第26話 ネゴシエイション

 いつもなら、だだっ広い『クエスト探求・コレクティ集団ブ』の広場だが、今日は違う。


 冒険者たちが大勢集まり、ざわめきが広場を満たしている。


 その目的は一つ、『デヴォアラーアント貪る蟻』の駆除だ。

 駆除に来たパーティは、それぞれの経験を誇示し、情報を交換し合っていた。

 

 各パーティが、他のパーティと互いに自慢話や噂を交換している。「東のダンジョンで大金を手に入れた」とか、「西の狂乱オーガを討伐したのはオレだ」といった声が広場を飛び交う。


 そんな中、オレはいつも指示をだしてくる、ギャスバールさんに言われたパーティを探していた。

 そして、探している途中に声をかけられる。


「よう、この前の荷物持ちくんじゃないか」


 声をかけられたが、オレは誰だか分からなかった。

 しかし、しばらく顔を見ていると、思い出した。


 この人、ミストスライムの時の…


「あ…あの時はお世話になりました」


「よせよ。お世話になったのは、オレたちの方だぜ。荷物を運んでくれて、相当にたすかったよ。ありがとな、ぼうず」


「い、いえ…えっと…」


 オレは名前を忘れていた。


「おいおい、もう、オレの名前を忘れたのかよ…? つれないなぁ…」


「ご、ごめんなさい…」


「なんてな。一回しか組んでないんだから、覚えてなくて当然だ。オレはガレック。今度は覚えておけよ。え~と…オレも覚えてなかったわ。あはは」


 少し冗談めいた喋り方で、自分も覚えてなくてバツが悪いのか笑ってごまかそうとガレックはしていた。


「ボクはレイです。ガレックさん」


「ああ! そうだった。そうだった。レイくんだったね。そんじゃ、今日もよろしくレイくん」


「えっ…?」


 オレは予想外な展開に素っ頓狂な声を出してしまった。


「オレの荷物持ちは、今回もガレックさんのパーティなんですか?」


「あれ、ギャスバールさんから聞いてなかった? 『シルバーストライク銀の一撃』って言ってたろ?」


「あ、そうだったんですね。すみません、気づきませんでした! ガレックさんたちだったんですね」


 オレはガレックさんたちのパーティだということに喜んでしまった。

 間違いなく、今まで荷物持ちしたパーティの中では一番強かったからだ。


「選んでくれてありがとうございます。オレ、がんばります」


「ああ、がんばってくれよ。って、いってもキミは前も頑張ってくれたしね。信頼してるよ。じゃあ、ついておいで。こっちだ」


「はいっ!」


 オレは力強く返事をした。


 そのあと、しばらくガレックさんの後ろについて歩いていくと、ほかのメンバーたちと合流した。


 そして、「今回もよろしくね」とメンバーみんなと挨拶をする。


 …さて、今回はいいパーティにあたったし、大丈夫そうだな。


 後は…


 アリの分泌液をどうやって定着剤に使うのか分からない。

 解体するにしても手順が分からないし、ただ死骸を持ち帰るわけにもいかない…


 どこかで教えてもらわないと…どうするかな…

 

 …ガレックさんにでも聞いてみようか?


「…あの、少しお聞きしてもいいでしょうか?」


 オレがガレックさんに尋ねると、他のメンバーと話している途中だったが中断してくれた。

 すこし、申し訳なくなった…


「あの…お話中すいませんでした…」


 オレはガレックさんに謝罪をする。

 だが、きさくに「気にするな。他愛のない話だったしな」と、言ってくれた。


「それで、なんだい?」


「あの…えっと、今回のアリの駆除なんですけ…アリの分泌液の採集の仕方ってわからないでしょうか?」


 オレはさすがに丁寧語で訪ねた。


「あはは、硬い話し方するねぇ。もっと、砕けてくれていいんだぞ」


「あ…はい。ごめんなさい…」


「別に謝る必要はないさ。それで、採集方法だったね」


「はい。そうです」


「そうだな…オレも知らないんだよな。けど、既に倒す魔物が分かってるし、冒険者ギルドに採集は手配済みだ」


「っ!!」


 そうだったな…

 既に倒すべき魔物が分かっているんだ。

 手配を済ませておいても、不思議じゃない。

 

 けど…それじゃあ、オレが手に入れれない… 


 なら、どうする?


「………」


「ん? どうした、レイ?」


 オレは少し考え込んでいたが、意を決してダメもとで尋ねてみることにした。


「あ、あの…よかったら、そのアリの液体をオレに分けてもらえませんか? もちろんただでとは言いません。オレが貯めている銀貨が100枚くらいあります…それでも、足りないのなら…その…魔鉱石のかけらがあるんです…それで、どうですか?」


 少し震えた声でオレが尋ねると、ガレックさんは少し驚いた表情をしたが、すぐに笑って答えた。


「ほう、なかなかの提案だな、レイ。銀貨100枚に魔鉱石の欠片か…うーん、悪くはないが、正直、採集した液体は相当な量だから、もっと手間がかかるかもしれん」


「えっ…」


 オレは少ししょんぼりした。


 確かにそれは予想していたが、諦めるわけにはいかない。


「でもな、こういうのはパーティ全体の問題だからな…他のメンバーにも相談してみないと決められない。お前が本気だということは分かった。だから、オレも力になりたいとは思っている」


 ガレックさんはそう言って、ちょっと考え込む素振りを見せた。


「ちょっと待ってくれ。みんなにこの話を伝えて、意見を聞いてやるよ」


 その言葉に、オレは希望の光を見出した。


 ガレックさんが他のメンバーに相談してくれるなら、可能性があるかもしれない。


「お願いします、ガレックさん! オレ、頑張りますから!」


「おう、レイ。お前の気持ち、しっかり受け取ったぜ。少し待っててくれ」


 ガレックさんはそう言うと、他のメンバーの元へと歩き出した。オレはその背中を見送りながら、なんとかこの取引が成立することを願った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る