第4話 現代の方がマシだった…?
「この、役立たずがっ!」
―ドカッ!
「ぐっ…」
魔力もない、剣の才能もない…
そんなオレにできるのは、この業者『
今日も、仕事が遅いとラーフェンさんがオレを蹴飛ばしてくる。
ここの仕事といえば、道具の運搬、室内の掃除、剣や魔法の稽古後の後片付け、解体した魔物のゴミ処理…
何もできないオレたちには、そんな雑用しか割り振られない。
盗賊にさらわれ、ここに売られてから1ヶ月…
その間、オレが受けたのは屈辱と暴力ばかりだった。
仕事が遅ければ蹴られ、間違えれば蹴られ、確認をするために質問しても蹴られ、少しでも休もうとすれば蹴られる…
何をしても、蹴られるだけだ。
なんだ、この世界は…
前の現実よりも酷いじゃないか…
前の世界なら、授業中や帰宅すれば少なくとも暴力はなかった。
けど、ここじゃあ、四六時中暴力の嵐だ…
だけど…
いいことが一つだけある。
それは、時間が余りすぎて、父さんや母さんの事に悩まないで済むことだ…
前の世界じゃあ、一人部屋に帰っては、母さんへの心配、父さんへの恨み言ばかり考えてしまい、精神的にきつかった…
だけど…ここでは、そんな事はない…
いや、出来ないが正しい。
そんな暇などなく働かされ、くたくたになって飯を食って部屋に戻ったら即寝る…
そんな毎日で考える暇がなかった。
それだけが唯一、救われたところなのかもしれない。
そうそう。
ここは飯もひどくまずい。
うっすいクズ野菜しか入っていない、水のようなスープに、ガリガリでスープに浸さなければ食べれないほど、硬いパン…しかも、味があるのかないのかわからない程にまずい。
スープはまるで何日も煮込まれた水のようで、野菜の形すらほとんど残っていない。
おそらく、これがオレの毎日の食事になるのだろうと考えると、胸が締め付けられる。
パンは、噛むたびに歯が折れそうになり、すぐにでも味が失われそうなほど、ただの空気をかみしめている気分だった。
さらに、これが「食事」と呼ばれるものかと思うと、心の底からため息が漏れた。
まずい×まずいは…とんでもない味になっていた…
それでも…それが唯一の食事だ…
食べなければ生きていくことすら出来ない…
オレは死ぬことを願っているはずなのに…
皮肉な話だ…
これなら…あのまま、いっそ死なせてくれればよかったのに!
オレは自分の不運を呪った。
なぜ、こんな世界に来てしまったんだ?
この無意味な人生で、オレに何をしろというんだ?
ただ、他人の不満のはけ口になるために生きているようなものじゃないか。
だったら…あの時、死んでいた方がマシだった。
くそっ…くそっ…!
しかも、この体は何なんだ?
幼児の体…何歳なのかすら分からない。
オレはどうしてこんな姿で、こんな場所に来てしまったんだ…
それに、何故この子なんだ…
ここに連れ去られる前の記憶…
特にこの子の両親の記憶を思い出したのは、ここに連れてこられてからだ。
この子の父親は「オレが不甲斐ないばかりに…」と言っていたが、そういうわけでもなかった。
前の世界のオレの父と同じような感じだ…
頑張って村のために尽くしたのに、理解力の低い人たちから白い目で見られ、村を出て行く羽目になった。
なんだよっ! それっ!
