第25話 タキヒコ、帰宅する

「ただいま帰りま――ぐふっ!」



 家の扉を開け、帰宅した旨を皆に知らせようとした途端、腹部に強烈な衝撃を感じた。

 見ると、アイリとカイリの二人がしがみついてきておる。

 どうやら、ワシが帰ってくるのを玄関で待ち構えていたらしい。



「「おとーさん! おかえりなさい!」」

「ただいま。二人とも、出迎えありがとうの」



 痛みを堪えつつ二人の頭を撫でておると、奥からレイチェルとヒサコさんが顔を覗かせた。

 ワシの苦しそうな顔を見てか、レイチェルはやれやれといったような、ヒサコさんは若干ばつの悪そうな表情を見せておる。



「すまんのう。アイリもカイリも、タキヒコさんが帰るまで玄関で待つと言って聞かんかったんじゃよ」

「お帰りなさい、お父さん。……二人とも? そろそろ話してあげないとお父さんが苦しそうよ?」

「「んー!」」

「構わん構わん。ちと驚いただけじゃて」



 腹に顔をうずめたまま首を横に振る二人をなだめつつ、ヒサコさんから詳しい話を聞く。

 なんでも、ワシが消火のために飛び出した後暫く、アイリとカイリは興奮して泣き止まんかったらしい。

 レイチェルとファビリアも、火事で両親を亡くした時のトラウマが呼び起されたのか、起きてしばらくの間は震えておったという……。



「消火が終わったころにようやく落ち着きを取り戻してのう。皆でタキヒコさんの帰りを待っていたのじゃが……」

「ガジュさんの叫び声がここまで聞こえてきたんですが、とうとう居ても立っても居られなくなってしまったみたいで……」

「アイリたちを私とレイチェルに任せてもらって、お母さんを送り出したの! そしたらびっくり。お母さんったら、ベランダから勢いよく飛び出して行っちゃうんだもの!」

「ファビリア!? そのことは黙っといてくれと言っておったのに!」

「あ! いけない! お父さん、今の忘れて!」



 あの時ヒサコさんが上から降ってきたのはそういう訳じゃったか。

 ワシも無茶することはあるが、ヒサコさんも大概じゃなあ……。

 そんな風に思っておったことに気づいたのか、ヒサコさんに小突かれてしもうた。

 


「けど……改めて思ったわ。 お父さんとお母さんが居れば、怖い事なんて何もないわね!」

「ふぁっふぁっふぁ、そりゃワシらを過信しすぎじゃ。危険というものはどこにいたって付きまとう」

「そうじゃな……特にファビリアとレイチェルは年頃の可愛い娘じゃ。悪漢どもに何かされんよう、気を付けるんじゃぞ?」

「「わたしたちはー?」」

「アイリとカイリも気をつけんといかん。無論、何かあればすぐに助けに行くがの。それまでの間に怖い思いをするのは間違いない事じゃからな?」

「皆のことは必ず護るし、助け出す。あたしらに任せんしゃい!」



 そう宣言するワシらに、レイチェルとファビリアは真剣なまなざしを送っておる。

 ワシが強く頷きを返してニカッと笑うと、何かがツボに入ったのか二人ともクスクスと笑い、それを見たアイリとカイリも共に笑っておった。



「……なんぞおかしなことでも言ったかのう……?」

「違うわ! 怖い事が起きても、二人が助けてくれるなら安心だと思ったの!」

「頼れる人がいるのって、こんなに嬉しいことなんだなって思ったら、つい笑ってしまいました」



 そう言って再び笑い合う娘たち。

 この様子なら、今日のところはもう心配なさそうじゃな。



「ようし、それじゃあ朝食にするぞい。その後は皆でうどん屋の開店準備じゃ!」

「……その前にアイリとカイリ、顔を拭くからそこで待っておれ。そんで……タキヒコさんは、風呂に入ってきんしゃい!」



 しもうた、そういえばワシも煤まみれになっておったじゃないか。

 ワシにしがみついていた二人も、顔に煤がついてしまっておる。

 うっかりしておったわい……。

 すごすごと風呂場へ引っ込んだワシは急いで汗と汚れを流し、皆の食事を用意するのじゃった。

 そして開店準備を整え、うどん屋ののぼり旗を掲げると……。



「カミアリさん! うどん食べに来たっすよ!」



 案の定、開店1番の客はガジュ君じゃった。

 妹さんの容態もすっかり安定したらしく、その報告がてらうどんを食べに来たということらしい。



「あれ、メニュー増えてるっすね。何々……『釜揚げうどん』に『わかめうどん』、『野菜かき揚げうどん』って、この効果!? スゲェ!」

「なんだって? ……おいおい、マジかよ!?」

「採取依頼って結構きついんだよな……この『野菜かきあげうどん』の効果って革命じゃね?」



 どうやら、新メニューは冒険者たちにも好評のようじゃな。

 幾つも効果を重ねたいという声はあったのじゃが、さすがに無理だと伝えると残念がっておった。

 まあ、予想しとった通り効果度外視で大量に食べる者もおったがの。

 


「そういえば……んぐ……ギルマスから聞いたんですけど。もぐ……昼には宿舎についての案内があるんすよね?」

「食べるかしゃべるか、どっちかにしんしゃい」

「ん……。ごちそうさまっす! で、どうなんすか?」

「うむ。昼過ぎにギルド前で案内をするといっておったのう」

「了解っす。消火の手伝いに家のことまで……妹のこともあるし、改めて感謝させていただくっす! それじゃあ、また後で!」



 そうしてガジュ君が帰って行った後も客足は途切れることなく、昼過ぎまでうどん屋の営業を続けたワシらは急いで片づけを済ませるとギルドへ向かったのじゃった。

 子供たちは新しいギルドホールに目を輝かせており、集まっておる冒険者たちも期待に満ち溢れた表情をしておる。

 それにしても……街の人たちの姿がないのう?



「お、カミアリ。もう来ていたのか」

「先ほど来たところですじゃ。それにしても、集まっておるのは冒険者の方たちだけなのかのう?」

「ああ、まずは冒険者に向けて半分を解放する。2、3日生活してみて、そこで分かった問題点を解決してから街の人たちに向けて開放する予定だ」

「なるほど、確かに初めての建物だと勝手がわかりませんからのう」

「ああ、街の人たちには申し訳ないが、待たせてしまう代わりに引っ越しの手伝いはギルドで引き受けるという事で話をつけてある」



 さすがの手際じゃ。

 やもすると不満が溢れるというのに、きれいに場を収めておる。

 感心しながらアリシアさんと話し合いながら、宿舎の立ち並ぶ場所まで移動する。

 ワシらの後ろには冒険者たちもついて来るが、付いてきたいと言われて連れてきた娘たちを可愛がってくれておるようで安心じゃ。

 そして宿舎の前まで来て立ち止まると、アリシアさんは全員の方を向いて話し始めたのじゃ――。





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