のダンジョンの話は出なかったわ。
それなのに、私たちにはダンジョンに入る権利すらないのに、急がないとダンジョンコアが取られるぞって。
みなさん、そんな先の事まで考えているの?兄さんは考えているの?貴族はそうなの?」
「確かにオカシイね☆」
「どういうことにゃ?」
「・・・もしかして、早くこの領都から逃げ出せってことか?」
「そんなん、ワイらに勝てるヤツなんてここにはおらへんけど?」
「・・・犯罪をでっちあげられるとか?」
!!!!!!
最悪の想定に、みんな戦慄していた。
「・・・明日の朝、門が開くとともに門を出よう。とりあえず、魔の森へ。」
妹たちは表情硬く、肯いた。
「今から何すればいい?」
「出発準備とこの家を引き払う準備。
・・・ディアナ、アレッタ、見つからないように孤児院に行って、エルマ先生たちにさよならを言っておいで。」
「リュー兄ィも一緒に行こうよ。」
「俺は目立つから駄目だな。だから、俺の分も頼むよ。」
ディアナとアレッタは悲しそうに肯いた。
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