第29話 ハーフオークはレストランを護衛する

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トリクシーが仲間になって4か月、俺たちは久しぶりにブリリアントベアーを狩ってウハウハしていた。


「久しぶりに、お高い店にでも行けるな!何が食べたい?」

「美味しいお肉☆」

お肉大好きディアナが一番に提案して誰の反対もなかったので、

俺がこの領都に帰ってきた時、ディアナとアレッタが働いていたお店「ワンダフルライフ」に、ランチを食べに行ってみたら、孤児院の妹3人が働いていた。

1人、増えてる!


「あれ?奥さんは?」

「うん、妊娠して体調が悪いから休んでいるの。」

「そうなんだ・・・」

奥さんにも会いたかったらしい、ディアナとアレッタはガッカリしていた。


ステーキが出来上がって、マスターが自らも提供してくれたのだが、

「はい、お待ちどうさま。ディアナ、アレッタ、ゆっくりしていってくれよ。」

マスターはそれだけ言って、立ち去ってしまった。


「この前は愛想よかったけど、こんなそっけないことよくあるの?」

「初めてだよ!」


驚いたディアナはこっそりと妹を呼んで、理由を尋ねてみた。

「あのね、近くでお腹の中にいる赤ちゃんが食べられる事件があったんだって。

それで、マスター、奥さんとお腹の赤ちゃんが心配で、心配で仕方ないの。」


「!!!そんな事件があったなんて知らなかったな。

食べ終わったらギルドに行って訊いてみようか。」

俺たちは、ギルドでは常時依頼の薬草採取とゴブリン退治しか受けていないから、

あんまり依頼の種類とか知らないんだ。


ギルドに行って依頼内容を吟味していたら、あった。

【お腹の中にいる赤ちゃんが食べられる事件の解決】

妹が言っていたとおり、2日前にあのお店の近くで1件と、7日前に少し離れた所でもう1件あったようだ。


ちゃんと戸締りはしていたのだが、朝起きたらお母さんのお腹がへっこんでいたという。幸い、お母さんの命に別状はないようだが。


俺たちF(初心者)ランクでもこの依頼を受けられ、パーティ数の制限はなかった。

犯人特定で小金貨2枚(20万円)、犯人確保で大金貨2枚(100万円)と中々の報酬だった。

ただし、成果を上げないと報酬は無しだ。厳しい。


犯人は恐らく低級の魔族だろう。

魔族。人タイプの魔物。ゴブリンやオークも入るが、今回は魔法を使うタイプだろう。

魔法を使うタイプは例えばデーモンなんかはダンジョンでは見かけるものの、ダンジョンの外ではめちゃくちゃ珍しい。


トリクシーの魔法はデカすぎて領都内では使えないし、相手の魔法によっては酷い目に遭うが、ディーの大盾があるから大丈夫か?

「リュー兄ィ・・・」

アレッタが、ディアナが、依頼を受けたいみたいだった。


「じゃあ、受けてみるか。」

「ありがとう、リュー兄ィ!」

「今晩からあのお店の周囲だけ、守るぞ。ディーとトリクシーは、止めてもいいけど。」

「仲間外れはよくないわ。」

「そやで!相手、魔族やろ?ワイの大盾が火ィ噴くで!」

「大盾は火を噴きません。」

「あ~、つまらん!ニイヤンはつまらんわ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ギルドに、赤ちゃん事件の依頼を5日間やってみると伝えてみたら、子どもの落書きみたいな許可証をもらった。

これを見せることによって、夜中に出歩いていても衛兵にしかられないらしい。

ていうか、衛兵って、夜間パトロールしているんだ!知らなかったわ!


そして、「ワンダフルライフ」に行って、マスターにとりあえず5日間だけ護衛することを伝えた。

「ありがとう!ディアナ、アレッタ!本当に嬉しいよ!」

マスターにすごく喜ばれてしまった。


結果を求められては困るので、ハードルを下げておこう。こういう時はFランク、

便利だわ。

「でも、俺たちFランクですから、あんまり期待しないでくださいね。」

「いやいや、5人も守ってくれたら、近寄ってこないだろ。

そうだ!ディアナ、アレッタ、せっかくだから、妻に会っていきなよ。」


お腹の大きい奥さんに会わせてもらったら、妹たちは興味津々で奥さんの大きなお腹を見つめていた。

俺たちが護衛したいと伝えると奥さんは目を見張ってから、楽しそうに笑った。

「私を守ってくれるの?ディアナとアレッタが?

初めて会った時はあんなに小さかったのに、私を守ってくれるなんて!

ありがとう、よろしくね。

ねえ、せっかくだから、この子に挨拶してあげて。」


奥さんに勧められ、妹たちは奥さんの大きなお腹をナデナデさせてもらって凄く喜んでいた。

「いつ頃、生まれる予定なんですか?」

「遅くて2か月後くらいね。」

「楽しみですね。」


「そうなの!だけど、この3日ほど、夜が怖くて眠れなかったの。

だから、とても嬉しいわ。今晩は安心して眠れそう。

ねえ、貴方、せっかくだから、賄いでもご馳走したらどうかしら?」

「おお、ぜひ、そうさせてくれ!」

「俺たち、日が変わる頃から日の出まで護衛するつもりなんで・・・」

「そうか、じゃあ、朝飯を用意するから、期待してくれよな!」

やった!無報酬だったけど、美味しい朝ごはんは頂けそうだ!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そして、その日の夜から護衛を開始した。


魔の森での野営時なら、少し話をしたり、話が無くなったら素振りしたりしたが、

犯人を見つけるため、今回はずっと気配を消していたら、逆に酷く疲れてしまった。


また、意外と人が歩いていたが、大体、酔っ払いで、衛兵は酔っ払いを見つけても叱りつけるだけで、捕まえてはいなかった。

面倒なんだろう。


1日目、2日目が何にもなく終わった。

まあ、奥さんが無事で、よく眠れたそうだから護衛した甲斐はあったけど。

あと、マスターが特別に作ってくれた朝ごはんは美味しかった。


3日目。

1回目の事件が10日前、2回目の事件が5日前だったので、

冒険者どもがたくさんうろうろしていた。俺たちも今晩が怪しいと睨んでいたが・・・

事件は起こらなかった。


5日目。

じーっと、黙っていることに疲れてきた。

今晩だけの我慢、我慢ってひたすら念じ続けた。

!!!


