第34話 タキヒコ、取り調べに協力する

 翌日の昼を過ぎたころ、冒険者ギルドからワシらの家に使いの者がやってきた。

 ドンダー達の移送も無事に終わり、今はアリシアさんたちが屋敷から押収した資料を調べているということじゃ。

 既に領主との癒着を示す証拠がいくつか発見され、一部は早馬で王都へと送られたらしい。

 ワシは急いで支度をすると、捜査に合流すべく冒険者ギルドへと足を運ぶ。

 案内された部屋にはアリシアさんをはじめとしてデイビットさん、モルダーさん、ロージーさんがそろい踏みしておった。

 机の上には書類や帳簿が山のように積まれており、それを見つめる彼らの顔つきは険しい。



「ただいま到着しましたぞい。少々遅くなってしまったかのう?」

「いや、問題ない。呼び出したのはこちらだからな……」



 ワシの声に反応して、アリシアさんが顔をあげる。

 目の下には薄っすらと隈が浮いておるが……まさか寝ておらんのか?



「アリシアさんや、あまり無理をされては体に障りますぞ」

「この程度で倒れるほどやわな鍛え方はしてねえよ。それに、ドンダーの一件が領主の耳に入る前に準備を進めたい」

「アリシアの言うとおりだ。ざっと調べただけで、30人もの少女が領主の下へ連れていかれている……放置はできないよ」

「記録を調べたが……一番新しいもので半月前だ……。厳しいことを言うが、全員無事という訳にはいかないだろう……」

「なんと……! ある程度は覚悟しておったが、それほどまでか!」



 モルダーさんの言葉で、思わず握りしめた拳に力が入る。

 下手を打っておれば、レイチェルもそのような運命を辿っておったということじゃ。



「タキヒコ様、どうか怒りをお沈め下さい。お気持ちは重々お察ししますが、まずは領主の身柄を押さえなければいけません」

「分かっておりますぞ、ロージーさん。気ばかりが急いてしまって申し訳ないわい」

「そこで冷静になってくれるのはありがたいな。王都へ早馬を送ってはいるが、返答が来るまでにはもうしばらく時間がかかるだろうからな」



 デイビットさん曰く、緊急時の連絡に利用する魔道具を預かってはいるものの、むやみに使うことはできないらしい。

 ワシとしては一刻も早く領主の身柄を確保し、その罪に見合った報いを受けさせてやりたいところじゃが……。

 今は、堪えるときじゃ。

 少なくとも、実行役のドンダーは牢屋に放り込まれておる。

 ここで領主を取り逃がしてしまわんように、確実に追い詰めなければなるまい。

 


「よし、それでは改めて調査を進めよう。カミアリ君は、これから行うドンダーへの取り調べに協力してくれ」

「うむ、承知した。自分の犯した悪事について、洗いざらい吐いてもらおうかのう」



 そうして、ワシとデイビットさん、ロージーさんがドンダーの下へと向かう。

 牢屋に入れられたドンダーと手下たちは、さぞ騒がしくしておるのじゃろうと思っておったが……。

 彼らを閉じ込めている一画に近づいても、話声ひとつ聞こえない。

 不思議に思って牢屋を覗き込んでみると、ドンダー含め全員が、一様に沈黙しておった。



「なんじゃ、思っておったより静かじゃのう」

「ひぃ! な……なんでお前がここにいるんだよ!」

「何を当然のことを聞いておるんじゃ? ワシもこの街の住人じゃよ? お前が攫った、ワシの娘と同じくな……?」

「ああ、謝ります、謝りますから! 命だけは……!」



 どうやら、ワシに叩きのめされたことがよほど響いておるのじゃろう。

 すっかり怯え切っておるドンダーの他、手下たちはうめき声を上げて後ずさっておった。



「これは……カミアリ君、彼らにいったい何をしたんだい? 話に聞いていた悪党が、ああまで怯えるなんて」

「確かに大立ち回りを演じはしたんじゃが……ここまで怯えられるとは思わんかったのう」

「タキヒコ様の威光に恐れを成しているのでしょう。さすが、神のごときオーラを纏われる方……!」

「それはもういいんじゃて。ひとまず、大人しく話をしてくれそうで良かったとしておくのじゃ」



 ワシの言葉に頷いた二人が、手下たちから順に話を聞いて回る。

 念のため取り出したバットを片手に全体を見渡しておるが、おかしな動きをする奴はおらんようじゃ。

 取り調べはその後も順調に続き、1時間程度で全員から話を聞き出すことになった。

 途中からロージーさんが震えておったことが気になるのじゃが……何があったのかは戻ってから聞くことにしよう。



「これでお前たちへの取り調べは終わりとする。後は沙汰が下るまで、ここで大人しくしているがいい」

「わ……わかった。いいから早く行ってくれ! そいつが近くにいると思うと、体が妙に震えちまう!」

「随分と嫌われたものじゃな……まあ、構うまいて。デイビットさん、ロージーさん、帰るとしようかの」



 ワシらが帰っていく背後から大きなため息が聞こえてくるが、それも自業自得じゃて。

 レイチェルを襲った恨みは忘れんからの。

 当分の間は、ワシの影に怯えてもらうとするのじゃ。

 そう思いつつアリシアさんたちのいる部屋へと戻ったのじゃが……。



「ここまでくれば、もう他に人目はありませんね……?」

「ロージー? 気持ちは分からなくもないが、少し抑えろ」

「それはできない相談です! よりによって教会が? 悪党どもと手を組んで? その上で領主とも癒着していると? ふざけるんじゃない!」



 顔を真っ赤にしたロージーさんが、怒り心頭といった様子で叫んでおる。

 なるほど、教会がらみの悪事まで明らかになったということか。



「よりによって、人々の拠り所となるべき教会まで腐敗していたとは! デイビット、魔道具を貸しなさい。教皇様に直接お話させていただきます!」

「ロージー……落ち着け……。お前の持っている権限でも、魔道具の適用が認められるか、正直微妙な線だぞ……?」

「心配ご無用です、モルダー! タキヒコ様たちのことも併せて伝えれば問題ありません! よろしいですか? タキヒコ様!」

「お、おう……事態の解決が早くなるなら、ワシは別に構わんが……」

「ありがとうございます! それでは、少々席を外させていただきますね!」



 お礼の言葉を残し、部屋を飛び出していくロージーさん。

 ワシらはその光景を呆然と眺めるしかなかったのじゃが……。

 それから半刻ほどの後、意気揚々とした表情で戻ってきたロージーさんが信じられないことを告げる――。



「皆さま、お喜びください! 領主の館へ踏み込むための王命を頂いて参りましたぞ!」





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