第29話 タキヒコ夫妻、アリシアの友人と邂逅す

「あなた様は……この地に舞い降りた神であらせられますね?」

「いや、断じてそんなことはない! ワシはただの一般人じゃ!」

「否! そんなはずはない! あなた様の身を包むオーラ……この輝きこそ、神たる証明! そっ……そうでなくては説明がっ!」

「ええい、さっきから何を言うておるんじゃ!」



 男は興奮のあまり理性を失っているようで、ワシの話を聞いちゃおらん。

 だんだんと顔を寄せてくるせいで、今にも吐息が顔にかかりそうじゃ。

 よく観察すると、その頬は紅潮し、心なしか目も潤んでいるように見える。

 これは……傍から見たら相当まずい光景になってしまっておらんか?

 なんだかとても嫌な予感がするのじゃ。



「はぁ……はぁ……ついに、ついに私は神の御姿を目にすることができた! 神よ! 今こそ我が信仰を捧げ――っ!」

「あたしの目の前で! 夫に! なんばしようとか!」



 ヒサコさん渾身の体当たりをくらい、男はきりもみしながら吹っ飛んでいくが……。

 なんと、空中で体をひねるとそのまま受け身を取って立ち上がった。

 さすがに足取りがふらついておるが、それでもワシらをじっと見つめてじりじりと歩み寄ってくる。

 正直なところ、今すぐにでもヒサコさんを抱えて逃げ出したいのじゃ。



「なんと……更に眩いオーラを放つスライムですと? おお……今日は何という日だ!」



 いかん、こやつヒサコさんにまで目をつけよった。

 ワシだけならまだしも、妻にまで魔の手を伸ばそうとするのなら、相手などしておれん。

 ヒサコさんを肩に乗せ、今まさに逃げ出そうとしたその時――。



「いい加減に落ち着け、ロージー。おいモルダー、こいつの頭から水でもかけてやれ」

「ああ……まったく、普段は大人しい奴なのに、神様がらみになるとすぐこれだ……」



 厳つい鎧を着た男が、神官風の男を羽交い締めにした。

 その横ではモルダーと呼ばれた文官風の男が水筒をひっくり返し、頭に水をかけておる。

 ロージーとは、あの男の名前じゃろうか?

 


「――っは! 私としたことが、つい興奮しすぎてしまいました……。お二人とも、申し訳ありません」

「謝るんなら、そっちの二人にしな。何が何だかわからないって顔をしてるぜ」

「そうでした……! 神在タキヒコ様、そしてヒサコ様、この度は誠に申し訳ございませんでした!」



 そう言って、ロージーと呼ばれた男はワシらに頭を下げてきた。

 その後ろでは、彼を正気に戻した二人がやれやれといった顔をしておる。

 それにしても――。



「落ち着いてくれたのならよいのじゃが――なんで、ワシらの名前を知っておるんじゃ? あんたら、この街のもんじゃなかろう?」



 ワシらがこの街に来てからそう長くはないが、それでも彼らのような人物がいたのなら間違いなく記憶に残っておるはずじゃ。

 そうでないというのであれば、つい最近……それこそ今日にでもこの街にやってきたという事になるが……。

 はて、何か大事なことを忘れておるような気がするのう?



