勇者一行、パーティーに招待される
「勇者たちよ、よくぞ暗黒教団の野望を打ち砕き、暗黒破壊神を打ち破ってくれた。そなたらはこの世界の英雄じゃ! 未来永劫語り継がれようぞ!」
今度こそ世界に平和が訪れたことを知った賢者の父親こと王様は、有頂天なまでに喜び、俺たちを英雄と讃え、盛大な宴を開いた。
「怪物の爪が油断した勇者に迫る! そこに素早く割り込んで来たのが、この私。私は怪物の爪を受けながらヤツの顔に速射魔法を浴びせかけて視界を防ぎ――」
「おおおおっ!」
いかにも高価そうなタキシードやドレスを身にまとった紳士淑女を前にオーバーリアクションで自らの武勇伝を語って聞かせている着飾った女性。信じられないかもしれないがあれは女剣士だ。
周囲の王侯貴族や著名人達が感心したような歓声を上げているが、俺をダシにするのは止めてもらいたい。
さらに奥で色とりどりのドレスを身にまとった令嬢達に囲まれてあたふたしている戦士の姿が見えた。
それを見て「かわいい!」と湧き上がる令嬢達。あのうすらデカい戦士がかわいい!?
「まさか姫様が勇者一行の一員となって暗黒破壊神を倒していたとは!」
「姫様こそわが国の誉です! ぜひ、わが息子の嫁に!」
「いや、わが家に!」「わが国に来て下され!」
一方でハゲたり腹が出ているオヤ……壮年の貴族達に取り囲まれているのが賢者だ。魔王を倒した後と異なり、今度ばかりは逃げられなかったようだ。
あいつはこの国のお姫様だったこともあり、ドレスにティアラというお姫様スタイルが実に似合っている。しかし、貴族達に取り囲まれ、どう考えても困っている様子だ。
そんな風に仲間たちの様子を見ながら壁の花になっていると、賢者と目があった。賢者は一瞬笑顔になり、
「あっ、勇者ー!」
俺に向けて手を振り、周囲の貴族達に一礼してからその輪から抜け出してこちらにやってきた。ったく、どいつもこいつも俺をダシにするなってんだ。
「んもー、まいっちゃうよ。だからお姫様って嫌なんだ」
そうため息をつく賢者は一〇本の指すべてに指輪をはめ、さらにネックレスやらイヤリングやら腕輪やらをじゃらじゃら嵌めていて、まるで貴金属の見本市だ。
「お前、それまさか……」
「ん、これ? 勇者もいる?」
そう言って懐から取りだしたのは拳ほども大きな宝石――ダイヤモンドだ。
「ほとんどニセモノだけどね。あの人たち、本物持ってるくせにこういう所にはニセモノしか付けてこないんだよ。つまんないの」
「いるかバカ! しまっとけ!」
そうだこいつ、お姫様はお姫様でも盗み癖が抜けなくて城から追い出されたんだった。
「こんな所にいたんだ」
冒険の時とはひと味違った着飾った女剣士がグラス片手にやってきた。どうやら、武勇伝は一通り話し終えて満足したらしい。
「おいおい、せっかくの祝賀パーティーなのに全員集まってきたのかよ」
女剣士の後ろからは令嬢達の群れをかき分けてこちらに向かってくるタキシード姿の一際大きな男が見えた。
「上流階級の人と話してると肩が凝るのよ。わかるでしょ?」
「そういう割に、さっきはノリノリで人をダシに使って武勇伝語ってたじゃねーか」
俺がからかい気味に言うと、女剣士は「うるさいわね」と俺の頭をチョップした。
「でも……あたしはみんなといるのが安心できるかな。この後も一緒に旅をしてまわりたいよ」
「あら、奇遇ね。私もそうよ」
賢者と女剣士が頷きあっている。戦士も笑顔だ。
「ねえ、勇者。あなたはどうなの? この後、もしよければ引き続き私たちと――」
女剣士の問いかけに俺は即答できなかった。俺は……。
その時、部屋の反対側で歓声が巻き起こった。そちらの方を見ると、人だかりができており、その中心にいかにも質の良さそうな服を着た金髪の青年がいた。
「うげ」と賢者が呻いたことから、王子か誰かなのだろう。
王子らしき青年は周囲に集まってきた貴族や令嬢達にさわやかに挨拶すると、何かを探すように周囲に頭を巡らせると一転、笑顔になって足早にこちらに向かってきた。
賢者がそれを見て女剣士の影に隠れたのが見えた。振り返った戦士と目があった。ヤツも少々困り顔をしている。
それがこの世界で俺が見た最後の光景だった。
「勇者ご一行とお見受けします」
青年がにこやかに話しかけてきた。いかにも手がかかっていそうな仕立ての良い純白の服を着ている。特筆すべきはそれが嫌味にならないどころか、それを見事に着こなしていることだ。高級品を身につけ慣れている、さわやかそうな好青年だ。
賢者が女剣士の後ろに隠れた。女剣士のドレスを掴む手に力がこもり、ドレスに皺ができた。
「この度は世界の危機を救っていただいたことに、国を代表して感謝申し上げます。おっと、失礼。申し遅れましたが、私はこの国の――おや、勇者どのはどちらに?」
「えっ?」と女剣士と賢者が振り向いた。
そこには、丁寧に磨かれた壁と、そこに取り付けられた装飾も美しい金の燭台が辺りを照らしているだけだった。
「勇者、消えた」
聞き慣れぬその声の方を見る女剣士と賢者。
「ええっ!?」「あ、あんた……」
戦士がそこまで勇者のいた方を指さし、驚愕に目を見開いていた。
「しゃべれたの!?」「戦士がしゃべったー!」
驚くのはそこかよ! と突っ込む者はもうこの世界にはいない。
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