第27話 トラスト

 ガレックさんが、他のメンバーにオレの提案を伝えてくれた。

 他のメンバーも「別に問題ないんじゃない?」と、オレの提案を受け入れてくれた。

 液体の量に応じてになるから、金額の問題は後回しになった。


 スカウトのケインさんは、採集方法を知っているが、それには手間がかかるうえに、少し毒性があると言った。おそらく酸性かアルカリ性なのだと思うが、専用の道具がないと少し危険だということもわかった。


 そうだとすると、もし手に入れても、マントに塗るときはどうすればいいのだろうか…?


 一つの問題が解決すると、また新たな問題が浮かび上がる。


 オレはため息しか出なかった。


「はぁ…」


「なんだ、なんだ? 今度はどうしたんだ、レイ?」


 その問に、オレは素直に言うべきかどうか悩んだ。

 けど…

 液体は手に入った。

 でも、扱い方が分からない…では、何にもできないな。

 それに、マントになんて塗っていると正直目立ちすぎて、大人たちにバレるかも知れない…

 そうなると、結晶の粉のこともバレて、大変なことになるかも…


 それなら…いっそ…

 

 オレに友好的に接してくれてるガレックさんに全て話して、相談に乗ってもらうほうがいいんじゃないか? と、思った。


 そう思い、オレは全てを話す覚悟をする。


「ガレックさん、実は…」


 ―――


 オレは全てを話した。


 結晶を少しづつ持ち帰ったこと、その結晶を粉にしてマントに塗りこんで定着させようとしていたこと。さすがに、能力のことは伏せた。


「…お前、本当にそんなことしてたのか?」


 ガレックさんは少し呆れたように言ったが、その表情には驚き以上に、ほんの少しの笑みが浮かんでいた。


「まあ、関心するよ。お前みたいな年でそんなリスクを取るなんて、正直なところ驚いたな。でも…オレはお前が気に入った。あはは」


 ガレックさんの笑顔に、オレの緊張が少しだけ解けた。


「…ただ、そんな簡単にいくのか? ほんとに?」


 彼は疑いの表情に戻る。


 正直、オレも確信はない。

 でも、『アーセナル・ユニオン鉱石鑑定結合』で浮かんだ文字に従うなら…成功するはずだ。


「できると思います」


 自信があるわけではないが、そう答えるしかなかった。


「ふむ…まあ、何でも初めてはあるってもんだ。オレの知り合いに染色屋がいる。そいつに頼んでやるから安心しろ」


 ガレックさんは快く引き受けてくれた。

 オレは話して正解だったとことに安堵したと同時に感謝の気持ちも生まれた。


「あのそれで…粉についてなのですが…」


 ガレックさんは他に聞かれてはまずいと思ったのか、耳打ちをしてきた。


「…あんまり、そのことは大きな声で喋らない方がいい。どこの誰かに聞かれると、おまえもまずくないか?」


 たしかに…

 

「粉のことは、あとでオレに渡してくれればいい、一緒に持って行ってマントを製作してやるよ」


「お、おねがいしますっ!」


 オレは、もうガレックさんに託すことを決めたのだった!

 素人が下手にやるよりも、手馴れている人に任せた方がいいだろう。

 ただ単に、液体を塗るだけならいいが、こんな作業はまったくの素人のオレには荷が重すぎる…


「だけど…レイはオレが持ち逃げするとは考えないのか?」


 …それは、少し思ってはいた。

 けれども…


「…最初に謝っておきます…それは、正直考えました…ごめんなさい。けど…オレがここで製作していても、目立ちすぎて、何をしてるのか問われ、何もかも取られるかもと考えるとガレックさんに相談したほうがマシではないかと思ったんです…すいません、天秤にかけました…」


 そう正直にオレが話すと、真剣に聞いていたガレックさんが口を開く。


「…それは、ここの人より、オレを信頼してくれたってことだよな?」


「はい、そうです」


 オレは力強く答えた。


 ガレックさんはしばらくオレをじっと見つめ、少し考え込むように黙った。

 しかし、次の瞬間、彼は微笑んで肩をすくめた。


「はは、まあ…そういう正直さは嫌いじゃないぜ、レイ。オレだって、誰かに何かを預けるときは同じことを考えるもんだ。何かを手に入れるには、リスクを取る必要があるんだからな」


 その言葉に、オレはほっとした。

 ガレックさんが理解してくれていることが、少しずつ実感として感じられる。


「ただ、これだけは覚えておけよ。信頼ってのは片方だけで作るものじゃない。オレもお前を信用してる。だからお前もオレを信じて、もう心配するな」


 ガレックさんは、あたたかい目でそう言った。

 オレは思わずうなずいた。


「わかりました…本当に、ありがとうございます」


「いいってことよ。あとはオレに任せておけ。染色のことなら、染色屋にちゃんと話して、いい物を作らせてやる」


 ガレックさんは軽く手を振り、安心させるように笑った。


「それにしても、お前みたいな年でこんな大きなことを考えるなんてな…オレも昔はそんなに先を考えられなかったぜ」


 オレは少し照れながらも、ガレックさんの言葉に自分の選択が間違っていなかったと思えた。

 彼に任せて、きっと大丈夫だ。


「じゃあ、レイ、粉と液体が揃ったらオレに渡してくれ。それで、染色を頼んでみるよ。結果は楽しみにしておけ」


「はい、よろしくお願いします!」


 ガレックさんとのやり取りが終わり、オレは少し安心した。

 これで一つの大きな問題が解決しそうだ。

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