「三人とも! 着いていたんなら連絡のひとつでもよこしやがれ!」



 アリシアさんが人垣をかき分けてやってきた。

 口ぶりからすると、この三人とは旧知の仲のようじゃが……そういえば今日あたりご友人が到着すると言うておったのじゃ。



「おや、これはアリシア君。元気そうで何よりだ」

「『元気そうでなにより』じゃねえ! ロージー、お前いきなり何やってんだ!」

「我を忘れていたことは確かですが……アリシア君にはわからないのですか? 彼らの持つオーラが普通ではないことが!」

「わからねえよ。俺はただの冒険者にすぎん。お前のように神様から特別な目を授かるような敬虔さは持ち合わせていないんだよ」

「そ、そうでしたか……。我がことを当たり前のように思ってしまうとは、私もまだまだ精進が足りないようですね……」

「あまりロージーをいじめてやるなよ、アリシア。神様がらみになると見境がなくなるのは昔からだったろう」

「そうそう……それでデイビットとアリシアが俺を身代わりに残して逃げるのもいつものことだったよな……」

「モルダー、そう卑屈になるな。あれは尊い犠牲というやつだ」



 聞こえてきた短い会話だけで、彼らが気安い関係なのだということがよくわかる。

 久しぶりの再会なのじゃろうが、お互いに遠慮することなく言葉を交わし合っておる。

 まあ、それはそれとして――。



「アリシアさんよ、そろそろ街の人らに宿舎を開放してやってくれんかのう。皆待ちくたびれてしまうぞい?」

「おっと! すまない、つい思い出話に花が咲いちまった」



 アリシアさんは慌てて街の人たちの下へ向かうと、宿舎の開放を宣言した。

 沸き起こる歓声と共に、各々が割り振られた部屋へと向かっていく。

 一度に大勢が押し掛けないように、冒険者たちが誘導しておるようじゃな。

 ある程度人の流れが落ち着いたところで、アリシアさんが戻ってきた。



「待たせたな。向こうはギルドのメンバーに任せてきたから、心配しなくても大丈夫だ」

「いやいや、そんなに待ってはおらんよ。相変わらず手際が良いのう」

「そう言ってくれると助かるぜ。それで、こいつらが話していた俺の友人たちで……」



 アリシアさんに促され、三人が順に自己紹介をしてくれた。

 鎧を着ておる、精悍な体つきの青年がデイビット。

 少年にも見える、線の細い文官風の男がモルダー。

 ワシを押し倒そうとした、神官風の男がロージー。

 皆、王都で将来を有望視されておる期待の新星ということらしい。



「デイビットだ。君達のことはアリシアからの手紙で知っている。この街のために奮闘しているそうじゃないか」

「モルダー。……まあ、内政官見習いと言ったところだ。よろしく……」

「先ほどは大変な失礼をば……。私、ロージーと申します。見ての通りの神官ですね。」



 挨拶ひとつとっても、三者三様じゃのう。

 改めて、アリシアさんの交友関係の広さには驚かされるわい。

 その後はワシらも彼らに自己紹介をし、互いに握手を交わしておったところで、何やら宿舎の方が騒がしくなってきた。

 一人の冒険者がやってきて言うには、街の人たちがワシらにお礼を伝えたいと集まっておるそうじゃ。

 その気持ちを無下にはできんと彼らの下へ向かうと、大歓声でもって出迎えられた。

 口々にお礼の言葉をかけてくれる人たちの中には目に涙を浮かべておる人もおったが、その表情は一様に明るいものじゃった。

 そんな彼らの体から溢れる淡い桜色の光は、ひときわ強い風と共に舞い上がると、空に特大の【幸】という文字を描く。

 そして、これまで同様にワシらの体に光が吸い込まれていくと、頭の中に声が響いてくる。



【幸福度が溜まり、神在タキヒコのスキルが解放されました】

【スキル解放により、【拠点】を合計5つまで作成することが可能になりました】

【併せて、拠点をさらに大きくすることが可能になりました】

【スキル解放により、現在出店中の【うどん屋】で提供する品に効果が追加されました】

【スキル解放により、『うどんセットメニュー』が利用可能になりました】


============================

唐揚げうどん    銅貨7枚 肉系モンスターへの特攻付与

肉うどん      銅貨7枚 攻撃力アップ

姿えびうどん    銅貨7枚 攻撃力アップ

カレーうどん    銅貨7枚 攻撃力アップ

お子様うどん    銅貨7枚 魅了系スキル効果アップ 

============================


うどんセット

============================

かしわご飯     銅貨2枚 うどんの付与効果量アップ

いなり(5個)   銅貨2枚 うどんの付与効果量アップ

白おにぎり(3個) 銅貨2枚 うどんの付与効果量アップ

============================


「す、凄い……お二人のオーラがますます強くなっている……」

「ロージー、今度は暴走するんじゃないぞ」

「わ……分かっていますよ。しかし、こんな光景をこの目で見ることが叶うとは……!」



 どうやら、ロージーさんにはこの光が見えておるようじゃな。

 先ほど目がどうのとか言っておったが、王都の神官様ともなると何か特別なことがあるのかのう。

 それは追々聞くとして、そろそろ帰らんと娘たちも心配し始める頃合いじゃな。



「さて、あまり長居しすぎても邪魔になってしまうじゃろうし、ワシらはそろそろ――」



 帰りますじゃ、そう言おうとしたのじゃ。

 しかし、その言葉がワシの口から出るより先に、娘たちがおる方角から絹を裂くような悲鳴が響き渡ったのじゃ――。





===========================

読んでいただきありがとうございます。

面白いや、続きが気になる! と思ってくださったら

★や♡での応援よろしくお願いします!m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る