第25話 ままならない…
防護マント制作のため、オレはダンジョンの荷物持ちとしての探索を続けていた。
余剰してもいいと思い、エネルギー結晶とフォトン結晶の欠片ばかりを少しづつ持ち帰っていた。
あまり、欲をかいてたくさん持ち帰ろうとすると、間違いなく見つかるだろうと判断したためだ。
ついでに、ゼロポイント結晶も探してはいるが、あれから全く見つからない…
予想だが、どこかのパーティーが見つけ持ち帰っていたところ、たまたま欠片だけが落ちていたのではないかと思えた。
そうなると次に見つかるのはいつになるか、分からない…
エリナの傷を治したいのにもどかしくて、たまらない…
エリナはもう立ちがっても大丈夫なくらい回復はした。
その回復ぶりに、だれもが舌を巻いた。
とくに、あのヤブ医者が驚いていた。
しかし…
思いのほか、傷は深く、エリナは足を引きずっている…
歩くのには支障はないが、それでも負担はあるだろう…
それに…
…エリナの顔の右側に魔物の爪痕であろう傷が縦に十センチに満たないが、傷跡が残ってしまっている…
その傷を見るたびにオレの心が傷んでしまう。
エリナは気にしないでとほほえんでくれるが…
その笑みには寂しさが陰っていた…
…くそっ!
オレの胸には日が経つにつれなんとかしてやりたい思いだけが募っていった。
この一ヶ月、オレはダンジョンに潜るパーティがあれば、ほぼ毎回荷物持ちとして同行していた。だが、肝心のミストスライムには一度も遭遇できなかった。
あの冒険者は、相当に運が良かったのか…?
ミストスライムでなくても定着材を得られそうな魔物を探していたが、これまでのところ、何も収穫はない。
しかも、今回のパーティもあまり強くないため、奥深くまで進めず、前の冒険者はなんだかんだで強かったのだと、実感した。
しかも、奥へ進めてないから鉱石だって皆無に等しい。
浅い場所だと、みんな取り尽くしているのだろうな。
けど、オレにとっては宝の山だ。
みんな見逃している、破片や欠片をどんどん手に入れている。
けど、ほとんどがエネルギー結晶とフォトン結晶の欠片だ。
…いや、それでもいいんだけどね。
4人分のマント作るなら、全然足りないくらいだしな。
そんな間でも、ゼロポイント結晶も探しているが見つからない。
オレはほぼ諦めかけて、荷物持ちの仕事をしていた。
パーティが弱いと採集も上手くいかず、冒険者たちは報酬でさえ赤字になることもある。
オレの取り分は期待できないが、それでも別に構わない。
使い道も特にないし、元々せがむつもりもない。
…ちょっと、せつないけどね。
そして今回も不発で終わり、結局粉末は着実に溜まっているが、なかなか次に進まない苛立ちから、オレは深い息を吐いた。
「はぁ…」
そんな折、最近ここ『
大人たちがそんなことを話しているのを聞き、オレは最初は大したことではないと思っていた。
しかし、そのアリというのが、ひとつの個体が人の前腕部ほどの大きさで、体は黒と緑の縞模様を持っているらしい。さらに、光沢のある甲殻は、光を反射してまるで金属のように見えるという。特に、獲物を捕らえるための鋭い顎を持ち、攻撃的な性格をしているとのことだった。
しかも、そのアリは雑食性で、人を襲うこともあるらしい。
「なにそれ…怖すぎる…」
特に危険なのは、そのアリが数百匹にも増える可能性があることだ。
過去にどこかの村が襲われ、壊滅しかけたこともあった。
住民たちは恐怖におののき、命からがら逃げ出したという話が伝わっている。
そんな危険なアリが近くにいるとなれば、業者の『
最初は関係ないと思っていたオレだが、アリが分泌する液体が高値で取引されていると聞いて、状況は一変した。魔道具工房や建築、楽器職人に至るまで、この液体は多くの工房で重宝されるのだ。
しかも、討伐自体は楽だという話で、冒険者にはおいしい話なのだそうだ。
「へぇ…」
その話を耳にした瞬間、オレの心は踊った。
そして、その液体がオレの求めている「定着材」として使えることを知ったのだ。
それを知ったオレは、心の底から喜んだ。
「これで、マントが作れるかもしれないっ!」
その思いに駆られ、いてもたってもいられなくなり、是非とも荷物持ちに志願することにしたのだった。
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