第41話 タキヒコ夫妻、新しい家族を迎える②
「ほれ、ここが我が家じゃ。街の雰囲気からはちと浮いておるかもしれんが、分かりやすくてよかろう」
「すげえ……本当に、この家に住んでもいいのか?」
「ああ、我が家と思えるようになるには時間がかかるかもしれんが、そう思ってくれれば嬉しいばい」
そう言いつつ玄関の扉を開けると、丁度帰り支度をしていたガジュ君と、見送りに来ていたらしいファビリアの姿が見える。
二人はスギの姿を見て不思議そうな表情を浮かべたが、身寄りのない子を引き取ってきたのじゃと伝えると、すぐに事情を察してくれた。
ガジュ君はワシらの後ろに隠れるようにしたスギに歩み寄ると、頭をわしわしと撫でまわし、明るい口調で語りかける。
「お前、良かったなぁ! 最高の両親に育ててもらえるっすよ! 詳しいことは分からねえけど、安心して二人を頼るっすよ!」
「わわ! 何するんだよ、くすぐったい!」
「それと、この家は女の子が多いからいろいろ注意するっす。そこのファビリアみたいに気の強い子ばかりじゃないから、こっちが気を遣ってやるっすよ!」
「誰の気が強いですって? もう一度言って……こら! 逃げるなガジュ!」
さっと身を翻して玄関の扉をくぐったガジュ君は、あっという間に遠くへ走り去っていった。
今度来たときはただでは済まさないと息まくファビリアをなだめつつ、皆にスギのことを紹介したいから呼んできてもらうように頼み込む。
ため息を吐きながらも二階へ向かう姿を見送った後、ワシらはスギを連れて台所へ向かい、彼を椅子に座らせる。
スギは初めて見る設備に興味津々な眼差しを向けており、その内に使い方を教えてやると言ったところ声を上げて喜んでおった。
その様子は年相応の男の子といったもので、この家に連れてくるという判断は間違っていなかったのだと、改めて確信するのじゃった。
「お父さん、皆を呼んできたわよ――あら? お茶なら私たちが用意したのに」
「気にせんでええよ。たまにはワシが淹れるというのも良いじゃろう。お茶はこのままワシが持っていくけん、菓子の用意ば頼むぞい」
娘たちが降りてくる前に飲み物を用意してしまおうと思っていたのじゃが、少々遅かったらしい。
ワシの言葉に頷いたファビリアがお菓子を用意している間に、残りの娘たちもやってきた。
お茶とお菓子が全員にいきわたった後、改めてスギのことを紹介したのじゃが……。
「これから一緒に暮らすの? やった、お兄ちゃんだ!」
「おにーちゃん、カイリがおうちのこと案内してあげる!」
「あ、ずるい! アイリも一緒に案内する!」
アイリとカイリは自分たちに兄ができたと大騒ぎじゃ。
自分たちが家を案内してやると言って聞かず、スギもその勢いにたじたじになっておる。
その一方で、先に顔を合わせたファビリアと、元から落ち着いておるレイチェルは特に問題なくスギのことを受け入れてくれた。
何の相談もなく連れてきたことについて詫びると、ワシとヒサコさんの判断なら心配することはない、ということじゃった。
感謝するワシに気にするなと返した二人はスギの方に目を向け、早速妹たちに振り回されている彼の様子に苦笑いを浮かべておる。
「二人とも、そのくらいにしてあげないとスギが困っているわよ」
「案内は二人に任せるから、まずはお茶にしましょ。せっかくお父さんが淹れてくれたんだから、飲まなきゃもったいないわよ!」
「「はーい!」」
「……はあ、はあ……助かった……」
レイチェルとファビリアがその場を収め、ワシらはつかの間の休息を楽しんだ。
その後は、アイリとカイリが中心となって家の案内をしてやり、ワシらは服や食器などの細々としたものを揃えてやるのじゃった。
「さて、後は店に関してのことを説明すればおしまいじゃが……」
「ごめん、ちょっと、待ってくれ……!」
「「おにーちゃん! 次はこっちー!」」
家の案内自体は終わったはずなのじゃが、アイリとカイリが自分たちの気に入っている場所巡りを始めておる。
腕を引かれるスギもこの二人には強く出られないようで、されるがままじゃ。
今日のところは一旦ここまでにして、夕飯の用意をしようかのう……。
「スギよ、夕餉の支度ができたら呼ぶけん、もうしばらくの間二人に付き合ってやってくれい」
「わ、わかった……なるべく早く頼むよ……!」
「「はやくはやくー!」」
引っ張られていくスギの必死な訴えを受けたワシは早速厨房に立ち、大なべを火にかける。
手早く用意できて旨いものと言えば、やはりうどんじゃろう。
お湯が沸くまでの間に具材と汁を準備して、その後は麺を一気に茹で上げる。
続けて全員分の器に素うどんを用意すると、レイチェルたちにも手伝ってもらい、大皿にのせた具材と共に食卓へ運ぶ。
あとは各々が好きな具を乗せれば完成じゃ!
「さあ、皆の衆! 夕餉の支度が整ったぞい!」
ワシの呼び声に、家族全員が集まってくる。
皆で囲む食卓は賑やかなもので、スギにとっては憧れていたものの一つだったのかもしれん。
目の端に薄っすらと浮かんだ涙はすぐに拭われ、笑顔でうどんをすする彼の表情は幸せそうなものじゃ。
今までどれ程辛い思いをしてきたのか……ワシにそれを推し量ることはできないが、彼のこれからの人生にささやかな幸せを添えてやることくらいはできるつもりじゃ。
スギの今後に幸あれと願いつつ、ワシもうどんを口に運ぶのじゃった――。
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