まんま、前の世界と同じじゃないか…
なんで、こうまで似たようなところに生まれ変わらなければならないんだ…
この世界に神様というのがいるのであれば、どちらの神様もひどくネジ歪んだ、いい性格をしているらしい…
こうなれば、オレは気さくで気のいい悪魔にでも出会いたいと思える程だ…
どうやら、この子の村は魔物? 『ウィザーリングトード』に襲われたらしい。
大きな体を持つそのカエル型の魔物は、光沢のある肌を持ち、湿った場所に生息する。
特に食料が不足している時期には、彼らが集団で襲来することがある。
ウィザーリングトードの特徴は、毒液だ。
彼らが村の田畑を荒らす際に作物を枯らしてしまう。
そのため、村の人々は彼らを恐れ、収穫時期には特に注意を払わなければならない。
剣での攻撃が通りにくいのも、彼らの肌が滑りやすいからだ。
どうしても退治しなければならない状況に追い込まれた村人たち。
だが、結局何もできずにウィザーリングトードの襲撃を受けるしかなかった。
自警団の長であるレイの父親がどうにかしようと奮闘した。
だが…力及ばず、結局何も出来ないまま徒労に終わってしまった…
それを、レイの父親の責任だとされ、村人たちから追及される羽目になった。
しばらくはその村で暮らしてはいたが世間の目に耐えれなくなり、結局は村から出ることになった。
そして、別の村に向かっている途中に襲撃にあったという、この世界なら、どこにでも転がってそうな話だ…
だが、この体の持ち主にとってはやはり両親であり、その両親を尊敬していた…
その両親が略奪者に殺害されてしまい、この子の心は悲しみに溢れていた…
それが、ここに連れてこられるまで泣いていた理由なのだろう…
「………」
それは、そうだろうな…
オレだって、こんな状況になったら悲しみに暮れてしまうだろう…
それ以前に、魔物の襲撃により村から出て行くまでの間、この子も前の世界のオレと同じように、苛められていた…
この子も、オレと同じように辛さ故に『死』を望んでいた…
そして、村を離れる時になってこの子は心のどこかで安心していた。
にも、かかわらず…この仕打ちだ…
もう、不運という言葉しか浮かばない。
「ほんと、神ってヤツはどいつもこいつも…」
それとは別にやはり、オレには、なぜこの子なのかという疑問があった。
もしかしたら、オレとこの子の境遇が似ていて、彼の中にオレの意識が入り込んだのだろうか?
そして両親が殺され、この子の心が死んでしまい、代わりにオレが生かされてるのだろうか…?
なんの、具体的には根拠を持たないオレはそれくらいしか思い浮かばなかった…
「………」
そして、レイの心には辛い思い出が蘇る。
「なんでこの世界でも、前の世界と同じ目に合わなければならないんだろうな…はぁ…」
ため息をつきながら、オレは雑用をテキパキとこなしていく。
少しでも早く仕事を終わらせれば、蹴られる回数が減るからだ。
何かが間違っていると分かっているのに、どうすることもできない。
この無力さに押し潰され、ただこの世界で生きるしかないオレは…
現代に戻りたい…
本末転倒なことだが、それが今のオレの本心だ。
そして、周りを見渡すと、オレと同じくらいの年齢の子供たちが黙々と働いている。
みんな、オレと同じような諦めと疲れた表情をしていた。
ざっと見ても三十人はいるだろう。
田舎のひとクラスよりも多い人数だ。
しかも、この『
訓練場は森の中にあり、運動場くらいの大きさで、周囲は高い木々に囲まれている。
木々の間からは薄明かりが漏れ、湿った空気が漂っていた。
足元には湿った土と枯れ葉が散らばり、雑草が生い茂っている。
訓練場の周りには、古びた丸太を使った柵があり、魔物が生息する森を警戒するために作られている。
その内側には、雑多な道具が置かれた小汚い道具部屋がある。
そして、少し離れたところに監視小屋が佇んでいた。
入口には厳つい門番が立ち、出入りする者を監視している。
こうした状況の中で、オレたちは雑用に追われる日々を送っている。
そんな中、一人の女の子がオレに話しかけてきた。
話していると、ろくな目に遭わないぞ…
そう言いたかったが、周りを見渡すと今は皆休憩をしている。
それを見て、オレも少し話してみてもいいのかと思った。
彼女の名前は『エリナ』。
オレとは違い、彼女は三男三女の末っ子で、口減らしのために売られてきたらしい。
どちらにしろ、未来に希望なんてものはない…
オレも、彼女も、似たような絶望の中にいることには違いないのだから…
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