突然、ディアナとアレッタが西の方を向いた!

ディアナがクンクンと鼻を鳴らした!

「いた!」


ディアナとアレッタが弾けるように立ち上がって、西に向かって走り始めたので、俺、ディー、トリクシーは慌てて追いかけた。


2分走って角を曲がったら、そこには酔っ払いのオッサンがいて、血相を変えて走ってきた俺たちを見てびっくりしていた。

「なんだ、ただの酔っ払いじゃないか・・・」


俺は警戒を解いてしまったが、ディアナとアレッタは酔っ払いを睨みつけていた。

そして、

「臭う!たくさんの血の臭い!」


ディアナが酔っ払いに斬りかかった!

が、酔っ払いはなんとディアナの剣を躱した!


そして、酔っ払いの皮がめくれて真っ黒い、小さい体が現れた!

禍々しい雰囲気、タイニーデーモンだ!

人に化けれるなんて!


アレッタの矢が放たれたがタイニーデーモンは矢を左手で掴んだ!マジか!


そして、タイニーデーモンは右手込めた魔力をディアナに向けた!

「ディアナ!」

俺はディアナを庇って、タイニーデーモンの魔法を浴びてしまった・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


Dランクに上がったばかりの頃、『三ツ星』は調子に乗っていた。

苦戦なんてしたことなかったし、たった3人で、最速で昇級していたから。

その夜は、エステルが一人で見張りをしていたんだけど、その時間は剣の訓練をずっとしていたんだ。

そして、休憩している時、疲れていて、つい目をつぶったら眠ってしまったんだ。


僕の交代の時間が来たので、エステルの傍に近寄っていったら・・・

うなりを上げながら槍が飛んできたんだ、エステルに向かって!


「エステル!」

エステルを庇い、大盾で槍を弾いたけど、1本の矢が俺の鎧を突き抜け、腹に突き刺さった!

しまった!矢に気付かなかった!

「ぐうぅ!」

体が急速にしびれ、膝をついてしまった!


「どうした?」

「リューク!」

ダミアンの慌てた声と、エステルの悲鳴を聞きながら、僕は前のめりに倒れた・・・


「リューク・・・」

エステルの心細そうな声が聞こえた。


「エステル・・・大丈夫?ケガはない?」

僕が目を開くと、エステルは一瞬だけ喜び、すぐに心配そうな表情に変わった。

「よかった!リュークこそ大丈夫なの?すぐに、毒消し草で傷をふさいだけど・・・」

「痛みは・・・ないね。痺れもないみたい。ありがとう、エステル。エステルは大丈夫?」


「本当?よかった。・・・私が見張りをちゃんとしなかったからリュークがケガをしてしまって・・・ホントにごめんなさい。」

「誰だって失敗はあるさ。でも、僕はさっきのケガだって嬉しいよ。だって、エステルを守ったんだから!」

「ありがとう、リューク。私を許してくれて。それから、私を守ってくれてありがとう。」

エステルは嬉しそうにほほ笑んでくれた。


「ダミアンは?」

「辺りを警戒してくれているわ。ゴブリン6匹いたの。

ごめんなさい。私がちゃんと見張りをしていなかったから。」

「気にしないで。僕も槍が飛んでくるまで全然気づかなかったもの。

エステルが無事だったら、それでいいよ。」

「ありがとう、リューク・・・」

エステルは僕を優しく抱きしめてくれた・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「リュー兄ィ、起きて・・・お願い・・・」

ディアナの泣きそうな声が聞こえた。

「「リュー兄ィ!!」」

目を覚ますと、泣きそうなディアナとアレッタが抱き着いてきた!


「・・・俺、何してたんだっけ?」

「覚えてへんのかいな?タイニーデーモンと戦ったんや。」

「そうです。兄さんはディアナを庇って魔法に当たってしまったんです。まあ、睡眠魔法みたいなのでよかったのですが。」

「もう、危ないことしちゃダメだよ。」

涙目のディアナに叱られてしまった。


「あ~、ゴメン。ディアナとアレッタがあの酔っ払いが怪しいって教えてくれたのに、外見に惑わされて油断しちゃったんだ。

それで、焦って、つい、みたいな?」

「うふふ☆助けてくれて、ありがとう☆」

瞳をウルウルさせながらお礼を言ってくれたディアナに、不覚にもドキドキしてしまった。


「そういや、タイニーデーモンはどうなった?」

「遅いわ!」

「私がフラッシュの魔法を唱えたら、アイツ、動けなくなったんですよ!」

「そこをアタシが滅多斬り☆」

「ワイもぼっこぼこに殴ったったら、血と肉の塊になってしもたんや。」

「怖いよ!」


「ディアナとディーのせいで、ギルドの報酬はもらえそうにないの。」

「リュー兄ィが無事ならそれでいいにゃ!」

アレッタぁ~!エエ子やぁ~!


「「そうそう!」」

報酬を台無しにしてくれたディアナとディーが笑顔でハモっていた。

いや、お前らは反省な!

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