領都躍動編

第14話 ハーフオークはハーフドワーフと出会う

新年。この日はディアナとアレッタが15歳となって、孤児院を卒業するハレの日。

俺のような卒業生たちもたくさん顔を覗かせていた。


「昨日出て行ったばかりなのに恥ずかしいね☆」

「アレッタは、まだ、こっちのが落ち着くにゃ。」

二人は弟妹たちに囲まれて、楽しそうにおしゃべりしていた。


そして、簡単な式の準備が出来て、エルマ先生からの送辞がディアナとアレッタに送られると、二人は涙をこぼしていた。


そうだ。4年前、『三ツ星』もこの日を迎えたんだ。

ダミアンが「俺は世界一の剣士になる!」ってニカって笑って、

エステルが「私は世界一の魔術師になる!」って澄ましていた。


俺は、「二人について行くよ。」って言って、弟妹たちが盛り上がっていたのを鎮火してしまったんだ。

ダミアンから「世界一の守護神になる!」って言えって言われてたんだけど、恥ずかしくて言えなかった。


ディアナとアレッタはそんな俺たちを憧れの目で見てくれてたのに、カッコ悪いな、俺。

この時ぐらいは大言壮語吐いてもよかったのに・・・

こんな時ぐらいしか、吐けなかったのに・・・


「さあ、ディアナ、アレッタ、未来への希望や野望を宣言してくれるかしら。」

ディアナはあざといポーズを極めた!

「はい☆アタシは世界一の剣士になる☆」

アレッタは可愛いポーズを極めた!

「アレッタは世界一の射手になるにゃ!」


そして、二人は俺と肩を組んで、手を大きく突き上げた!

「「そして、リュー兄ィと一緒に、『ハーフムーン』は世界一のパーティになる!」」

「「「「お~、凄い!!!!」」

弟妹から感嘆の声があがり、盛大な拍手が送られた。


ニコニコしているエルマ先生がうんうんと肯いてから、俺を見つめた。

「リューク、ディアナとアレッタがこう言っているけれど、どうかしら?」

「二人は世界一の斥候になるのは間違いない。

そして、俺たち『ハーフムーン』は世界一のパーティになる!」

力強く宣言してやった。まあ、今のままでは無理だろうけど。


「「「「がんばって~!!!!」」

俺にも弟妹から激励の声があがり、盛大な拍手が送られた。


その後、いつもどおり食事会が開かれた。

お誕生日席の真ん中にエルマ先生、その左右にディアナとアレッタが座った。


じゃんけんに勝ったアレッタの隣に何故か俺が座っていたのだが、ツンツン袖を引っ張られた。

「リュー兄ィ、だっこ。」

俺の袖をエルケ(4歳、犬人、女児)がつまんでいた。可愛い!

「よし、おいで。」

俺は満面の笑顔を浮かべたエルケを抱っこして、膝の上に置いた。


「あっ!」

「あ~、エルケ、ずるい!」

「僕も!」

「私も!」

しまった!大騒ぎになってしまった。


パンパン!

エルマ先生が怒っているときの手拍子だ!ヤバい!ごめんなさい!

「リュークは院のルールを忘れちゃったみたいね。エルケ、自分の席に戻りなさい。」

エルマ先生の言葉に、エルケは泣き出してしまった。

ごめん、俺のせいで。

俺はエルケを抱っこしなおすと、そのまま立ち上がってエルケの席まで運んだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


魔の森で、ディアナがハイゴブリンと剣を交わしたとき、お試しで買った、超お安い長剣が限界を迎えてしまった。

「ドワーフの凄い鍛冶屋を知っているんだ。武器はそこで買えないか見に行こう。」

「武器!」

「カッコイイ長剣が欲しいな☆」

さっきまで悲しそうだったディアナはニッコニコになっていた。


ルンルンのディアナとアレッタを連れて、領都一番のドワーフの鍛冶屋に向かうと、その鍛冶屋で何人かのガラの悪い男どもが大きな声を出していた。

すぐにアレッタが気配を消して、俺の背中に隠れた。


「オラ、今すぐ金を返すか、奴隷になるか、どちらか選べ!」

イキって吠えたのは孤児院の先輩ホルガーだったので、声をかけた。

「おい、どうしたんだ?」

「やかましい!殺され・・・」

ホルガーが喚きながら振り返り、俺に気付いて固まった!


