第26話 タキヒコ、アリシアさんと話し込む
「皆! 今俺たちの前にある建物は、このカミアリが皆のために作ってくれた宿舎だ!」
「見た目よりもずっとたくさんの部屋があります。ギルドのメンバー全員が、ここで寝泊まりすることも可能です!」
宿舎の確認作業を手伝ったのであろう、職員の方を交えつつ注意事項が伝えられていく。
皆真剣に聞いておったが、特に注意が必要と言われておったのはごみの処分についてじゃな。
どうやら宿舎ごとに専用のごみ捨て場があるようで、そこに捨てたものは、ほとんど何でも魔素に変換されるという事じゃった。
確か、魔素が強くなると魔物も活性化するという事じゃったから、それを警戒しておるのじゃろう。
……ワシが【聖者】である間は心配ないと思うのじゃが、注意するに越したことはない。
特に、スタンピードという災害を経験したこの街では、魔素の扱いは特に慎重なものになるじゃろう。
「各部屋にはトイレもあるし、別の建物には浴場もあるが、きれいに、大切に使うように!」
「当たり前っすよ! 汚く使う奴なんて俺たちの中にはいないっすよ!」
「それが当然だ! もし大事に使わない奴がいたら追い出しちまうから覚悟しておけよ!」
「そうっすよ! ゴミ捨て場に放り捨てられないように気を付けるっす!」
「ガジュ! てめえ、俺がドンダーたちみたいなことするわけがねえだろうが!」
ガジュ君とアリシアさんのやり取りにドッと場が沸く。
その後は部屋の割り振りが行われて宿舎が開放されたのじゃが、それぞれの部屋へ確認に向かった冒険者たちの、雄叫びや感謝の叫びが聞こえてくる。
そしてその声が響く度、部屋から放たれる桜色の光が珠となり、ワシとヒサコさんに向かって飛んでくる。
とめどなく続くその幸福の波を感じておると、ひときわ大きな【幸】と言う文字が現れ、同時に脳内に声が響いてきた――。
【幸福度が溜まり、神在タキヒコのスキルが解放されました】
【スキル解放により、【拠点】を合計4つまで作成することが可能になりました】
【併せて、拠点をさらに大きくすることが可能になりました】
【スキル解放により、現在出店中の【うどん屋】で提供する品に効果が追加されました】
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みそうどん 銅貨6枚 冷気への耐性アップ(少)
キムチうどん 銅貨6枚 熱への耐性アップ(少)
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どうやらスキルが上がったようじゃな。
確認は後でするとして……今は、この桜の花びらが舞うかのような光を眺めていよう。
きっと、皆も不安だったんじゃ。
この荒廃したトケターリスの街で、満足な住みかもなく過ごすことがどれほど酷かは、想像に難くない。
たとえ屈強な冒険者であっても、不安じゃったじゃろう。
何回か行った炊き出しで、食事については多少ましになった。
今回呼び出したの宿舎で、住みかについても多少の改善ができた。
それでも――。
「本当に、ワシに出来る事は限られておるなのじゃな……」
「カミアリ?」
「いや……どうもせんよ。人々が生きるために大事なことを2つ、自らの手で助けることができたのは……誉だと思っただけじゃ」
「お前……」
「うぬぼれるなと言われてしまうかもしれん。けど、これがワシの本音じゃよ」
そう、ワシに出来る事は限られておる。
これからこの街で人々が生きていくために、必要なことは山のようにある。
その中で、僅かばかりでも手助けができたという事実は、何物にも代えがたい誉なのじゃと思う。
(しかし……この現状を見てしまうと、このまま今の領主に任せるのは、いささか問題があると思えるのう)
「……なあ、アリシアさんよ」
「……どうした。あまりいい顔をしていないようだが」
「この街のことじゃよ。真っ当な住みかが用意されただけでもこの喜びようじゃ。今の領主のままでは問題があるとしか思えんのじゃが、いかに?」
「……そうだな」
「その内、女神様から罰が当たりますばい」
「ははは、カミアリが言うと本当のことになりそうだな。……そうそう、前に話した俺の友人たちだが、今度の炊き出しの日には到着しそうって話だ」
「おお! それはまことですかな!」
「ああ。これで何かが変わってくれると良いんだが……」
そう言って目を伏せたアリシアさんの友人は、地位や身分が高い方ばかりじゃと聞いておる。
そんな方々を友人と呼ぶアリシアさん自身もまた、立場のある人物なのじゃろう。
それをおくびにも出さず、それでいてこれ程に人望が厚いということは、彼自身が立派な人物である証明じゃ。
ワシは、そんな彼のことを信じたいと思う。
「アリシアさんよ。ワシらは、ワシらに出来ることを続けていきますばい」
「ああ、そうだな」
「お友達が来たら、是非挨拶させてくだされ。もっとも、挨拶出来るような身分ではないかもしれませんがな」
「謙遜するな、カミアリは凄い男だと自慢してやりたいくらいだぞ」
「ほっほ。そうありたいと思いますばい」
喜びで沸き上がるマンションに、沢山の冒険者たち。
そしてそれを眺めるワシとその家族。
それをじっと見つめる姿があったことに――この時はまだ気が付いておらんかったのじゃ。
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