第3話 転生
気がついたのは古ぼけた馬車の中だった。
隣には見知らぬ大人がいた。
その人たちは、オレを気遣って話しかけてくる。
「レイ、喉は乾いてない?」
と、薄ぼけた衣服を纏った三〇十歳前後の女性が口を開く。
レイ? レイってダレのことだ?
オレは何を言っているのか、分からない顔をしていた。
「おい、レイッ! 母さんが尋ねているんだっ。なにか言わないかっ!」
と、強い声でレイと呼ばれる人を叱っていた。
「いいのよ、あなた。レイも疲れてるのよ。そんな、怖そうな声をださないで。ねぇ、レイ。怖いわよねぇ」
そう女性が言っているのだが、レイと言うのが誰か分からない…
だが、ずっと、オレの顔を見ているから、たぶんオレのことなのだろうとは思えた。
「レイ…ごめんね…こんなところに連れてきてしまって…だから、わたしたちに何も話してくれないのかしら…うっ」
女性は、たぶんオレが何も喋らないから、そんな風にしたのが自分たちなんだと、自分を責めているようだった…
「レイッ! おまえ、いい加減にしろよっ! 母さんに謝りなさいっ!」
こちらも三〇歳前後であろうと思える男性がオレに向かって叱ってきた。
オレは、混乱の中、とりあえず、母さんと呼ばれるひとに謝ることにした。
「ご、ごめんなさい…か…かあさん…」
すると、女性はすこし微笑み返してきて安心したかのような表情を浮かべた。
「レイはいい子ね…でも、わたしたちのせいで…」
なんのことだが分からないが、女性はまた暗い顔をした。
「…自分を責めるな…悪いのはオレも同じだ…オレが不甲斐ないせいで…」
その男性もなにかを悔やんでいる表情で母さんと呼ばれる人に誤った。
―ガタンッ!
そんな時、馬車が急に止まる。
何事かと思っていると、馬の嘶きのような声と蹄であろうか、馬の足音が一気に増えてきた。
そして、間髪入れずに悲鳴も上がってくる。
馬車の外は混沌とした状況に包まれていた。
耳をつんざくような悲鳴が響き、激しい衝突音が続く。
何が起きているのか、混乱した頭では理解できない。
ただ、目の前の二人の温かさが、自分を守ろうとしていることだけは感じ取れた。
「レイ、ここにいろ!」
男性の声が響く。
彼は強い意志を持って、自分をかばおうとしていた。
しかし、周囲の暴力が彼らを飲み込み、まるで運命が彼らに悪戯を仕掛けるかのように見えた。
次の瞬間、何かが飛び込んできた。
暗闇の中から襲いかかる影。
馬車は揺れ、悲鳴が一段と高まった。
全てが一瞬で覆される感覚。
目の前で、彼らは次々と倒れていく。
「レイ、怖くな…いよ…私たちがい…るから…大丈夫…」
と、そう告げると女性はその場で血まみれで倒れてしまった…
その瞬間、彼は自分が何者であるのかを考える暇もなく、ただ目の前の光景に呆然としていた。
彼らの必死な行動、無力さを痛感する。
やがて、混沌が静まり、周囲に広がるのは不気味な静けさだけ。
倒れた二人の姿が目に入った。
自分のために命を懸けてくれたその人たちを、彼はどうすることもできなかった。
その時、影が近づいてきた。
冷たい手が彼をつかみ、力強く引き寄せられる。
抵抗する暇もなく、レイは連れ去られてしまった。
彼の運命は新たな世界へと続いていくが、その背後には二人の無念が残されていた。
未だに、なにが起きているのか、なにがどうなっているかも分からないまま、人が死にオレを守ってくれた人もなくなってしまった。
オレの胸の中は悲しみの波で荒れていた…
次から次へと涙が溢れて止まらない…
連れ去られながら、嗚咽し声を殺しながら泣いた…
何故こんなに悲しいのかは分からない…
それでも、悲しくて寂しくて不安で泣いていた…
泣いて泣いて、涙が枯れるほど泣いて、泣き止んだ時にはオレの目の前には大きな門の前に立たされ、少し待つと中にへと連れて行かれ囚われてしまった…
そして、そのなくなった二人がこの世界の親だと知ったのは、ここで数日過ごした後だった…
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