「ああっ、コイツ誰だ?知っているのか、ホルガー。」

「あのっ、孤児院の後輩で、Bランク冒険者です。」

「あん?Bランクって、噂のハーフオークか?今、取り込み中だ、失せろ!」

役に立たないホルガーを荒々しく突き飛ばして、俺に怖い視線をくれたのは40歳くらいのスキンヘッドの強面。


その向こうには、顔の倍以上の大きさの、鳥の巣みたいなフワフワ髪(※アフロ)の少女が体を縮こませて怯えていた。


ディアナもスキンヘッドの怖い視線を浴びてちょっと震えていた。

いや、1対1の殺し合いならディアナもアレッタも楽勝だけどね。


「コイツをこの店で買ったけど、直してもらいに来たんだ。」

俺は硬い硬いハイオーガや硬い硬いハイオークをぶん殴って歪みに歪んでいるメイスをぐっと差し出した。


スキンヘッドの強面はうっと体をほんの少しだけのけ反らせたが、強気な言葉を吐いた。

「鍛冶師はもう死んだ。もう、直せないから他の店に行きな。」

「そこに女の店員がいるじゃないか。」

「あいつは鍛冶師の娘で、今、借金を取り立てているところだ。しばらく、待ってろ!」


ディアナとアレッタが俺の袖をツンツン引っ張っていた。

じっーと俺の目を見つめてきた!可愛い・・・

じゃなくて、あの子を助けて欲しいのかな?あの子も孤児だもんな。


「へえ~、娘なんだ。ちなみに借金はいくら?」

「てめえには関係ないだろ!」

ドン!

偉そうな口を叩いたスキンヘッドの強面のすぐ傍に、メイスを思いっきり振り下ろしてやった。

土煙があがって、地面を叩いた音で初めてメイスを振ったことに気付いたマフィアどもは、力の差を思い知って青ざめていた。


「おい、それは俺に言っているのか?

もしそうなら、このメイスをお前らの頭にぶち込んでやるぞ。」

脅かしてやるとスキンヘッドの強面は態度を改めた。

「悪かった。」


「借金の額を教えてくれ。」

「・・・利子含めて大金貨13枚(650万円)だ。」

「借用書を出せ。娘さん、読んでみろ。」

「は、はい。」


鳥の巣頭のドワーフの娘が借用書を読み上げた。

「・・・返済が滞った時は、店と販売品を差し押さえる。(大金貨8枚相当)」

「娘さん、俺たち3人は孤児院出身の冒険者パーティだ。

この店を諦めて、俺たちに雇われないか?

そうしたら、大金貨5枚出してやるけど、どうする?」

「こんな顔の大男だけど、ホントに優しいよ☆」


ドワーフの娘は俺とディアナ、俺の腋の下から覗いているアレッタを見比べた。

少し考えて、スキンヘッドの強面を見ると、俺に向かって硬い笑顔を見せた。

「おーきに。オニイサンたちのお世話になるわ。よろしゅうな。」


マフィアどもが騒めいた。どうやら目論見を潰してしまったようだ。


ドワーフの娘が身の回りの品を取りに行っている間に、借用書と大金貨5枚を交換した。くっ。これで手持ちの大金貨が無くなってしまった。どうしよう・・・

ドワーフの娘が大きなリュックを背負って出てきたので、さっさと家に帰ろう。


「邪魔したな。」

軽く手を挙げると、スキンヘッドの強面、ホルガーやマフィアの連中が怖い視線を向けていた。

マフィアに恨まれてしまったな・・・


黙って5分ほど歩いてから、前を向いたまま口を開いた。

「ディアナ、アレッタ、尾行されてないか?」

「「大丈夫。」」


ようやく緊張を解くと同時に、ドワーフの娘さんも大きく息を吐いた。

そして、馴れ馴れしく話かけてきた。

「助けてくれて、おーきにな。

あんたらの家に行く前に、寄って欲しいとこがあんねんけど。」


ドワーフの娘の名前はディーデレック。15歳。ドワーフ♂と人♀のハーフ。

背は女子としては普通の160センチくらい、鳥の巣みたいなフワフワの髪(※アフロ)を入れて。


「ちょっと、ゴメンね☆」

ディアナがディーデレックの頭に上から手を置くと、10センチほどぺったんこになった。背は150センチくらいで、ドワーフにしては背は高い方だ。

胸とお尻がデカいわがままボディで、童顔の可愛い子だ。

マフィアどもが娼婦にしようと企むワケだ。


「ええよ、ええよ。気になるもんなぁ。

ああ、ここや、ここ。ちょっと待っててやぁ。」

ディーデレックは挨拶もそこそこに奥に入っていったのはとある商会だった。


「おーきにな。ホンマ、助かったわ。また、よろしゅう。」

店主に愛想よく挨拶したディーデレックは大きな盾と剣と短めのメイスを抱えていた。


「それは?」

「アイツらから隠していたんや。アイツらにはもったいない逸品やからな。」

「さっさと売っぱらっていれば借金は返せたんじゃ?」

「お父はんの傑作なんや。ワケの分からん奴に売れるかいな。」

「なるほど。この武器があいつ等に見つかったらヤバいからさっさと家に帰ろう。」


家に帰ると、もう一度、自己紹介をすることにした。

「リュークだ。親は知らないけど、たぶん何かのハーフ。」

「ディアナです☆犬人のハーフで15歳です☆斥候兼剣士だよ☆」

「アレッタ。猫人、ハーフ。斥候兼射手。」

アレッタは人見知りを発揮して顔を真っ赤にして片言で、しかも早口で話していた。


「三人揃って、冒険者パーティ『ハーフムーン』、参上☆」

ディアナがキメポーズを極めた!たった一人で!

アレッタと二人で考えたキメポーズだけどな。

「あ~、リュー兄ィ、アレッタ、ずるい~☆3人でやろうって言ってたじゃない☆」

恥ずかしくて、キメポーズなんて出来ませんでした!

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